お役立ち情報 2024

2024年40号(2024/10/31)

<タックスニュース>関経連 税財政に関する提言  高所得高齢者の年金停止を要望

 関西経済連合会(松本正義会長)はこのほど、「社会保障を中心とする税財政に関する提言」を公表した。「中長期的な視点に立った社会保障制度・税財政に関する提言」と「2025年度税制改正に関する要望」がそれぞれ取りまとめられ、社会保障制度・税財政に関する提言では、年金以外の所得が高い高齢者への老齢基礎年金の支給額削減や支給停止を求めている。

 提言では、健全な財政構造の構築に向けて「高齢化の進展等に伴い膨張してきた社会保障費の見直しが重要」と指摘。必要とされる程度に応じた給付・負担とするために「年金以外からの所得が一定以上の高齢者を対象とした老齢基礎年金の支給額の逓減あるいは支給の停止」と「公的医療保険における疾患の重篤度や発病確率に応じた自己負担割合への見直し」が必要として、高所得高齢者の負担増を提言した。

 社会保障制度・税財政に関する提言ではほかに「現役世代の負担軽減に向けた公的医療保険における自己負担の見直し(全世代原則同率負担)」、「公的医療保険・介護保険における標準報酬月額の上限引き上げ」を主張。社会保障費の伸びを抑制する仕組みづくりに向けては「医療・介護の給付費(対GDP比)に関する目標の設定」、「医療の保険料率のさらなる引き上げを抑える仕組みに関する検討」の必要性を訴えた。

 また、2025年税制改正への要望としては、(1)企業の成長力強化の後押し、(2)所得拡大の後押し、(3)地域活性化の後押し――の3本柱を掲げた。その具体策として、(1)では「中小企業経営強化税制の延長および税額控除の上乗せ措置の創設、中小企業投資促進税制の延長」と「企業が独自に行う人材育成等に関する費用の税額控除、個人が失業・休業中に学び直しをする場合に転職後の収入から複数年にわたってその費用を控除できる『能力開発控除(仮称)』の創設」、(2)では「企業型DCおよびiDeCoの掛金上限額の倍額程度への拡大」と「子育て世帯の家事・育児関連サービス利用料の税額控除の導入」、(3)では「企業版ふるさと納税制度の恒久化、適用対象範囲の拡大」と「特定公益増進法人に対する寄附金に関する特別損金算入限度額の引上げ・限度額超過分の繰り越し」を求めた。

<タックスワンポイント>領収書税務署が認める支払証拠の4項目  レシートでも要件満たせばOK

 得意先を接待して領収書をもらう。気持ちよく飲んでいたせいもあって滑舌が悪かったのだろうか。「宛名は上でいい」と言ったつもりが、翌日に財布に入った領収書を見ると、なんと宛名は「ウェデイ様」に……。

 領収書とは会社がお金を支出した証拠であるため、税務調査で見られた際に、それが正しい内容であると証明できれば事足りる。証拠とするために必要な項目は、日付、金額、内容、相手の4つだ。そのため、領収書よりもレシートのほうが信頼性が高いと見られることは多く、必ずしも領収書に限る必要はない。紙切れに手書きされたものであっても、しっかりと説明できれば何ら問題はない。仮に宛名が「ウェデイ」や「ブランク」であっても、その裏に接待した相手や人数などをしっかり書いておけば基本的に認められないことはない。さらにいえば、領収書をもらえないケース、例えば香典や割り勘の飲み代などは、上記の4つの事項を自分でメモとして書いておけばよい。調査で税務署から疑われたとしても、ここまで証拠を残しておけば、それをウソだと税務署が証明するのは難しい。

 ただ、正式な領収書ではなく何でもいいとなると、ただでさえインボイス制度によって手間が増えている中で、社内の経理担当の負担が重くなる。領収書の宛名などは税務署に向けた対策ではなく社内ルールとして定めておくべきではあるだろう。

2024年39号(2024/10/24)

<タックスニュース>国税庁 徴収部長会議  キャッシュレス納付の利用拡大を

 国税庁はこのほど「全国国税局徴収部長(次長)会議」を開催し、キャッシュレス納付の利用拡大に向けた取り組みについて情報を共有した。キャッシュレスではない現金納付は国税全体の6割で、その大半が金融機関の窓口経由という現状を踏まえ、金融機関等との連携で利用勧奨に取り組むとしている。

 国はキャッシュレス納付の割合を令和7年度までに全体の4割に高め、将来的には申告手続きのオンライン利用率と同程度に引き上げるとしている。令和5年度の速報値ではキャッシュレス納付は全体の39%で、4割の目標には到達する見込み。キャッシュレス納付以外では、金融機関窓口が54%、コンビニ納付が5.1%、税務署窓口が1.9%となっていることから、金融機関をはじめとして、関係民団体や地方公共団体との連携を図り、利用勧奨を進める。会議ではさらに、「特に納付機会の多い源泉所得税(自主納付分)を納付している納税者に対するキャッシュレス納付の利用勧奨に取り組んでいく」として意見交換を行った。

<タックスワンポイント>言ってはいけない退職勧奨のタブーワード  労働者有利時代のスムーズな交渉方法

 会社から従業員に自主退職を促す退職勧奨で、二つ返事で「はい、分かりました」と事が運ぶことを期待してはいけない。働く者としては職を失うのだから当然で、当該社員から「なぜ自分が、なぜ今?」との反発は想定内にしておく必要がある。退職勧奨に絶対に必要なのは「正当な理由」。「個人の売上が低いから」「やる気がなさそうだから」「人が余っているから」といった企業サイドの一方的な理由では、退職の強要となり、裁判では損害賠償の対象にもなり得る。退職勧奨にあたっては1度の面談で結果を引き出そうとせず、また本人が拒否しているのに執拗に退職を求める行為は避けたい。

 退職強要や不当解雇などと見られないため、言葉も慎重に選ばなくてはならない。たとえ経営者の本音であっても、「育休を取るなんて悠長な職場じゃない」などは絶対のタブーワードだ。こうしたパワハラ、マタハラまがいの言葉は、退職強要を超えて男女雇用機会均等法や育児・介護休業法にも明確に違反し、罰則の対象となる。同様に、労働組合活動を理由とした退職勧奨も労働組合法をはじめ各種労働法規に抵触するおそれが高い。もちろん、退職勧奨の拒否を理由とした解雇が正当なものと認められるケースは少ない。解雇が難しいから退職勧奨をしていることは忘れずにいたい。

2024年38号(2024/10/10)

<タックスニュース>全法連が税制改正提言  事業承継税制の拡充求める

 全国法人会総連合(全法連、小林栄三会長)はこのほど、「令和7年度税制改正提言」を理事会で決議した。「中小企業の活性化に資する税制措置」「事業承継税制の拡充」「消費税への対応」の3項目について提言している。

 税制改正スローガンには「『金利のある世界』が到来。新たな財政再建目標の策定を!」、「企業への過度な保険料負担を抑制し、経済成長を阻害しない社会保障制度の確立を!」、「人手不足など厳しい経営環境を踏まえ、中小企業の活性化に資する税制措置を!」、「中小企業は地域経済と雇用の担い手。本格的な事業承継税制の創設を!」の4つを据えた。

 経済活性化と中小企業対策として挙げたのは「中小企業の活性化に資する税制措置」「事業承継税制の拡充」「消費税への対応」の3項目。

 中小企業の活性化に資する税制措置としては、(1)大法人に適用される法人税率引き上げに関する慎重な検討、(2)中小法人に適用される軽減税率の特例15%の本則化もしくは適用期限延長と、適用所得金額の引き上げ、(3)中小企業投資促進税制と少額減価償却資産の見直し、(4)中小企業経営強化税制や先端設備等導入計画にかかる固定資産税特例の見直し、(5)インボイス対応等の中小企業の事務負担軽減策――を要望した。事業承継税制の拡充では、(1)事業用資産を一般資産と切り離した本格的な事業承継税制の創設、(2)取引相場のない株式の評価の見直し、(3)相続税、贈与税の納税猶予制度の充実――の3項目を提言。消費税への対応では、インボイス制度に問題があればその是非を含めて見直すことを求めている。

 このほか、役員給与の損金算入の拡充、少額減価償却資産の見直し、企業版ふるさと納税の適用期限延長、中小企業向け賃上げ促進税制の適用要件緩和、所得再分配機能の回復、所得税の各種控除制度の見直し、相続税の基礎控除の見直し、贈与税の基礎控除の引き上げ、固定資産税の抜本的見直し、事業所税の廃止、印紙税の廃止などを提言している。

<タックスワンポイント>小規模宅地特例は生計が別だと使えず  親族への無償提供は適用NG

 相続で宅地を引き継いだ際には、評価額を最大80%カットできる「小規模宅地の特例」を使えるかどうかで税負担が大きく変わってくる。特例を適用するためには様々なハードルをクリアしなければならないが、そのなかに、被相続人か、被相続人と生計を一にしていた親族が利用していた土地のみが対象となるという条件がある。

 「生計を一」とは必ずしも同居していることを必要としないが、例えば独立して家計を立てている家族に無償で貸している宅地は、小規模宅地の特例の対象にはならない。

 例を挙げてみよう。定年退職したAさんが、一昨年から生まれ育った故郷に戻って暮らしているとする。定年前に暮らしていた家は土地と家屋ともにAさん名義のままだが、今は別生計の長男家族が住んでいる。長男家族からは賃借料をもらっていない。こうしたケースでは将来、Aさんが死亡して相続が発生しても、長男が「小規模宅地等の特例」を適用することはできない。

2024年37号(2024/10/4)

<タックスニュース>弥生 年末調整の意識調査  7割超が定額減税で負担増

 弥生が従業員100人以下の事業者の給与計算担当者729人を対象に実施した調査によると、定額減税で年末調整事務が増えると感じている割合は全体の7割超だった。一方で、定額減税の具体的な影響を認識している割合は3割以下にとどまる。

 回答者のうち、定額減税で年末調整事務の負担が「かなり増えると思う」としたのは23.2%、「多少増えると思う」は50.5%で、事務量増加を見込んでいる割合が全体の73.7%を占めた。

 別の設問では、定額減税の有無にかかわらず、年末調整の時期は通常期と比べて残業が増えるとの回答が64.6%に上ることもわかった。残業時間は5時間未満が16.9%、5時間~10時間未満が16.5%などで、30時間以上も6.9%に上った。ただでさえ残業が求められる時期に、定額減税の事務という新たな負担が担当者にのしかかることになる。

 定額減税が年末調整事務に与える影響については、「具体的な年末調整業務への影響を把握している」との回答が29.1%にとどまった。「変更があることは知っているが、具体的な影響は知らない」は54.3%、「初めて知った」は16.6%だった。

<タックスワンポイント>投資信託と変額年金保険、税金面で違い  税務上は変額年金保険が有利か

 変額年金保険とは、個人年金の一種で、おもに一時払いで払い込んだ保険料を株式や債券のファンドで運用し、その運用成績に応じて将来受け取る年金額が増減する年金保険を指す。運用結果によっては将来受け取る年金額や解約返戻金額が下回ることもあり得ることで、投資の側面の強い年金という意味ではiDeCo(確定拠出型年金)と共通する部分があるといえる。

 変額年金と一般的なファンドへの投資で異なる点は、変額年金は「保険」であるため、死亡保障が付いているという点がある。保険期間内に被保険者が亡くなると、基本保険金と変額保険金を受け取ることができる。基本保険金は、運用の実績にかかわらず最低限保障されているものだ。税金面をみると変額年金の長所が目立つ。払い込んだ保険料は、生命保険料控除の対象になる。ファンドの運用益には、投資信託の場合、源泉分離課税で所得税が課されるが、変額年金は満期保険金の支払いや解約など換金時まで課税が繰り延べられる。運用期間内にファンドを乗り換えた際も、投資信託はそれまでの収益について源泉分離課税となるが、変額年金はやはり換金時まで税金はかからない。さらに相続時には、「500万円×法定相続人の数」の生命保険金控除の対象にもなる。

 一方、変額年金のデメリットとして、運用と保険の両方に手数料がかかるため、一般的なファンドより手数料が高めに設定されている点が挙げられる。さらに旨味も多い変額年金だが、その性格が投資である以上、元本割れのリスクは避けられない。

2024年36号(2024/9/26)

<タックスニュース>基準地価 3年連続で上昇  商業地は2.4%プラス

 国土交通省は9月17日、2024年の「基準地価」を公表した。全国の平均地価は前年比1.4%プラスで、コロナ禍で落ち込んだ21年から3年連続で上昇した。

 基準地価は、2024年7月1日時点での全国の土地の値段を都道府県が調査したもの。土地取引や固定資産税評価の目安になり、1月1日時点の地価を調べて国土交通省が発表する「公示地価」を補完するものとも言われる。

 全国の平均地価の伸び率1.4%はバブル崩壊後の1991年の3.1%以来の高さで、用途別に見ると、住宅地は前年比0.9%で、商業地は2.4%の伸びを見せた。

 商業地のうち東京圏が7.0%、大阪圏が6.0%と大きく上昇したほか、札幌・仙台・広島・福岡の「地方四市」では8.7%ものプラスとなった。地方圏でも上昇が目立ち、主要都市を除いた地方圏の商業地は、バブル期以来32年ぶりに上昇に転じた2023年に続き上昇を維持した。国交省は「大手半導体メーカーの工場が進出する地域では、関連企業も含めた従業員向けの住宅需要のほか、関連企業の工場用地や店舗等の需要も旺盛となっており、住宅地、商業地、工業地ともに高い上昇となっている」と分析している。

 地価が最も高かったのは19年連続で「明治屋銀座ビル」(東京・中央区銀座2丁目)。1㎡あたり4210万円で、前年から5.0%上昇した。

<タックスワンポイント>機械装置と器具備品の違いは?  製造ラインを構成するか

 中小企業を対象とした設備投資の税優遇では、主に機械装置、工具・器具備品、建物附属設備、ソフトウェアが対象となる。

 このうち、判別が付きづらいのが「機械装置」と「器具備品」だろう。実は機械装置(正式には「機械および装置」)や器具備品(正式には「器具および備品」)の定義については、法令上の明確な定義が存在しない。いずれに該当するかの判断を巡って訴訟が起こされたこともあるほどだ。

 実際の現場をみてみると、資産が機械装置に当たるか器具備品に当たるかは、おおむね規模、構造、機能、用途、使用場所、取得価額等に照らして実態を見て判断されているようだ。一般的には、製造業における製造ラインを構成する設備は「機械装置」、事業活動に使用される小規模な資産は「器具備品」と考えられている。

 国税庁によれば、機械装置とは「他の資産と一体となって設備を形成し、当該設備の目的を果たすために、当該設備の一部としてその機能を果たすもの」で、これを満たさない減価償却資産は、構造が複雑な機器等であっても原則として器具備品になるという。

2024年35号(2024/9/19)

<タックスニュース>セーフティ共済  節税目的の利用を制限

 中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)による節税手法が10月1日から一部封じられる。これまでは解約と再加入を繰り返すことで何度でも掛金を損金算入できたが、今後は解約後に損金算入できなくなる期間が設けられ、節税目的での利用が制限される。

 経営セーフティ共済は中小事業者の連鎖倒産を防ぐための制度で、加入者は取引先が倒産した際に、無担保・無保証人で掛金の最大10倍(上限8千万円)の金額を借りることができる。掛金は月額5千円から20万円までの範囲で選べ、その全額(年間最大240万円)を損金算入できる。

 同共済では、解約時に解約手当金を受け取れる。解約事由や加入期間に応じて支給率は異なり、自己都合の解約でも掛金を12カ月納めていれば総額の8割、40カ月以上であれば全額が返還される。

 こうした仕組を踏まえ、共済制度としてだけではなく、多くの事業者に節税策としても活用されている。積立金が上限に達した時点で共済を解約して再加入すれば、掛金の損金算入を繰り返せるからだ。

 解約時に受け取る手当金は収益扱いとなるが、赤字の会計期間に解約すれば課税を免れることができる。また、役員退職金など大型の経費を計上した際に解約して相殺する方法も考えられる。

 中小企業基盤整備機構によると、2022年度の任意解約3万2570件のうち、解約手当金が100%支給される加入後3年目と4年目の解約件数は計1万775件で全体の約3割を占めたという。解約から再加入までの期間が1年未満のケースが72.1%、1年以上2年未満が11.5%で、2年以内に再加入する割合は8割以上となっている。2024年度の税制改正で、解約後に再加入しても2年が経過するまでは掛金の損金算入を認めないこととした。10月1日から適用される。

<タックスワンポイント>生前贈与110万円の落とし穴  計画的な連年贈与で節税が台無し

 「毎年110万円までの贈与」には贈与税がかからないことはよく知られている。しかし毎年110万円を贈与することをあらかじめ約束しておくと、税務署から計画的な「連年贈与」と判断されて贈与税を課されることがあるので注意したい。連年贈与とは税法上で定義されたものではなく、税界での通称で、何年も続いて行われる贈与を指す。

 そもそも贈与税は、1人が1月1日から12月31日までに受けた財産の合計額から基礎控除額の110万円を差し引いた残りの額に対してかかる。これが「110万円までは非課税」といわれる理由だ。仮に子どもが2人として、年間110万円ずつ10年間にわたって贈与できれば、110万円×2人×10年=2200万円となり、それぞれの子どもに1100万ずつを税負担なく贈与できる。

 だが、これが毎年110万円を10年間ではなく1100万円を10分割して年に110万円ずつ受けていたという見方をされる贈与だと、1100万円を受け取る権利を最初の時点で取得していたとして課税されてしまう可能性がある。結果として同じ金額になったとしても、毎年110万円ずつなら見逃しても、贈与するつもりの1100万円をわざわざ分割しているのは課税逃れの意思があると判断されるわけだ。

2024年34号(2024/9/12)

<タックスニュース>7月の税収35.6%減、定額減税影響  消費税収2割増、法人税収4.3倍

 財務省はこのほど、「7月の国の一般会計の税収」が4兆3190億円だったと発表した。昨年7月の税収6兆7106億円と比べて2兆3916億円少なく、割合では35.6%の大幅な減少となった。定額減税の実施による所得税の減少などが大きく影響したかたち。

 定額減税は、1人当たり所得税で3万円、住民税で1万円を差し引くもので、6月に支給された給与などから適用されている。このため7月の税収には定額減税の影響が出やすく、所得税(源泉分・申告分合計)による税収は昨年7月の半分以下、じつに54.9%減の2兆2272億円となった。

 その一方で、消費税による税収は昨年7月に比べて21.5%増の1兆1024億円で、物価高の影響などにより21.5%増加している。法人税の税収は1240億円で大企業の好決算を背景に同4.3倍となった。

<タックスワンポイント>台風の季節、早退の従業員に給与は必要か  会社都合であれば平均賃金の6割支給

 台風はあらゆる交通や流通をストップさせ、人の流れもモノの動きもすべて止めてしまう。自社の従業員に対しても同様で、一瞬の判断遅れで帰宅困難になってしまう場合もあるため、毎年台風のときは定時より早めに帰宅を促す企業も多い。

 労働時間内に就労していなければ、基本的には「ノーワーク・ノーペイ」の原則にもとづき給料を支払う必要はない。だが早退が会社の指示によるものであれば「会社都合」となり、平均賃金の60%を休業手当として補償する義務が生じる。では、例えば1日の所定労働時間が5時間の短時間労働者につき、台風のため4時間で帰宅させたとすると、1日の支払いはいくらになるか。

 これは4時間分の正規の料金に加え、働けなかった1時間分の6割を足した額と考えがちだが、実は実働の4時間分だけの支払いでよい。60%というのは、あくまでも1日の平均賃金の6割という意味で、すでに4時間分(80%)が支給されているため、支払義務は満たしているからだ。

 もちろん、これはあくまでも「会社都合」であることが条件で、従業員から「早く帰りたい」という申し出があれば「従業員都合」となり、会社に6割の補償義務はない。

2024年33号(2024/9/5)

<タックスニュース>全国住宅産業協会  住宅ローン減税の延長要望

 全国住宅産業協会(馬場研治会長)はこのほど、住宅と土地に関する税制改正要望書を国土交通省に提出した。「住宅取得の促進と不動産市場の活性化のため」として、(1)住宅ローン減税の上乗せ措置・緩和特例の延長、(2)住宅取得に係る税制特例措置(固定資産税・不動産取得税・登録免許税)の床面積要件の緩和、(3)住宅税制の抜本的な見直し――の3点を重点要望項目に挙げている。

 住宅ローン減税については、子育て世帯・若者夫婦世帯の制度上の借入限度額の上乗せ措置と、合計所得金額1千万円以下の年の床面積要件を50㎡以上から40㎡以上に引き下げる緩和特例の延長(現行はともに2024年12月31日が期限)を求めた。住宅取得に係る税制特例措置では、固定資産税・不動産取得税・登録免許税の軽減措置の床面積要件を現行の50㎡以上から40㎡以上に緩和することを要望。また住宅税制の抜本的な見直しとして、購入時の過度な負担を抑えるため、消費税課税方式の見直しや流通課税の廃止などを求めた。

 このほか、延長を求める制度として(1)長寿命化に資する大規模修繕工事を行ったマンションに対する特例措置、(2)Jリート及びSPCが取得する不動産に係る特例措置、(3)不動産特定共同事業において取得される不動産に係る特例措置、(4)既存住宅の子育て対応リフォーム、(5)買取再販に係る不動産取得税の特例措置、(6)サービス付き高齢者向け住宅供給促進税制、(7)防災街区整備事業に係る特例措置、(8)地域福利増進事業に係る特例措置――の8つを列挙。また、創設・導入を求める制度として、(1)二地域居住のための特例措置、(2)老朽化マンション再生等促進のための税制上の支援措置、(3)住宅の解体費用を補助する制度、(4)良好な街並み維持と良質な住宅ストックの継続利用に資する相続税の特例措置、(5)サステナブルな土地の利用・管理のための具体的施策――の5つを挙げた。

<タックスワンポイント>生命保険料が払えない際の対処法  払済保険に変換、失効からの復活も

 事業がうまくいかず生命保険料の支払いを続けていくことが難しくなってしまうというケースはままある。そうした場合、「払えないなら仕方ない」と解約をしてしまう前に別の手法が選べないかを考えたい。

 これまで加入してきた保険料を無駄にしないやり方の一つとして、「払済保険」への変更がある。払済保険は、それ以降は保険料を1円も払うことなく、今まで支払った保険料で積み立てられた額の範囲内で一定の保障額の保険に変更する制度。保険料が発生せず、保険金は減ってしまうが保障を継続でき、解約返戻金も維持される。短所として当初の契約より保障額は減額され、保険料の経理上の変更処理が必要になる。

2024年32号(2024/8/29)

<タックスニュース>環境省 クマ対策に30億円  概算要求に盛り込む方針固める

 環境省は2025年度予算の概算要求で、クマによる被害防止対策費として30億円を計上する方針を固めた。人身被害が多発するクマを含む「指定管理鳥獣」の対策に取り組む自治体向け交付金に充てる。クマは今年4月、指定管理鳥獣に追加された。

 クマは、それ以前から指定されているニホンジカやイノシシと比較して繁殖力が弱いため、環境省ではこれまで捕獲だけに限らない対策に力を入れてきた。

 クマの駆除・捕獲のほか、街中に出没した際の自治体・警察・猟友会・ハンターの連携強化を支援するための予算を確保する。出没防止や追い払いといった、人とのすみ分けを目指す事業も後押し。出没に備えて地域の連携手段を事前にまとめる「出没対応マニュアル」の作成にも交付金を使えるようにするという。

<タックスワンポイント>わが家の屋根で太陽光発電、消費税かかるか  ポイントは反復、継続、独立性

 国を挙げた太陽光発電の推進が一時の勢いを失ったとはいえ、自宅の屋根で太陽光発電をする人は昔より増えている。発電した電力を家庭で使っても余る場合、その余剰電力を電力会社に売却すると、その売上に消費税はかかるのか。

 家で発電した電力を売る取引は、原則的に非事業用資産の譲渡に該当するので、課税対象にはならない。消費税の課税対象となる取引は、国内で事業者が事業として対価を得て行う資産の譲渡であり、個人が生活のために発電した電気の売却は課税対象に含まれない。ただしあくまで原則であり、例えばサラリーマンが電気を売ったとして、反復、継続、独立して行われていると認められれば、消費税の課税対象となる。一定規模以上の太陽光発電設備を設置し、発電した電気の全量を電力会社に売却しているようなケースでは、反復、継続、独立性があるとして事業規模と認められ、消費税が課される。

 何らかの利益を発生させる行為が消費税を課される事業として認められるか否かは、業種にかかわらず、この「反復」「継続」「独立」が重視されると国税の基本通達に規定されていると覚えておきたい。

2024年31号(2024/8/16)

<タックスニュース>東京国税局長が就任会見  消費税の不正還付に「徹底対応」

 星屋和彦東京国税局長が就任会見し「業務や組織を不断にアップデートしていきたい」と抱負を述べた。

 租税回避行為については「納税者が不公平感を抱くことがないように、組織を挙げて厳正な対応を行っている」と強調。消費税の不正還付に対しては「国庫金を詐取しようとする極めて悪質性の高い行為である」としたうえで、「不審な取引を把握した場合には調査を実施するなどして、不正還付の防止を図っていく。関係機関と緊密に連携して徹底した対応をとる」との方針を示した。

 星屋局長は1965年生まれの59歳。静岡県出身。東大法卒。89年大蔵省入省、95年巻税務署長。大阪国税局総務部長、国税庁課税部酒税課長、東京国税局総務部長、国庁長官官房人事課長、同総務課長、同課税部長などを経て22年国税庁次長。24年7月東京国税局長就任。

<タックスワンポイント>かわいいペットが税務署に奪われる!?  差し押さえできない財産の範囲とは

 税金を滞納すると、税務から督促状などが届く。督促に応じず、さらに延納や分納で納めていく意思も示さないと、当局は最終的に「差し押さえ」という手段に出る。税務署や自治体の差し押さえは苛烈だが、それでも法律上、最低限これだけは差し押さえてはいけないという財産も存在する。

 国税徴収法の75~78条は「差押禁止財産」として、生活に欠くことのできない衣服などの必需品、食料や燃料、業務に欠かせない最低限の設備、一定以上の給与や年金などを列挙している。そのほか実印、位牌、日記、学習用具なども禁止財産に当たり、主に生活の維持に欠かせないものと、最低限の権利とみられるものが対象となっている。

 海外では、ドイツの税務当局が血統書付きのペットを押収してインターネットで売るという事案が発生したことがある。1万~25万円ほどの値が付く血統書付きの小型犬を職員は押収し、インターネットオークションの結果、相場の半値の約10万円で購入者が付き、実際に引き渡された。

 法律上では日本でもペットを差し押さえることは違法ではないが、滞納者がペットショップで業務用資産として動物を飼育しているなどの例外を除き、実際にペットが差し押さえられるというケースはないようだ。

2024年30号(2024/8/8)

<タックスニュース>証券業界3団体  確定拠出年金制度の改革へ向け提言

 日本証券業協会、投資信託協会、全国証券取引所協議会はこのほど「確定拠出年金制度の改革についての提言」を取りまとめ、7月25日に公表した。企業型DC(企業型確定拠出年金)やイデコ(個人型確定拠出年金)の「拠出枠」のあり方を見直す必要性について強調した内容。

 早急に措置すべき事項として、資産形成の必要性に応じた「拠出限度額の引上げ」と「キャッチアップ拠出」(拠出限度額に加えて一定額の追加拠出)の創設を挙げている。拠出限度額の具体例としては月額10万円への引き上げを提案。また、50歳以上には「キャッチアップ拠出」を設け、限度額を月額15万円に引き上げる案を示している。

 中長期的な課題としては「生涯拠出枠」を創設し、その枠内で毎月・毎年の拠出額の柔軟化を図るべきだとしている。さらに、長期的な資産形成に適した運用を促すため、「指定運用方法」のあり方を見直すことも提言。「ターゲットデートファンド(退職年などあらかじめ目標期日を設定しリスク資産の比率が減少していくよう運用する長期投資商品)など、元本確保型でないものを指定運用方法として設定することを原則とし、仮に指定運用方法を設定しない場合や、元本確保型を指定する場合は、その理由を説明・開示することを義務付けてはどうか」と提案している。

 この「提言」では同時に、証券業界としての政策的な「要望」も示している。主な要望は次の通り。(1)加入可能年齢及び受給開始年齢上限の引上げ、(2)マッチング拠出の弾力化、(3)老齢給付金の受給要件の緩和、(4)特別法人税の撤廃、(5)中小事業主掛金納付制度(イデコ・プラス)の対象企業の要件緩和、(6)中途引出要件の緩和、(7)国民年金の第3号被保険者がイデコに拠出した掛金を配偶者の所得から控除可能とすること、(8)ポータビリティの充実(中途退職に伴う退職一時金について企業型DCまたはイデコへの移換を可能とすること、財形年金貯蓄からイデコへの移換を可能とすることなど)、(9)事務手続きの簡素化、(10)DCの自動加入・オプトアウト、(11)加入者のDC活用環境の整備、(12)運用商品提供数35本の上限撤廃・緩和。

<タックスワンポイント>不動産売却の利益から差し引く譲渡費用の範囲  該当するか否かケースごとに変わる

 不動産を売却して得た利益は「譲渡所得」として、所有していた年数などに応じて所得税が課される。その際には、不動産を得るためにかかった取得費用と、売却時に掛かった譲渡費用を差し引ける。

 一般的に譲渡費用として認められる支出は、不動産業者などに支払った仲介手数料、売買契約書などに掛かる印紙税のうち売主として負担したもの、貸家を売るに当たって店子に支払った立退料、土地を更地で売るために建物を取り壊した際の取り壊し費用や建物の損失額などが該当する。それ以外にも、一度売買契約を結んだ後でさらに高く買ってくれる相手が見つかったために、先の契約者に対して支払った契約解除の違約金なども譲渡費用として認められる。

 一方で、銀行などへの抵当権を抹消するための登記費用、譲渡所得を申告するための税理士費用、譲渡後に引っ越すための費用などは譲渡費用に含まれない。物件の期限前弁済手数料も対象外。

 譲渡費用に当たるかどうかは、おおむね、その譲渡を実現するために最低限必要な支出だったかどうかが基準となる。ただ、登記費用やごみ処理費用などは個々の事情によって該当するかどうかが変わり、その境界線は明確ではない。譲渡費用に含められるかどうかで税負担が大きく変わるため、税理士などと相談して間違いない申告を心掛けたい。

2024年29号(2024/8/1)

<タックスニュース>地方税収3年連続で過去最高更新  株式譲渡・配当所得が大幅に増加

 総務省は2023年度の地方税収が前年度比1.2%増の45兆7064億円となる見通しだと発表した。地方税収は3年連続で過去最高を更新することになる。個人住民税が同2.7%増の13兆9240億円で税収全体の伸びを牽引した。なかでも、上場株式などの配当や割引債の償還差益に課税される「配当割」と、株の売買で得た利益に課税される「株式等譲渡所得割」の税収が増えた。配当割は同16%増の2407億円、株式譲渡所得割は同69.8%増の2683億円で、ともに大幅な増加となっている。

 その他の税目別税収は、固定資産税が同2.4%増の9兆7711億円、地方法人2税(法人事業税・法人住民税)が同0.3%増の9兆1360億円、地方消費税が同2.4%増の6兆2631億円などとなっている。

 自動車関連を含む税目の「その他」も同1.8%増の6兆6122億円と好調に推移。自動車税の「環境性能割」による税収が大幅に伸び、同12.3%増の1423億円だった。

<タックスワンポイント>生保の非課税枠 相続放棄しても利用可能  それぞれの控除額は取得割合で案分

 生命保険の死亡保険金には、他の財産から独立した「500万円×法定相続人の数」の相続税の非課税枠が設けられている。子ども2人と妻の計3人なら1500万円を相続財産から割り引ける。

 この非課税枠を算定する際の「法定相続人の数」には、保険金の受取人となっていない人や、相続を放棄した人も含まれる。妻と子Aが保険金の受取人となっていて、子Bには受け取る権利がなく、子Aが相続放棄をした場合、妻1人が1500万円の非課税枠を満額使えるわけだ。

 この際、相続放棄した子Aも生命保険金は受け取れる。しかし相続税はかかるし、相続放棄しているので生命保険金の控除枠も利用できない。

 また非課税枠は、支給された生命保険金の全額にかかる分という点に気を付けたい。保険金2千万円のうち妻が1千万円、子2人がそれぞれ500万円を受け取ったケースでは、非課税枠は取得した保険金の割合に応じて按分され、妻は保険金の半分に当たる1千万円を取得したので非課税枠は1500万円の半分の750万円、子2人は4分の1に当たる500万円ずつ取得したので、非課税枠のうち4分の1の375万円を差し引く。

2024年28号(2024/7/25)

<タックスニュース>札幌不服審に税理士が嘆願書  「存在意義が問われている」

 札幌国税局に不当な課税を迫られたとして損害賠償を求めている複数事業者の顧問税理士が7月5日、札幌国税不服審判所に、「審判官の職権によりきちんと事実関係の調査確認をしていただきたい」などとする嘆願書を提出した。国税当局の調査を「明らかに“足りていない部分”がある」と断じている。

 嘆願書を提出したのは税理士法人Impact(名古屋市中区)の大箸直彦税理士。審判官に適切な事実確認を求めたうえで、「そのために審理期間が長期化するのはやむを得ない」と覚悟を示し、「『納税者の正当な権利利益の救済と税務行政の適正な運営』という審判所の使命を踏まえ、正義の理念と公正中立な立場により、きちんとした『税務行政部内の最終判断』を下して頂きたいと願っております」と結んでいる。

 大箸氏が顧問税理士を務めた事業者は、当局が2種類の追徴税額を書面で示し、税理士を排除しなければ高い方の税額になると脅されて税理士の排除を求められたという。「2種類の税額」には9500万円もの差があったとされる。

 当該事業者は、前任の税理士が担当していた時期に、課税逃れのために所得を過少に申告している。その点について大箸氏は「原処分庁の調査により発覚して以降、審査請求人は猛省し、全ての事実を明らかにして、原処分庁による申告所得の把握に協力してまいりました」と事業者の姿勢を擁護したうえで、「そうであったにもかかわらず、原処分庁は、証拠資料等の検討を十分に行わず、事件の全容を把握しようとせずに、一方的な更正処分を行いました」「当初申告が不正だったからと言って、原処分庁自らが、適正な所得把握を放棄して、何をやっても良いわけではありません」と国税当局の姿勢を糾弾している。

 不服審判所にはさらに、「本審査請求案件につきましては、権利救済機関としての『国税不服審判所の存在意義が問われている』と考えています」と訴えかけている。

<タックスワンポイント>早期退職者一時金の税務処理  名前は異なっても退職所得扱い

 社会環境の変化やグローバル競争の激化などにより、大企業でも終身雇用の体制から脱却するケースが増えている。かつては「入れば安泰」と言われていたような上場企業が数千人規模の早期退職希望者を募るのも今では珍しくない。

 人件費の削減や社内人材の若返りを目指して早期退職者を募る場合、長年の恩に報いるべく、希望者に対して退職金とは別に特別加算の一時金を支給することが考えられる。この一時金の税務上の取り扱いはどうなるのか。

 会社が従業員に支払うお金には、大きく分けて「給与所得」と「退職所得」の2つがある。給与所得とは、給料や賞与の性質を持つ金品を指し、金銭で支払われるものだけでなく、物や権利などのいわゆる現物給与も含まれる。一方の退職所得とは、退職手当や一時恩給といった「退職により一時に支払いを受ける一切の給与」を指す。

 早期退職希望者に対する特別加算の一時金は、早期退職を優遇する制度の適用を受けて退職する人に支給されるもので、まさに「退職により支払いを受ける給与」に他ならない。つまり通常の退職金と同様に「退職所得」として取り扱うこととなる。その際には、会社に源泉徴収の義務が生じることも忘れないようにしたい。

2024年27号(2024/7/18)

<タックスニュース>金融庁長官に井藤氏  「資産所得倍増」政策を加速

 7月5日付で金融庁長官に井藤英樹企画市場局長が昇格した。栗田照久長官は就任から1年での退任となった。首相肝煎りの「資産所得倍増」を加速的に推進していくため、マーケット活性化に向けた政策立案の司令塔だった企画市場局長を長官に据える。今回のトップ人事の背景には、NISAなど金融商品の積極的な普及・浸透に取り組む“強力布陣”とする狙いがあるとみられる。井藤英樹(いとう・ひでき)氏は昭和39年生まれの59歳。岡山県出身、東大法卒。昭和63年大蔵省入省、平成6年国税庁札幌国税局旭川東税務署長、同18年財務省大臣官房 文書課広報室長、同24年金融庁監督局銀行第二課長、同27年総務企画局政策課長、令和2年総合政策局政策立案総括審議官、同4年企画市場局長、同6年7月金融庁長官就任。

<タックスワンポイント>優先的に物納できる登録美術品制度  相続税の特例 国宝級であれば…

 相続税を納めたくても手元に現金がなければ、納税を先延ばしにする「延納」か、延納でも納税が困難なら金銭の代わりにモノで納税する「物納」の適用が可能だ。物納には財産ごとに優先順位があり、不動産、証券、株式が上位で、動産はそれらの財産がない時に限り物納が可能となる。ただし例外として、動産でも「登録美術品」に限っては最優先で物納することができる。登録美術品制度は、重要文化財や国宝のほか世界的に優れた美術品を国が登録する制度で、登録された作品は国が指定した美術館で公開される。相続財産の中に登録美術品があれば、ほかの美術品と異なり、国債や不動産と同じ順位で物納できる。ただし相続が発生してから登録申請するのでは、物納の優遇制度は適用できず、生前に登録を受けていなければならない。ちなみに美術館で公開中の登録美術品には、クロード・モネの絵画「ルエルの眺め」(埼玉県立近代美術館)、ウジェーヌ・ブーダンの絵画「ノルマンディーの風景」(同)、米原雲海の彫刻「清宵」(東京国立近代美術館)などがある。いずれも国宝級のものばかりで、数十万円で購入したような美術品では登録は不可能のようだ。

2024年26号(2024/7/11)

<タックスニュース>日本公認会計士協会  「税制改正意見書」公表

 日本公認会計士協会(茂木哲也会長)はこのほど開催した常務理事会で「令和7年度税制改正意見書」を承認、公表した。意見書は税制の在り方に関する提言」と「令和7年度税制改正に関する個別意見」の二部構成となっている。第一部の「税制の在り方に関する提言では、社会的課題への対策について税制の観点から提言。第二部の「令和7年度税制改正に関する個別意見」は8項目からなる「政策意見」と、税制の個別規定に関する83項目の「個別税制に関する意見」に分けて意見表明している。重点項目としては、(1)起業家を多数輩出するための「人」への投資である教育資金の拡充、成長企業の担い手である高度人材の確保、スタートアップの成長促進を後押しする税制を構築すること、(2)昨今の急速な経済社会環境変化に伴う税法における金額基準等の見直し、(3)中小法人の画定基準を見直すこと、(4)取引相場のない株式等の評価について、(5)外国子会社合算税制における経済活動基準を我が国企業の経済活動の多様化に合わせて見直すこと。外国子会社合算税制における外国関係会社の所得の合算時期を「外国関係会社の事業年度終了の日から2か月を経過する日を含む事業年度」から「4か月を経過する日を含む事業年度」とすること――を掲げている。

<タックスワンポイント>高額納税者のふるさと納税 恩恵と注意点  返礼品にも税金はかかる

 ふるさと納税は、高所得であればあるほど得をする。その理由は「寄付上限」の仕組みにある。同制度では、自分の住む地域以外に寄付をすると、手数料2千円を差し引いた残額が本来住んでいる土地に納めるべき住民税などから差し引かれる。差し引かれる額には上限があり、住民税のうち所得割額の20%を超えた寄付は、何の税優遇も受けられない純然たる寄付となってしまう。仮に寄付上限100万円の人が満額を寄付したとすると、99万8千円分は本来自分が納める税額から差し引かれることになる。この「2千円負担」は所得にかかわらず一律なため、2千円を引いた額が多い、つまり所得が多い人ほど税金と相殺できる額も多い。そして寄付金額の多寡を問わず寄付者の実質負担は2千円で変わらないが、寄付金額が高ければ高いほど「返礼品」の内容は豪華になる。これが高所得者こそがふるさと納税制度の恩恵を最大限に受け取れる理由だ。ただ高額納税者は、返礼品の税金に注意を払わなくてはいけない。ふるさと納税の返礼品は、所得税の対象となる。税金がかかる境界線は50万円で、受け取った返礼品の価値が50万円を超えるなら所得税が課される。

2024年25号(2024/7/5)

<タックスニュース>「骨太の方針」中小企業の“稼ぐ力”  事業承継・M&A・廃業支援で実現!?

 経済財政諮問会議と新しい資本主義実現会議は6月21日、首相官邸で合同会議を開き、「経済財政運営と改革の基本方針」「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画改訂版」について議論。いわゆる「骨太の方針」を取りまとめ、同日、閣議決定した。

 首相は会議のとりまとめ発言で「経済・財政新生計画に基づき経済・財政・社会保障を一体とした改革を進めていく。『経済あっての財政』の考えのもと2025年度の国・地方のプライマリーバランス黒字化と、債務残高対GDP比の安定的な引き下げを目指し、経済再生と財政健全化を両立させる歩みを前進させる。骨太の方針については予算編成や制度改正で具体化し速やかに実行していく」と述べた。

 骨太の方針では、「豊かさを支える中堅・中小企業の活性化」を重点課題のひとつに据え、(1)人手不足への対応、(2)中堅・中小企業の稼ぐ力、(3)輸出・海外展開――の3テーマへの取り組みを強化していくとしている。

 「中堅・中小企業の稼ぐ力」をテーマとした取り組みとしては、(1)譲渡担保契約と所有権留保契約に関する法制化の準備、(2)事業承継・M&Aの環境整備、(3)事業承継税制の特例措置の「役員就任要件」の見直し検討、(4)第三者への承継を促進する税制を検討、(5)M&A仲介事業者の手数料体系を開示、(6)M&A成立後の実施企業によるPM(ポスト・マージャー・インテグレーション)や設備投資を促進、(7)地域金融機関に対しPMIを含めたM&A支援強化を促進、(8)金融機関が中小企業に対し事業承継やM&Aに関するコンサルティングを行う際に経営者保証の解除に向けた方策を提案、(9)事業再構築・M&A・廃業等について地域の支援機関が連携する相談支援体制を構築、(10)地域経済を牽引する中堅企業や売上1百億円以上への成長を目指す中小企業について関係省庁が連携するビジョンの策定と地方公共団体による支援体制を構築し設備投資やM&A・グループ化等を促進――など、事業承継・M&Aと廃業支援に関するものが中心。骨太の方針では、こうした取り組みによって中小企業の“稼ぐ力”をサポートしていくとしている。

<タックスワンポイント>出生していない胎児が有する相続の権利  分割協議は出生後が一般的

 民法では「私権の享有は出生により始まる」(第3条第1項)と、母親のお腹の中にいる胎児は権利義務の主体にはなれないことが定められている。だが相続では、妻の妊娠中に夫が死亡した場合、その後に生まれた子どもは亡くなった父親の相続人として財産を受け取れる。

 一見、矛盾する両規定だが、胎児の権利は民法が原則だ。もしも生まれる前から一般人と同様の権利があれば、胎児であっても売買や貸付、贈与も可能になり、あまりにも現実的でなくなる。人としての権利が認められていないため、仮に妊婦が殺害されても、被害者は「一人」だ。

 民法の原則どおりに考えるなら、第一子を妊娠中の妻を残して夫が死亡すると、夫の遺産は妻が3分の2、夫の両親が3分の1という割合で分割される。一方、出生後に夫が死亡すれば、妻と子どもが半分ずつを相続する。両者の時間の差による不合理を避けるため、民法では「胎児は、相続については、既に生まれたものとみなす」と特別ルールを定めている(886条)。これが、被相続人の死亡後に出生した子どもにも相続権があることの根拠となっている。

2024年24号(2024/6/27)

<タックスニュース>犯収法4条の義務履行徹底を周知  届出制度でマネロン事犯捜査

 国税庁はこのほど、税理士会などに対して「犯罪による収益の移転防止に関する法律第4条に基づく取引時確認義務の履行の徹底に関する周知」を依頼した。「犯罪による収益の移転防止に関する法律」(犯収法)は、犯罪収益が組織犯罪を助長し、また事業活動に用いられることで健全な経済活動に重大な悪影響を与えることから、その移転防止を図る目的で制定されたもの。

 税理士および税理士法人は犯収法により、税理士として行う特定の業務・取引について、その顧客の「本人確認をする義務」などが課されている。また犯収法では2024年4月1日以降、税理士・税理士法人に対して、「犯罪収益との関係が疑われる取引を所管行政庁に届け出ること」を義務付けている。

 「疑わしい取引の届出制度」は、犯収法上の「特定事業者」(税理士・税理士法人など)が届け出た情報をマネーロンダリング事犯の捜査などに役立てるとともに、特定事業者のサービスが犯罪者に利用されることを防止し、特定事業者に対する信頼を確保することを目的とする制度。

 国税庁ではこの届出制度に伴い、「税理士及び税理士法人におけるマネーロンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」を策定。届出制度がスタートした24年4月1日に公表している。今回の周知依頼では、あらためてこのガイドラインについても触れている。

<タックスワンポイント>「看板」の償却  種類によって異なる期間

 広告・集客を目的とした「看板」の費用は、会計処理も広告宣伝費で計上しがちだが、実はパソコンやデスクなどと同じ固定資産として処理しなくてはならない。また看板の形状によって、減価償却期間も大きく異なる。

 例えば建物に固定して社名などを記載する看板であれば「建物附属設備」となり、金属製であれば耐用年数は18年、それ以外なら10年となる。なお看板が10万円未満であれば建物附属設備でなく消耗品費として扱うことも認められている。一方、客を呼びたい店舗などから離れた場所に設置する「野立て看板」は、建物から独立した「構築物」とされる。そのため減価償却資産としてそれぞれ別個に評価が必要だ。建物固定の看板に比べて償却期間が長く、金属製なら20年、それ以外であれば10年。

 カフェの店頭に立て掛け日替わりランチのメニューなどを表示する簡易なものであれば「器具および備品」として計上できる。ネオンサインやアパレルのマネキンも同様の扱いだ。これらは消耗品費としても計上できる。その場合の耐用年数は立て看板やネオン、気球などが3年、マネキンや模型が2年とされている。

2024年23号(2024/6/20)

<タックスニュース>相続税1億2千万円を脱税  懲役1年6カ月、罰金3千万円求刑

 相続税約1億2千万円を脱税したとして、相続税法違反の罪に問われている福島県福島市の被告(75)の初公判がこのほど、福島地裁で開かれ、被告は起訴内容を認めた。

 検察側は、「被告は相続税を免れようと考え、現金などの存在を税理士に伝えず虚偽の相続税申告書を作成させた」と指摘。脱税額は多額で「租税制度を軽視する態度は顕著」とし、懲役1年6カ月と罰金3千万円を求刑して即日結審した。

 弁護側は、「被告は修正申告を行い重加算税分も支払っている」などとして、執行猶予付きの判決を求めた。

<タックスワンポイント>非常勤の役員報酬の相場はどれくらい?  知識経験、勤務状況他の役員との差も考慮

 本業とは別に不動産管理法人などを持っている経営者は、家族を法人の非常勤役員にして報酬を払うことがある。その際、報酬額が過大と判断されてしまうと否認される恐れがある。

 1979年に下された最高裁判決では、役員報酬が損金に算入できる範囲を超えるほど高額だったとの税務署の判断を認めている。この事例では、男性が設立した会社の取締役に長女を据え、役員報酬として年額93万円を支払っていたが、課税庁がそのうち60万円を超える約3分の1の部分について否認した。長女は取締役就任当時18歳で大学在学中であり、学業の余暇を利用して経理関係の帳簿の整理、自動車の運転など実質的な業務にも携わっていた。

 このケースで裁判所は「(1)長女の知識、経験、(2)取締役として就任間もない事実、(3)勤務状況、職務内容、(4)会社経営に参画する程度、(5)他の取締役、使用人に対する報酬、給与の額――などを併せて考えると、長女に対して支払われるべき報酬の客観的相当額は、会社設立以来の非常勤取締役だった他の役員に対する報酬額(年額60万円)以上にはならない」と判示した。この額をそのまま参考にはできないが、非常勤役員の報酬額の相場を考える上で押さえるべきポイントとなりそうだ。

2024年22号(2024/6/13)

<タックスニュース>自民党広報本部長も“寄付控除”  「同じことをしている議員はたくさんいる」

 自民党の平井卓也衆院議員はこのほど、フジテレビの番組で「税理士に聞いたら控除が受けられるということだった」とし、自身が代表を務める党支部に寄付して所得税の一部を控除されていたと認めた。法令違反には当たらないと強調し、「同じことをしている議員はたくさんいると思う。ちゃんとルールをつくるべきだ」と述べた。平井議員は党広報本部長。政治資金パーティー裏金事件では、派閥からの還流は受けていない。

  平井議員は、自らが代表を務める「自民党香川県第1選挙区支部」に2020年に1千万円、21年に500万円を寄付したという。20年分は控除を受けたが、21年分は受けていないとしている。

  租税特別措置法では「政党等寄附金特別控除制度」として、個人が政党支部または政治資金団体に寄付した場合、所得控除として寄附金控除の適用を受けるか、または規定の算式で計算した金額について税額控除の適用を受けるか、いずれか有利な方を選択することができる。

  自民党の政治資金パーティー裏金事件をめぐってはこれまで、政治資金収支報告書に還流分の不記載があった稲田朋美衆院議員や菅家一郎衆院議員も、政党支部に寄付して税控除を受けていたことが明らかになっている。

<タックスワンポイント>法人事業税 賃借オフィスも課税対象  「人」と「場所」の兼備が要件

 法人の事業活動に対して課される税金のひとつに、地方税の「法人事業税」がある。国が徴収する法人税とは異なり、都道府県ごとに課す地方税なので、「主たる事業所また従たる事業所の所在する都道府県」で課されることがルールとして規定されている。

 こうした事業所をまとめて「事務所等」というのだが、では厳密にどういったものが事務所等に当たるのかといえば、地方税法で以下のように定められている。①それが自己の所有に属するものであるか否かにかかわらず、②事業の必要から設けられた、③人的および物的設備で、④そこで継続して事業が行われる場所――が「事務所等」に当たる。①にあるように、自分の建物だけでなく他人の建物などを賃借していても該当することが分かる。

 注意が必要なのが③で、「人的および物的設備」とある部分は「人」と「場所」の両方が必要となる。例えば資材置場のように「場所」はあるが「人」がいないケースや、ビルの一室を借りて転送電話のみを置いて人を配置しないような連絡事務所も事務所等に該当しない。

2024年21号(2024/6/6)

<タックスニュース>6月からの負担増あれこれ  医療費、年金、電気料金・・・

 6月から定額減税が実施されるが、診療報酬や年金支給額、電気料金などは負担増となる。

 加えて、給与明細に所得税の減税額を記載することも義務付けられた。

 その一方で財源を公的医療保険料に上乗せし給与から天引きする「子育て支援金」については「取り扱いが異なる」などとして負担額を明記しない方針。野党からは「減税アピール、増税ステルス」といったダブルスタンダードへの批判が上がった。減税額の明記義務化が6月直前になって示されたことから、野党は「選挙対策」とも批判している。

 医師らの技術料や人件費にあたる診療報酬の本体部分が0.88%上がる。窓口での自己負担が3割の人は初診料で27円、再診料で12円の負担増となる。入院基本料など診療に関する医療費も上がる。

 年金は、年度ごとに支給額が改定されるため、6月からは前年度比で2.7%引き上げられる。だが、将来の年金の給付水準を確保するため物価や賃金の伸びよりも低く抑えられており、実質的に目減りする。

 大手電力10社と都市ガス大手4社の6月請求分(5月使用分)の電気・ガス料金は、政府の補助金が半減するため、全社で5月請求分より値上がりする。電気料金は平均的な家庭で月額357~585円値上がりし、補助金が終了する7月はさらに上昇するという。

 森林整備などを目的とする「森林環境税」が、納税者1人につき年1千円を住民税へ上乗せしたかたちで徴収される。ただし、定額減税の実施に伴い、6月の住民税がゼロ円となる人は7月から徴収される。対象者は約6千万人に上り、年約600億円と見込まれる税収は市区町村と都道府県に配分される。

<タックスワンポイント>派遣研修の授業料非課税になる条件  ビジネススクールは680時間以上

 社員研修の一環として、大学や研究機関、ビジネススクールなどに社員を派遣する際、派遣先に支払う授業料や受講料は、原則として教育訓練費として損金算入できる。ただし消費税の課税仕入となるかどうかは、状況による。

 大学(院)など、学校教育法第1条に規定する教育機関で単位を取得する履修・聴講については、消費税法が定める「教育として行う役務の提供」とされ、授業料や聴講料は非課税となる。そのため会社が支払う授業料は課税仕入にならない。ただし大学などの授業であっても、公開講座などには消費税がかかり、課税仕入となる。また大学などに設置される研究機関での研修も、その研修が非課税の条件に該当しなければ、授業料は課税仕入だ。

 一方、学校教育法第1条で規定されていない外国語学校、ビジネススクールなどでの研修については、修学年限が1年以上で、その1年間の授業時間数が680時間以上であることなどが、消費税が非課税となる条件だ。そのほか、成績評価制度が整備されており、教員数などがきちんと足りているなどの要件を満たせば、消費税がかからず課税仕入にならない。

2024年20号(2024/5/30)

<タックスニュース>厚労省 社保料増税の火消しに躍起  「NISA口座内所得は対象外」

 全世代型社会保障構築会議(主宰・新藤義孝担当大臣)は2023年12月にまとめた「社会保障の改革工程」で、2028年度までに取り組む問題として「医療・介護保険における金融所得・資産の扱い」を挙げ、社会保険料への金融所得の反映についての「あり方」を検討するとしていた。この議論に絡み、ネットやSNSでは1月から始まった新NISAの口座も対象になるのではないかといった警戒感が一部で浮上した。

 厚生労働省では、こうした「金融所得に対する社会保険料増税」への世論の警戒感を重く見て、その火消しに躍起だ。厚労省幹部は5月14日の参院財政金融委員会で、政府が検討する能力に応じた社会保険料負担のあり方に関連し「政府として非課税となっているNISA(少額投資非課税制度)口座内の所得を対象とすることは考えていない」と語った。「風説では、NISAから社会保険料が取られると言われている」との質問に答弁したもの。

 ただし、政府・自民党では医療・介護保険料を算定するにあたって、株の配当など金融所得を反映させる方向での検討を本格化させていることも事実だ。しかしその一方では、首相が投資促進を掲げていることとの整合性を懸念する声もあり、調整は難航している。

 株式・投資信託商品などに投資する場合、証券会社などに開いた口座を「特定口座・源泉徴収あり」にしておくと、所得税(15・315%)と住民税(5%)は源泉徴収される。取引によって損失が出た場合に「損益通算」をするのならば、確定申告することになる。所得の増減は社会保険料の算出にも影響するため、膨張する一方の高齢者医療費を捻出しなければならない政府・自民党としては、金融所得も保険料に反映させて徴収したいわけだ。

 今回、厚労省幹部が「NISA口座内の所得は対象外」と明確に否定したが、全世代型社会保障構築会議の「改革工程」には、「マイナンバーを活用して、金融資産の保有状況も勘案し、負担能力を判定する」とある。

 これまで、経営の第一線から退いた、いわゆる“リタイア・リッチ層”の間では、「社会保険料や税金は所得にかかるので、労働所得が発生しない形でのリタイアがお得」と言われてきたが、将来的に金融所得も増税のターゲットになるとしたら、新たな節税プランを検討する必要がありそうだ。

<タックスワンポイント>決算後でも税金を何とか減らす方法  除却損や経費を漏らさず計上

 会社の税金対策は、ほとんどが決算前に行うものだ。決算が確定してしまった後でやれることはほとんどなく、数値を後からいじると意図的な税逃れと認定されてしまう。

 決算後にできる税金対策としては、売掛金や貸付金などで回収不能な債権の貸し倒損失などが見つかった場合に費用化することが考えられる。また廃棄したにもかかわらず台帳に残っている固定資産があれば、台帳から削除して除却損を計上することも可能だ。実際に廃棄していなくても使用していないのであれば「有姿除却」として損金に含められる可能性もある。

 さらに在庫を抱える会社であれば、不良在庫がないか確認したい。型落ちや売れ残った季節商品、傷物など定価で販売できない事情があるなら、評価損の計上が認められる。ただし本当に定価で販売できないほど価値が落ちているかどうかを税務署は厳しくチェックしてくるだろう。

 これらの費用は一つひとつは細かくても、積み重ねればまとまった節税額になり得る。地道にコツコツと確認したい。

2024年19号(2024/5/23)

<タックスニュース>国税庁「業務センター」へ協力呼び掛け  納税者からは戸惑いの声も

 国税庁がホームページで「業務センター」への協力を呼び掛けている。2019年7月から一部の税務署の内部事務を国税局の専担部署などに集約しているが、一般の納税者はもとより税理士にも周知されているとは言い難い状況だ。聞き慣れない部門からの突然の問い合わせに、納税者からは戸惑いの声も聞かれる。

 国税庁が「納税者や税理士の皆様へのお願い」として協力を求めているのは、業務センターへの税務申告書や申請書の提出について。イータックス(データ)はこれまでどおり所轄の税務署に送信するものの、書面(紙)で提出する場合には業務センターへ郵送するよう呼び掛けている。

 当局では、内部事務の効率化を図るため、2019年から一部の税務署の業務を専担部署で集約処理する「内部事務のセンター化」を進めてきている。

 21年には国税局に「業務センター」を設置し、税務署の行ってきた事務の一部を担当している。ここでいう「事務」についてHPでは「申告書の入力処理、申告内容についての照会文書の発送などの事務」を例示している。その上でHPでは、納税者や税理士に対して電話や文書により問い合わせがあることに理解を求めている。

 この「お願い」にあるとおり、実際に税務申告書の内容などに関して管轄税務署ではなく「業務センター」からの問い合わせが増えているようだ。聞き慣れない部署からの突然の電話に「振り込め詐欺かと思った」など、納税者からは戸惑いの声が聞かれる。なお、HPには「内部事務のセンター化は、納税者の皆様の所轄税務署を変更するものではありません」と記載している。

 今年7月の国税庁の人事異動後には、センター化の対象税務署は全税務署の過半数を占めるとみられている。

 26年には、全国の国税局と税務署をネットワークで結ぶ「国税総合管理(KSK)システム」が全面リニューアルされる予定だが、これに合わせて全税務署を対象にセンター化を完成させるもようだ。

<タックスワンポイント>取引先が手形不渡り、自社はどうする  得意先の経営悪化も報酬改定の理由

 役員報酬を年度途中で改定すると、その年度に受け取る報酬のうち改定前との差額分は原則として損金にできない。年度途中に自由に役員報酬を変えられると利益調整が可能になってしまうためだ。

 改定しても損金算入を認められる数少ない例外の一つが経営状態の著しい悪化などやむを得ない理由がある場合に報酬を減額する「業績悪化事由」だ。会社を立て直すために報酬減額が避けられないと客観的に判断できれば、改定後の報酬も損金にできる。

 業績悪化事由が認められるのは、(1)株主との関係上、業績悪化について経営上の責任を問われて減額したケース、(2)取引銀行との借入金返済のリスケ協議で減額を要請されたケース、(3)取引先等の信用確保のため経営改善計画を策定し、そのなかに役員報酬減額が盛り込まれたケースなど。主に自社の経営に責任があって業績が悪化した場合を想定しているが、現実には自社に責任がなくても業績悪化の波に飲み込まれることもある。例えば最大の取引先が不渡り手形を出してしまったケースなどが該当する。主要な得意先の経営悪化によって自社の経営の著しい悪化が避けられない場合も、役員報酬を減額する「やむを得ない理由」に該当する。

 だが実際には、業績悪化を理由とした役員報酬の改定は難しいようだ。国税当局は「法人の一時的な資金繰りの都合や単に業績目標値に達しなかった」というくらいでは業績悪化に該当しないと通達で規定している。過去には経常利益が前年比6%減少したという理由で役員報酬を減額した会社が「業績悪化に当たらない」とされたケースもある。

2024年18号(2024/5/16)

<タックスニュース>日本維新の会  「歳入庁」法案提出へ

 日本維新の会は、税と社会保険料の徴収業務を担う「歳入庁」を創設する法案を、近く国会に提出する。行政手続きの効率化や国民の利便性向上を目指すという。次期衆院選の公約にも盛り込む方針だ。

 現行制度では、税については国税庁、社会保険料については日本年金機構が担当している徴収業務を一元化する。内閣府の外局として2025年度中に設置するという。

 徴収業務の一体化により、税に比べて徴収率が低い社会保険料の徴収率向上につなげるとしている。デジタル化によって業務効率化を図るほか、将来的には全国民の負担と受益に関するビッグデータを人工知能(AI)で分析し、最適な所得の再配分を実現するという。

 税と社会保険料を一元化して所管する「歳入庁」構想は、2000年代初頭の年金未納問題をきっかけに議論されるようになった。09年~12年の民主党政権下で導入に向けた検討が本格化し、「18年以降速やかに創設する」と盛り込んだ工程表まで公表されたが、自民党に政権が移ったことで立ち消えになった経緯がある。

<タックスワンポイント>その稼ぎは本当は誰のものか  税務署が目を光らせる「真実の権利者」

 所得税法12条では、資産や事業から生じる所得を申告している「名義人」と別に、実質的な利益を得ている「真実の権利者」がいれば、所得はその権利者に帰属すると定めている。

 ある夫婦は、共有する不動産からの賃料収入を申告しなかった。建物の所有者は自分たちであっても賃貸契約は妻の父親名義で行われ、賃料についても父親の口座に振り込まれていたからだ。しかし国税当局は、賃料収入にかかる所得は夫婦に帰属しているとして、追徴課税を決定した。なぜなら複数あった賃貸不動産のうち、一部の賃料は父親名義の口座ではなく、夫婦の口座に直接振り込まれていた上に、建物の管理費や不動産の固定資産税も夫婦の口座から支払われていたという。

 さらに国税当局の調べによって、父親名義の口座の住所が途中で変更され、その変更届に記載された書名の筆跡は夫のものに似ていることが明らかにされた。しかもその口座から出金が頻繁に行われていた場所は、夫の勤務先に近いATMだった。

 所得の真実の権利者を突き止めようと、税務署は徹底的に調査する。名義だけ別人にして所得を分けるというような浅はかな手は通用しないと考えたほうが良さそうだ。

2024年17号(2024/5/10)

<タックスニュース>固定資産税の過大徴収  専門家が語る税額是正の難しさ

 全国で固定資産税の過大徴収が絶えない。自治体の計算ミスが主な要因だが、納税者がその誤りを指摘するのは難しい。

 所有する不動産の固定資産税が過大徴収されているのではないか。それを確認するには、「不動産の評価額の算出過程を知り、間違っているのか、どこで間違えたのかを検証する必要がある」というのは、フジ総合グループ大阪事務所の住江悠不動産鑑定士だ。その作業は当然ながら素人の手に負えるものではなく、専門家の力を借りなければならない。

 そうした手間を惜しみ、素人が役所に直接出向くような行動は「やめたほうがいい」という。住江氏が知るケースでは、ある不動産オーナーが固定資産税について評価額の見直しを求めたところ、なんと過大徴収されているどころか、計算ミスによって実際よりも安くなっていたことが判明。誤りを指摘したつもりが、かえって税額を増やす結果となったそうだ。

 自治体の評価ミスを見つけたところで、すぐ過大徴収分が返ってくるとも限らない。固定資産税アドバイザーの稲垣俊勝氏(瑞宝興業会長)によれば、「自治体は納税者に対して、見せかけの対応しかしてくれない」という。

 稲垣氏がある土地の道路幅が間違って表記されているのではないかと自治体に問い合わせたところ、数字のミスはあっさり認めたものの、評価額は修正されなかった。なぜ修正されないかのかと聞くと、「まだ誤びゅう訂正の表が回ってきていないだけ」とはぐらかされたという。だが、その後も誤りは訂正されなかった。

 こうした自治体を相手に法廷で争うとなると、「あちら(役所)は税金を使って裁判する。でも、こちら(納税者)は自己負担で裁判費用を賄う必要がある」(稲垣氏)。

 固定資産税の過大徴収を指摘し、役所に誤りを修正させて正しい税額へ是正させようとするなら、専門家の力を借りて慎重に準備していくしか道はなさそうだ。

<タックスワンポイント>遺言を書いても安心できない遺留分の罠  最低限の取り分は用意しておきたい

 亡くなった人が遺言を作成していなければ、遺産をどう分配するかは遺産分割協議によって決める。協議の成立には相続人全員の合意が必要となり、相続人の中に1人でも異議を唱える人がいれば協議は成立しない。その場合は裁判所での調停・審判などによって決着するしかない。

 父母や配偶者、子など一定範囲の法定相続人には「最低限の遺産を取得できる権利」である「遺留分」が存在する。民法は、遺言で相続割合を自由に決定できると認める一方、「遺留分に関する規定に違反することができない」とただし書きを付けている。

 死亡時の相続財産だけではなく、特定の相続人へのまとまった額の生前贈与についても、「特別受益」として遺留分の計算基礎となる財産に加えられる。

 ある企業では、先代経営者が生前に自社株式100%を後継者である長男に生前贈与し、他の事業用資産についても遺言書を作成して長男に引き継ぐ旨を明記していた。すると死後に長女から「遺言の内容に納得できない。後継者に生前贈与された自社株式を含めて遺留分を侵害している」と主張されたという。後継者である長男への自社株式の贈与は死去の5年前に行われ、すでに贈与税の納付も済んでいたというが、残念ながら長女の請求は正当なものだ。長女を説得できない限り、長男が遺留分侵害額を用意して渡さなければならない。こうした相続トラブルを防止するためには、遺留分まで考慮した遺言を作成したり、遺留分に相当する金銭をあらかじめ準備したりしておくことが重要になる。

2024年16号(2024/4/25)

<タックスニュース>税金・社保「滞納倒産」  前年から急増3.4倍

 東京商工リサーチがまとめた「全国企業倒産件数(負債1千万円以上)」で、税金や社会保険料の滞納を苦に倒産する企業が、1年で3.4倍に急増していることが明らかとなった。コロナ禍の資金繰り支援として認められていた納税猶予が終了し、無利子無担保のゼロゼロ融資の返済が本格化していることが企業にとって負担となっている様子がうかがえる。

「税金滞納(社会保険料を含む)」が要因とされるケースは、2023年度に82件発生。前年の24件から急増した。14年度以降では、18年度の83件に次ぎ2番目の多さで、コロナ禍以降では最多を記録した。

 資本金別にみると「1千万円以上5千万円未満」が31件で、2年連続で前年度を上回った。構成比は約4割を占めた。「1百万円以上5百万円未満」が24件、「5百万円以上1千万円未満」が14件で、いずれも前年を上回った。「1億円以上」「5千万円以上1億円未満」も各4件あり、滞納倒産が大企業から中小・零細企業まで幅広く発生している。東商リサーチは「税金滞納倒産がさらに増加することが危惧される」としている。

<タックスワンポイント>中退共は短期離職者だと元本割れ  3年半以上で掛金上回り

 中小企業を対象とした退職金準備制度「中小企業退職金共済制度(中退共)」は、短期間で離職する社員ほど受け取る金額が少なくなるので注意しなければならない。勤務期間が2年未満の社員が中退共から受け取れる退職金は掛金を下回ることになる。

 まず、掛金の納付期間が1年未満の人には退職金が支給されない。また1年以上2年未満の人も、退職金は支給されるが掛金相当額を下回る。2年から3年半の人でも、掛金と退職金の額は同額にとどまる。厚生労働省の調べでは、新規採用した社員の3割は3年以内に離職するというが、それに該当する人は"元本割れ"してしまうということになる。

 なお、中退共には費用の一部を国が助成する仕組みがある。新しく中退共に加入する事業主には、掛金月額の半額(従業員ごとの上限5千円)が加入後4カ月目から1年間、国から助成される。パートタイマーが掛金月額2千円~4千円で加入していれば、さらにそれぞれ300円~500円の助成金が上乗せされる。また加入済みの事業主も、掛金月額1万8千円以下の従業員の掛金を増額する際には、増額分の3分の1の金額を1年間受け取れる。

2024年15号(2024/4/18)

<タックスニュース>子育て支援金  高所得者年2万円の負担増

 少子化対策の財源確保のために公的医療保険料に上乗せする「子ども・子育て支援金」を巡り、年収1千万円を超える高所得者の負担額が年間約2万円に上ることが分かった。こども家庭庁が試算を示したもの。

 支援金制度は2026年度に始まり、徴収総額を1兆円とする28年度に制度が確立する予定。制度が整う28年度以降の徴収額は、年収200万円の人で月350円ほどだが、年収が高くなるにつれて負担は増し、年収1千万円の人だと月額1650円。年額に換算すると1万9800円となる。今年2月の時点で岸田首相は、1人当たりの負担額が月平均500円弱になると説明していた。

 今回の試算は、会社員らが加入する公的医療保険(協会けんぽ・健保組合・共済組合)の被保険者1人当たりの負担額を示したもの。関連法案の審議に当たり野党側が提出を求めていた。

 加藤鮎子こども政策相は記者会見で「正確に試算することは難しいものの、参考になるものとして21年度実績の総報酬で機械的に計算した」と説明。その上で「政府が総力を挙げて取り組む賃上げにより、今後、総報酬の伸びが進んだ場合には数字が下がっていく」と、希望的観測ともとれるコメントを付け加えた。

<タックスワンポイント>不動産取得税  贈与は課税、相続なら非課税

 不動産を取得すると、不動産取得税の納税通知書が都道府県から送られてくる。固定資産税などと異なり取得時1回限りの税金ではあるものの、その負担は決して軽くはない。

 取得税は土地や家屋を購入したときだけでなく、贈与によって得たときも同様に課税される。婚姻期間が20年以上の夫婦間の不動産の贈与は2000万円まで贈与税がかからないが、その場合でも不動産取得税を免れることはできない。さらに不動産取得税では、登記の有無も問われない。登録免許税は不動産を取得し、所有権の移転登記をしなければ課税されないが、不動産取得税はそうはいかない。

 取得税が課されない例外が、相続だ。相続であれば不動産取得税は課税されない。不動産取得税というのは、生きている人から不動産を取得した際に課税されるというのが原則だからだ。

 ややこしいのが、贈与税の課税方式の一つである「相続時精算課税制度」だ。同制度を利用して受け取った不動産には不動産取得税が課税される。なぜなら、同制度は「相続」と名称が付いているのでまぎらわしいものの、この制度は生きている人から相続が発生する前に「贈与してもらう」制度だからというのが理由となる。

2024年14号(2024/4/11)

<タックスニュース>複雑すぎる「定額減税」  自治体からは不安の声

 2024年度税制改正法案が3月28日、参議院本会議で可決、成立した。所得税と住民税から1人当たり計4万円を減税する定額減税の6月開始も決まった。ただ、減税と給付を組み合わせた複雑な事務作業に対する自治体の不安は残ったままだ。

 岸田文雄首相はこの日の記者会見で「官民が連携して、物価高を上回って可処分所得が増えるという状況を確実につくり、国民の実感を積み重ねていく」と強調した。

 連合の24年春闘の2次集計では、中小企業でも平均賃上げ率が4.5%に達した。定額減税は集中するボーナス期を意識して6月から始まり、手取り給与の上昇を実感させる狙いがある。政権が目指す「賃金が持続的に上がるという好循環」を実現するために着々と足固めを進める。

 一方で、減税と給付の実務を担う企業や自治体は、税務や給与計算システムの改修といった準備に追われ、事務作業の複雑さに困惑している。中でも自治体の担当者が頭を悩ませているのが「調整給付」の仕組みだ。

 定額減税は、所得税と住民税所得割を課税されている納税者とその扶養家族が対象となる。ただ、一部の低所得層は納税額よりも減税額が少なく、減税額が余ってしまう。この残額を現金給付するのが調整給付で、実施主体の各自治体は給付額を計算しなければならない。

 しかし、24年分の所得税から引き切れなかった減税額が分かるのは、25年の2~3月の確定申告が終わってからだ。給付はその後の住民税が確定する5~6月以降となり、野党から「足元の物価高対策としては遅すぎる」と批判された。

 この問題の解決策として政府が示したのが、デジタル庁による「推計所得税額等算定ツール」(仮称)の開発だ。自治体が持つ住民税などの情報をアップロードすれば、自動的に今年の所得税額が推計される。自治体は結果を元に給付の準備を進め、今夏にも調整給付を始められるという。

 ただ、ツールの完成は5月末。一部自治体の担当者からは「実際に使えるかは完成したツールを見てみないと分からない」と不安視する声も上がっている。

<タックスワンポイント>役員の自宅で得意先を接待  費用にできる?

 会社の得意先を飲食店で接待することは企業にとって日常だが、相手様ともっと深くお付き合いしたいときには、役員が自宅に招いてもてなすこともあるだろう。その際、振る舞った飲食にかかった費用は交際費として計上できるのか。

 まず、交際費とは、その会社の得意先や仕入先その他事業に関係ある者に対する「接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為のために支出するもの」とされている。そして、その接待を行う場所については特に決められていない。したがって、役員や社員の自宅で接待した費用も理屈上は交際費に該当することになる。

 だが、交際費に該当するためには、その接待の明確な目的が問われることになる。目的が、会社の業務に関連して得意先と親睦を深めることであれば、その費用は会社の交際費に該当することになるが、役員と得意先が友人関係で個人的な付き合いでの招待であるというような場合には、その費用は役員個人が負担すべきものとなり、会社の費用とすることは認められない。もし個人的な費用を会社の費用としていると、その費用相当額は役員に対する給与として取り扱われることとなるので気を付けたい。

2024年13号(2024/4/4)

<タックスニュース>高まる政治不信  裏金議員は納税せよ

 自民党派閥の政治資金規正法違反事件を巡り、「裏金議員」たちの納税意識と一般納税者の常識との乖離がさらに顕著になってきた。政治不信が高まる中、政治資金収支報告書に未記載だった裏金に対して納税を求める声が広がっている。

 自民党の調査報告書では、2018~22年に派閥から還流されて不記載(一部は誤記載と主張)だった政治資金パーティー収入は計5億7949万円だった。還流を受けた議員らは、清和政策研究会(安倍派)79人、志帥会(二階派)6人の計85人に上った。不記載だった理由としては、秘書が事務所で現金保管し、必要に応じて会合費として支出していたからなどと説明している。

 立憲民主党の枝野幸男前代表は国会で「2年間報告がなかったお金を政治活動費と言われても、国民は納得できない」と追及。だが「裏金議員」の多くは、領収書や請求書が確認できたものに限り政治資金収支報告書を訂正して支出に計上したとし、会合には同僚議員やマスコミが出席していて非課税の「政治活動費」に該当すると主張している。

 政治団体は大学のサークルや自治会と同様に、主として非営利で活動する法人格のない団体に分類される。収益目的の事業を営んだ場合を除いて、法人税は原則非課税だ。

 しかし、政治家個人が資金を受領すると、「政治家個人の所得に当たる」とみなされるため、所得税法の課税対象となる。還流資金が、政治団体と議員個人のどちらに帰属するかによって課税の可否が決まることになる。還流資金が課税対象になる可能性はあり、「秘書が収支報告書に記載せずに資金を事務所の金庫で保管していた場合、還流資金は政治家個人の『雑所得』とみるのが自然だ」と税務調査の必要性を指摘する専門家もいる。

 また、与党内からも納税の必要性に言及する声が聞かれ、河野太郎デジタル相は、領収書がないものについて「仮に所得であったなら、加算税を付けて国に返納するなり、党を経由して国に返納するなりすることは一案だ」と述べている。

 国税当局が「裏金議員」の税務調査に乗り出すのかは不明だが、関係議員の処分の決定後、納税を巡る議論はピークを迎えそうだ。

<タックスワンポイント>生命保険の払済と転換の違いはドコ?  転換には経理の「洗い替え」が必要

 資金繰りが苦しくなれば、これまで節税効果を目当てに加入していた生命保険の保険料支払いが負担となることがあるかもしれない。そうしたときには解約するのも一手だが、これまで積み立ててきた分を無駄にしたくないのであれば「払済」や「転換」も選択肢に入れたいところだ。

 保険期間の途中で保険料の支払いを中断し、それまでに積み立てた保険料の範囲内で、保険金額を減額した新たな契約に変更する手法を「払済保険」と呼ぶ。保険料の支払いができないと通常は契約解除または失効になるが、払済保険に変更することで、解約返戻金を利用して保障を継続させることができるわけだ。

 一方、契約している生命保険をいったん解約し、その解約返戻金などを新たな生命保険の保険料に充当して別の保険契約に切り替える手法を「転換」と呼ぶ。現在の保障内容が過剰だと感じているなら、転換を利用すれば、保険料負担を一定範囲に抑えつつ新たな契約を締結できるわけだ。保険会社によるものの、転換後の契約が無効となってしまったケースや転換後契約で保険金等が支払われない場合などには、転換前の条件で保険金を支払ったり転換前契約を復旧させたりできることもある。払済保険と転換は、解約返戻金などを一時払保険料として充当する点では一致しているものの、後者が保険期間の変更が可能なのに対して、前者は保険期間の変更がない点が異なる。また払済保険では、保障金額が元の保障額よりも小さくなるほか、付帯していた各種特約も消滅することになる。

 転換にもデメリットはある。例えば保険料は転換申込時の年齢で計算されるため、既契約の保険に加入した当初より割高になることが多い。また形としては新たな保険を契約することになり、転換後契約の保障額に対する告知や検診が必要なので、検診の結果などによっては加入できない可能性もゼロではない。そして何より、転換後契約の予定利率が適用されるため、低金利の状況では当初の運用利率が保障されない点が大きい。

2024年12号(2024/3/28)

<タックスニュース>経営者保証  保証料の上乗せで不要に

 信用保証協会に支払う保証料を上乗せすると経営者保証が不要となる新たな制度が、3月15日にスタートした。社長個人が会社の債務の連帯保証人となる経営者保証は、中小企業の事業拡大や事業承継を妨げる一因になっているといわれる。新制度が経営者にとって助けになることが期待される一方で、保証料を上乗せしてまで解除する必要はないとの声もあり、どれだけ利用されるかは未知数だ。

 新制度は、信用保証協会が提供する債務保証に利用できる。条件となるのは、(1)過去2年間(法人の設立日から2年経過していない場合はその期間)に決算書等を申込金融機関の求めに応じて提出していること、(2)直近の決算で代表者への貸付金等がなく、かつ、代表者への役員報酬、賞与、配当等が社会通念上相当と認められる額を超えていないこと、(3)直近の決算で債務超過でないこと、または直近2期の決算で減価償却前経常利益が連続して赤字でないこと、(4)上記(1)と(2)については継続的に充足することを誓約する書面を提出していること――というこれら全てを満たした上で保証料を上乗せすれば融資時に個人保証を付けずに済む。

 上乗せする保証料は、(3)の要件の両方を満たすなら本来の保証料率に0.25%上乗せ、いずれか一方を満たすか法人の設立後2事業年度の決算がないなら本来の保証料率に0.45%上乗せとなる。また制度開始から3年間の時限措置として、上乗せする保証料の一部を国が補助する。

 日本の中小企業の4割が信用保証制度を利用しているが、そのうち7割で経営者個人が会社の連帯保証人となる「経営者保証」を提供している。経営者保証があると大胆な経営判断ができず、また債務を引き継ぐことになる後継者が尻込みするなど、中小企業の成長を妨げているとの指摘がかねてよりあった。今回の新制度でそうした不安を取り除き、生産性の向上につなげるのが国の狙いだ。

 ただ制度の実効性に懐疑的な声もある。銀行取引コンサルタントの上田真一氏は、「将来の万が一の不安を取り除くために保証料率を上乗せしてまで保証を外そうという経営者は少ないのではないか。また制度に特別なメリットを感じていない金融機関が率先して勧めることは考えづらく、周知がなかなか進まない可能性もありそうだ」と指摘する。

<タックスワンポイント>家賃にかかる消費税の注意点  居住か事業かで扱いが変わる

 賃貸物件にはアパート、店舗、事務所、倉庫などさまざまなものがあるが、どれも入居者がオーナーに賃料を支払うという点は変わらない。しかし税務の観点からみると、その物件が「居住用」か「事業用」かで、取り扱いは大きく変わる。

 物件が店舗や事務所など業務用であれば、入居者がオーナーに払う家賃には、必ず消費税が含まれる。家賃だけでなく、管理費、共益費、礼金の全てに消費税がかかることになる。

 一方、居住用のアパートやマンションの入居者が支払う家賃には、消費税が含まれない。管理費、共益費、礼金も同様で、これは「ただそこに住むだけ」なら収益が発生しないので、消費税の担税力がないとみなされるというのが理由となっている。

 しかし居住用物件であっても、入居者が払うお金すべてが消費税を含まない支払いかというと、そうではない。駐車場代、インターネット料金、鍵の交換代など、入居者が設備を利用したりサービスを受けたりするようなものについては消費税を含んだ料金を支払う必要がある。非課税となるのは、あくまで家賃の支払いに限られると認識しておきたい。

 なお賃貸オーナーが入居者から受け取るお金で気を付けたいのは、中途解約の違約金だ。契約期間の途中で入居者から解約の申し入れがあれば、オーナーは中途解約の違約金として数カ月分の家賃相当額を入居者から受け取ることがある。この違約金については、オーナーの逸失利益を補てんするために受け取るものなので、性質としては「損害賠償金」となる。損害賠償金には、消費税はかからない。一方、立退時の原状回復工事に、入居時に預かった保証金の一部を充てることがあるが、オーナーが原状回復工事を行うことは入居者に対する役務の提供に当たるので、工事費に相当する金額には消費税が課される。

2024年11号(2024/3/21)

<タックスニュース>クラウドサービスのコンカー  インボイス要件緩和を提言

 出張・経費クラウドサービスを提供しているコンカー(東京・千代田区)が、インボイス制度の要件緩和を求める提言を発表した。キャッシュレス決済を利用した経費精算で、インボイスの受け取りを不要にするべきと訴えた。

 橋本社長は、「日本は今後、労働人口の減少が懸念されている。人手が足りなくなっていく中で、経費精算のような付加価値を産まない業務を削減することは、日本として早急に取り組むべき重要な課題だ。日本の競争力強化、生産性の向上のために、私たちは要件緩和を目指し、関係各所の連携を進めていく」とコメントしている。

 インボイス制度の開始前は、キャッシュレス決済時に明細データが経費精算システムと連携していれば領収書の受け取りは不要だったが、制度開始後は明細データにインボイスに必要な情報の記載がないために、キャッシュレス決済時でも紙の領収書をもらう必要が出てきた。

 コンカーが行ったアンケート調査では、インボイス制度開始によりキャッシュレス決済時にも領収書をもらう必要が生じたことについて、経費管理者の85.4%と経費申請者の69.4%が「面倒になったと思う」と回答している。

 コンカーはインボイス制度による経費精算業務の負担を年間人件費に換算すると1兆4045億円になると試算しており、経費精算作業に費やす時間が増加することで、生産性が下がることを指摘した。

<タックスワンポイント>LED取替は性能アップでも損金可  「設備のなかの一部品に過ぎず」

 政府は環境政策の一環として、2030年までに国内の照明の全てをLEDにする計画を掲げている。経済産業省の統計によると、LEDランプの市場出荷額は323億円で、蛍光ランプやHIDランプを含む光源類市場全体の24%を占める(22年度)。

 旧型の蛍光灯を使っていた事業所が全てLEDに取り替えるとすると、ワンフロアでも数十万円の出費が必要だ。その購入費用について、一度に損金にできる「修繕費」か、資産の種類に応じて数年に分けて償却しなければならない「資本的支出」かは迷うところだろう。

 国税庁は修繕費を「資産の維持管理や原状回復のための費用」、資本的支出を「使用可能期間を延長させ、価値を増加させる費用」とそれぞれ定義付けているが、その線引きはあいまいな部分も多い。通常の蛍光灯をLEDランプに替えれば、節電効果や使用可能期間は一般的に向上するので、資本的支出の条件に当てはまるようにも見える。しかし国税庁のホームページ上の質疑応答事例では、LEDを「照明設備が効用を発揮するためのひとつの部品」と位置づけ、部品の性能が上昇したことをもって照明設備としての価値が高まったとは言えないという理由で、修繕費に該当するとしている。

 質疑応答事例の回答要旨では「節電効果や使用可能期間などが向上している事実をもって(中略)資本的支出に該当するのではないかとも考えられますが」と前置きした上で修繕費になるとしており、国税当局も判断に苦しんだ様子がうかがえる。一度に損金にできない資本支出とすると、国が推し進める普及方針に水を差してしまうという思惑があったのではないかと勘繰ってしまうのも、仕方ないかもしれない。

2024年10号(2024/3/7)

<タックスニュース>企業の“税の成績表”  国税庁が税務CG公表

 国税庁は2月21日、大企業に対して税務上のコーポレートガバナンス(企業統治)を高めるよう働きかける「税務コーポレートガバナンス」(税務CG)の実績を公表した。申告書の点検や面談などを通じた取り組みが企業の税務コンプライアンス向上に有効だとして、今後は対象企業を増やすことも検討するという。

 税務CGは、企業に対して税務調査を実施した際に、税務に関する会社の体制などを確認・判定し、国税局調査部長などが企業の経営責任者と面談して評価結果を伝達。その上で改善事項について意見交換するなどの取り組みを行う。いわば企業の“税の成績表”ともいえ、当局はこれを「協力的手法」と呼び、現在は資本金40億円以上の「特官所掌法人」500社を対象に行っている。

 今回公表された取り組みの実績によれば、2022事務年度には138法人に対して税務CGの判定を行い、31法人を「良好」、91法人を「おおむね良好」と判定した。一方、「改善が必要」も16法人あった。具体的な評価項目では、「経営責任者等の関与・指導」では74%を良好とする一方で、「税務に関する内部牽制の体制」や「税務調査での指摘事項等に係る再発防止策」では、良好と判定したのは3割に満たなかった。この2項目では改善が必要と判定された法人が4割弱に上り、多くの企業に足りていない部分だと当局が見ていることが分かる。

 当局はこれまでの実績を踏まえ、「特官所掌法人以外の法人であっても、税務CGの充実を通じて税務コンプライアンスの維持・向上を図ることが効果的」だとして、「対象法人拡大や対象法人の実情に応じた実施方法」を今後検討していくとしている。

<タックスワンポイント>老後見据えたリフォームで相続税対策  暮らしは快適に、評価額は7割に

 高齢社会化が進む中で、資産を次世代に継承するだけでなく、本人が満足する人生の閉じ方を考える“終活”の考え方が定着して久しい。人生100年時代とも言われ、老後の人生が数十年続くことが珍しくない現代では、高齢化に伴って身体能力が衰えゆく中で老後をどう快適に過ごすかは誰もが考えなければならないテーマだろう。

 住宅でいえば、若い頃に買ったマイホームがバリアフリー仕様になっていることはまず考えられない。都市部では3階建て住宅も多いため、年を取れば階段を上がるだけでもひと苦労だ。たとえ今は不自由なく暮らせていても、体のどこかが不自由になったとき、今と同じように住める保証はどこにもない。そうした問題を解決する方策として、自宅がより住みやすくなるよう、段差をなくしたり水回りを一カ所に集約したりするといったリフォームを施すことは一つの手段だ。

 老後を見据えた、言わば「終活リフォーム」のメリットは、慣れ親しんだ自宅に長く住み続けられるだけでなく、長期間にわたって高齢者施設に入ったり、住みやすいように自宅を一から建て替えたりするよりも、コストがかからずに済む点だ。また築10年を超える持ち家にバリアフリー化を進めるリフォームを行うと、家屋にかかる固定資産税の3分の1が1年間免除されるという税優遇もある。税優遇だけでなく、バリアフリーに向けた取り組みを支援する施策は自治体レベルでもあり、様々なサポートを受けることが可能だ。

 さらに終活リフォームは相続税対策にもつながる。建物にリフォームを施すと、国税庁は「リフォーム費用の7割分の価値が上昇したとみなす」という判定基準を用いている。つまり同じ500万円でも、現金のまま持っていれば10割評価されたものが、リフォーム費用として使うことで相続財産としては7割の350万円で評価される。住みよい住宅を手に入れられることに加えて、評価額を3割削ることができるわけだ。もしその家を子に相続するのであれば、リフォームの恩恵はそのまま子も受けられることになり、他のところで無駄遣いをするよりはよほど有効な相続税対策ではないだろうか。

2024年9号(2024/2/29)

<タックスニュース>自民党パーティー券問題の影響 「#確定申告ボイコット」がトレンドに

 自民党の派閥パーティー裏金事件による政治不信は、2月に始まった確定申告にも影響を及ぼしている。政治資金は原則として課税対象でなく、政治資金収支報告書への記載漏れがあっても書類を訂正すれば責任は問われない。一方で、国民の納税で過少申告があれば追徴課税される。SNSでは「#確定申告ボイコット」が一時的にトレンドワードになるなど、政治への不信感が高まっている。

 自民党はこのほど、2018年から22年までの5年間にパーティー券収入の還流(キックバック)のほか、中抜きによる収支報告書への不記載や誤記載があったかを調査。結果として不記載などは、清和政策研究会(安倍派)と志帥会(二階派)の議員らを中心に85人、総額は約5億8000万円に上った。

 政治団体がパーティーや寄付で集めた政治資金は、原則として課税されない。資金提供する側の政治活動の自由に加え、営利目的ではない政治活動に使うことが前提とされるためだ。ただし、議員本人の収入とみなされ雑所得に該当する場合は課税対象となり得る。国税庁は「政治活動に使われない政治資金の残高があれば、雑所得として課税対象になる」と説明する。

 野党は「何千万円もの裏金を受け取っておきながら、なぜ犯罪にならないのか。脱税が問えないのか」と国会で追及。鈴木俊一財務大臣は「国民がそうした怒りを持っていることは大変大きな問題。納税されている方に不公平な思いを持たれないよう丁寧な対応をする必要がある」と述べた。

 だが実態は、収支報告書で詳細は「不明」と訂正し、説明を逃れる書類が多い。ある自民議員は「口座に入れば他の金と峻別できず、私的に流用しても隠し通せる」と指摘。有権者から「1円単位で真面目に納税するのがバカらしくなった」と言われ慌てて説得したというが、「使途不明でも非課税と言われて、納得するほうが難しい」と国民の反発にも理解を示した。

<タックスワンポイント>歯の治療は保険外診療でも控除可能?  高いほど良いとはかぎらない

 歯医者に行って、もし虫歯が見つかれば治療ということになる。そこで「詰め物」の素材として使われるものには、金歯や銀歯の他にもジルコニアやセラミックなど高品質で見た目の美しいものも多く存在する。しかし、これらの高価な素材は原則として保険診療の対象にならず、全額が自己負担となってしまうのが難点だ。

 だが保険診療でなくても、医療費控除は使える可能性がある。医療費控除も保険診療と同様に「一般的に支出される水準を著しく超える治療費」は対象とならないと定められているが、その境界線は必ずしも保険診療と同じではないからだ。この点を勘違いしている人は少なくない。

 例えばジルコニアは歯の詰め物や被せ物に使われる素材で、白く硬く美しいことが特徴だ。このジルコニアを使った詰め物は保険診療にならず、全額が自己負担となる。しかし医療費控除については歯の治療材料として一般的に使用されていることから対象となるのだ。詰め物や義歯は一本数万円することもあり、医療費控除が使えるかどうかは大きな違いとなる。自由診療の対象だからといってあきらめずに歯医者さんに確認をするようにしたい。

 もっとも「高いものが良い」とは必ずしも言えないのが歯の世界だ。詰め物の素材には、それぞれ特色があり、人の持つ歯の悩みも様々。歯の状態や噛み合わせには個人差があり、人によっては詰め物の見た目よりも丈夫さが求められることもある。値段や税金にとらわれず、自分に最も合った素材を、信頼できる歯医者さんと相談の上で選ぶことが一番大事だ。

2024年8号(2024/2/22)

<タックスニュース>少子化対策「支援金」負担額  初年度は月300円弱

 少子化対策のために新たに導入される「支援金制度」の負担額について、加入者1人当たり月平均で2026年度は300円弱、27年度は400円弱になるという試算が明らかになった。政府は段階的に徴収する予定で、28年度は月平均500円弱と見込む。

 支援金制度は少子化対策の財源として、公的医療保険と併せて徴収する。初年度の26年度は6000億円、27年度は8000億円、28年度に1兆円を徴収する計画。政府はこれまで、加入者1人当たりの拠出額は、28年度に月平均で500円弱になるとの試算を示していた。ただし、所得や加入する医療保険によって負担額は変わり得る。低所得者や子育て世帯に対しては軽減措置も検討されている。

 少子化対策では3兆6000億円の財源が必要になる。政府は、徹底した歳出改革と既定予算の最大限の活用によって、財源の7割以上にあたる約2兆6000億円を捻出できると計算。残る1兆円を支援金制度として、国民や企業から徴収する。支援金制度が始まるまでは、つなぎ国債を発行して確保する。

 医療や介護などの歳出改革と賃上げを実施し、保険料などの負担を抑制して支援金制度を構築するため、政府は「実質的な負担は生じさせない」と強調してきた。岸田文雄首相は国会で「25年度以降は賃上げがないとしても、実質的に負担がない状況を実現する」と答弁。官邸幹部は「基本は歳出改革で、賃上げ効果がゼロになっても成立する支援金制度になっている」と話す。

 ただし制度をめぐっては与党内からも「分かりにくく、まだ説明が尽くされていない」との指摘がある。特に、支援対象でありながら一定の負担が懸念される子育て世帯への対応を中心に、丁寧な説明が求められている。

<タックスワンポイント>相続前後の預金引き出しは“争族”の元  民法改正で単独引き出し可能に

 2019年の民法改正で、相続人は各自の法定相続分の一定割合を、他の相続人の同意なく故人の銀行口座から単独で引き出せるようになった。引出額の上限は1つの金融機関当たり1人150万円までだ。

 税法上、死亡した被相続人の預貯金は相続税の対象となる財産だが、死亡の直前に多額の預金が口座から引き出され、それが被相続人の生活費や医療費など妥当な目的で使われていれば、その分は相続財産には含まれない。また一部の相続人が被相続人の死後に葬儀費用を負担した場合にも、その分は相続税上のマイナス資産として計算することができる。

 だが相続前後の預金引き出しで問題となるのは、なによりも相続人の間での、もめ事の種になることだ。相続では必ずといっていいほど家族間で争いが起きるとも言われるが、実際には同居していた長男夫婦などが家や預金の全てを相続し、葬儀も全て長男の責任で済ませ、弟妹たちには預金をいくばくかでも分けることで平和裏に終わることがほとんどだ。他の親族もそれを了承しているため、よほど資産家であるか、もしくはよほど仲が悪くなければ、もめることはない。

 だが、もし相続前後の預金引き出しが後に発覚すれば、それは火種となってくすぶることになりかねない。たとえ全てを承継する予定の長男であっても、多くのお金を動かすのであれば、相続人全員の了承を得て行うようにしたいところだ。

2024年7号(2024/2/15)

<タックスニュース>「外貨建て保険」販売過熱  元本割れリスクに警鐘も

 海外金利の上昇にともない円安が定着しつつある中、銀行窓口での「外貨建て保険」の販売が過熱している。保険機能と外貨での資産運用の両面をもつ一方、元本割れのリスクも相対的に高く、金融庁も警戒を強めつつある。

 外貨建て保険は顧客が支払った保険料を米ドルやユーロなどの外貨にしたうえで、欧米の債券などで運用する保険商品のことだ。通常の円建ての生命保険と同様、死亡時や病気により障害が残ったときなどに保険金が支払われる。

 2022年春以降に欧米の中央銀行でインフレ抑制のための金利の引き上げが進んだ一方、日本では日銀がいまだに金利を低く抑えたままだ。その結果、日本の円よりも金利の高い外貨で資産を運用した方が、利益が大きくなる傾向がある。実際、保険会社が顧客に約束する利回りは、円建て保険では1%程度だが、外貨建て保険の中では4%台の商品も珍しくない。超低金利下で本業の貸出で稼ぎづらい状況が続く銀行にとって、通常より高い手数料が得られる外貨建て保険は「渡りに船」の存在だ。金融庁によると、銀行窓口での販売額は22年度上期で1.2兆円と21年度下期の1.7倍に急増した。

 一方でリスクもある。保険の契約時から大きく円高に振れた場合、円で受け取れる保険金が減ってしまい、払い込んだ保険料を下回る元本割れに陥る。また、金利の動向によっては途中解約時の払戻金が減ってしまう契約もある。ある金融庁幹部は「退職金などを元本にした投資初心者の高齢者らは注意が必要」と語る。

 実際、販売窓口などには毎年1000件以上の苦情が寄せられている。銀行界では昨年、「仕組み債」と呼ばれる高リスク商品の不適切な販売で、千葉銀などが行政処分を受けたばかりだ。顧客への丁寧な説明よりも自社のノルマを優先する文化を見過ごせば、大きな不祥事にもつながりかねない。

<タックスワンポイント>補助金受給時に圧縮記帳で課税を回避  一時的な繰り延べは将来を見据えて利用

 補助金や火災保険金などを受けて固定資産を購入した際に、その購入価額から補助金の額を控除して購入価額とすることを「圧縮記帳」という。これにより補助金の益金の額が圧縮損の損金の額と相殺され、補助金分の課税負担が低くなる。

 補助金であっても税金を課すのが原則ではあるが、補助金は益金の額に算入されても、購入した固定資産は損金の額に計上されない。「収益増えて費用ゼロ」となれば、益金の額はほぼ法人税課税の対象となり補助金の効果が低下してしまう。そこで「圧縮記帳」という特例を設け、補助金への課税を一時的に回避して繰り延べることで、企業としてはきちんと補助金を設備投資に生かすことができるわけだ。

 ただし補助金ならば何でも圧縮記帳の対象になるわけではない。法人税法では圧縮記帳の対象となる補助金は国や自治体からのもので、受け取る法人は当該事業年度の固定資産取得などに使ったことなどの条件を限定している。また一般的に補助金というと「金銭」をイメージするが、金銭の代わりに固定資産そのものが国などから給付された場合も圧縮記帳の対象となる。

 なお圧縮記帳は課税を繰り延べるための会計処理であり、その年度の税負担を軽減する効果を持つものの、次年度以降に送っているに過ぎず、免税制度ではない点はよく覚えておきたい。つまり翌年以降は圧縮記帳分だけ課税が重くなるということだ。

 この繰り延べが表面化するのは、翌期以後の減価償却費計上時と資産の除却・売却時だろう。圧縮記帳をするということは、すなわち固定資産の取得価額を小さくすることを意味する。取得価額が減額されれば、その分減価償却額は小さくなり、将来の売却益や除却益は大きくなる。これらはすべて法人税などの増加に反映される。圧縮記帳は一時の節税にはなるものの、将来の節税を犠牲にするという側面を持つことに留意したい。さらに圧縮記帳は事務や経理の処理が複雑で面倒であることも踏まえ、補助金を受け取ったときは圧縮記帳を利用するか、慎重に検討したほうがよい。

2024年6号(2024/2/8)

<タックスニュース>自民党“裏金”問題  野党側は「脱税」を指摘

 元日の能登半島地震を受け、被災地支援策の議論が急がれるが、国会は自民党派閥を巡るパーティー券問題で紛糾している。ノルマを超えた売り上げの還流分が4000万円超の議員のみが立件される軟着陸となったためだ。野党はこの「裏金」を受けた議員と受領額リストの提示を求めたほか、「脱税だ」と攻勢を強める。税制上問題はないのか。

 国税庁によると、個人が受け取った政治資金は「雑所得」に当たり、最大55%の所得税・住民税が課される。岸田文雄首相は1月29日、衆院予算委の集中審議で「雑所得の収入として取り扱われ、そして収入額からの必要経費を控除した後、残額がない場合には、課税関係は生じない」と説明した。

 雑所得は不動産の売却益やサラリーマンの副業収入など他の所得に当たらない所得を指す。政治資金パーティーは利益率が約9割に達することもあり、必要経費は、場代や人件費、飲食料品などに限られ、課税所得が残らなければ開催する意味がない。

 本来は、雑所得を得るための必要経費を差し引いた残額に課税される。しかし、鈴木俊一財務相は昨年12月の参院予算委で「政治活動のために支出した費用の総額を差し引いた残額が課税の対象となる」と答弁。通常の必要経費に加えて、他の政治活動に使った費用を差し引くことができ、政治資金の特別扱いを認めたことになる。

 東京地検特捜部が立件したのは、還流分を政治資金収支報告書に記載しなかった政治資金規正法違反(虚偽記載)だった。報告書に記載されるのは、政治団体間の政治資金のやりとり。複数の税法の専門家は、今回の還流分は「政治資金ではない」とし、議員個人が修正申告する必要があると指摘する。

 政治団体間の寄付は現行法上、法人税が非課税となり、報告書を修正すれば「おとがめなし」となる。自民党安倍派の事務総長経験者ら幹部7人は修正申告し、1月26日に不起訴となった。岸田派も約2500万円の不記載があったが、立件されたのは元会計責任者のみ。不記載のあった派閥は相次いで報告書を訂正。岸田首相は岸田派から「事務的なミスの積み重ねが原因」と報告を受けたと自身の責任を棚上げにした。

 「収支報告書の訂正で、自民党の政治家が脱税しようとしている」。立憲民主党の小西洋之参院議員は1月29日の予算委で、岸田首相にこう詰め寄った。岸田首相は、報告書不記載の責任が会計責任者のみに問われないよう 「連座制の導入」に触れた。公明党が提案する政策活動費の使途公開の義務化も必要だ。

 税金が原資の政治資金は、国民が納得できるようにさらなる透明化が求められている。

<タックスワンポイント>確定申告での雑損控除のポイント  「原状回復」って具体的にどんなこと?

 自然災害により被害を受けた人は、確定申告の際に「雑損控除」を適用することで損害分を所得から差し引くことができる。雑損控除は、自然災害で住宅や家財に損害を受けた時に、本人または生計を一にする親族を対象として、「損害額から保険金や損害賠償金を差し引いた金額-所得の10分の1」か「損害額のうち、被災後の取り壊しや土砂除去などにかかった費用-5万円」のうち、多いほうの金額を差し引けるものだ。

 控除の対象となる金額は、地震で壊れた家財や、水害で流出してしまった現金というような直接的な被害だけではない。壊れてしまった家屋の再建費、泥の除去費用、ガレージの修繕など、災害に遭う前の状態に戻すための費用も幅広く含まれている。雑損控除の適用を受けるためには、確定申告書に被害額などを記載し、併せて災害のための支出を証明する領収書などを添付すればよい。

 注意点として、壊れた家をせっかく修理するのだからと元の状態より良いものにアップグレードしてしまうと、その部分については雑損控除の対象とはならないことだ。国税庁のQ&Aでは、「被害を受けた住宅等について行う原状回復のための修繕費用は雑損控除の対象となります」とする一方で、「被災直前よりその資産の価値を高め、その耐久性を増すための支出と認められる部分については、雑損控除の対象となる損失の金額には含まれません」と答えている。

 これは会社の税務申告でもたびたび判断に悩む、修繕費と資本的支出の話と本質は同じだ。ただし会社の場合、資本的支出とみなされた部分についても長年にわたって損金算入していくことが可能だが、個人は事業者でない限り減価償却の仕組みはないため、何の税制上の措置も受けられない。今後生活していくために必要ならいいが、「どうせ雑損控除で税金が戻ってくるだろう」などと思いこんで高価なリフォーム工事を実行してしまうといらぬ出費になる可能性がある。

 なお結果的に資産価値を高める工事をしたとしても、そのなかに原状回復部分が含まれていることもあるだろう。このように原状回復部分と資産価値を高める部分の区分が難しい時には、その工事費用の総額のうち3割を原状回復、7割を資産価値を高める部分として申告することが認められている。

2024年5号(2024/2/1)

<タックスニュース>ビル・ゲイツ氏「最も裕福な我々に課税を」  「富裕税」導入を提言

 マイクロソフト社の共同創業者で慈善事業家のビル・ゲイツ氏が、世界経済フォーラムで富裕層への増税を訴えた。ゲイツ氏はこれまでもたびたび富裕層がより税負担を課されるべきと主張してきたが、「現在に至るまで増税が進んでいないことに驚いている」と述べ、不平等の是正に自身を含む富裕層の財産が使われることを望んだ。

 1月19日までにスイスのダボスで開催された世界経済フォーラムでのパネルディスカッションで、ゲイツ氏は富裕層への課税および、先進国から発展途上国への寄付金の増額を提案した。「国であれ企業であれ個人であれ、最も多くの財産を持っている人々はもっと寛大になるべきだ」と述べた。ゲイツ氏によれば250人以上の超富裕層が賛同し、世界の指導者たちに向けた富裕税を課すように求める公開書簡に署名したという。書簡では、「富裕層に課税したとしても、彼らの子どもたちから財産を奪うことにはならないし、彼らの生活水準を根本的に変える」こともないとも記されているという。

 ゲイツ氏が“富裕税”を提言するのは、今回が初めてではない。2018年には、当時の米トランプ政権が作成した税制改革案について、「中間層や低所得者層に比べて経済的に恵まれている人のほうが劇的に多くの恩恵を受ける」と批判し、「私は他の誰よりも多い額を米国政府にこれまで納税してきた。だが政府は私のような立場にいる人々に対し、さらに高額な税金を課すべきだ」と語ったことがある。

 ゲイツ氏は慈善事業家としても知られ、22年には慈善基金団体に約2.7兆円を寄付した。元妻のメリンダ氏と合わせた生涯寄付額は7.4兆円を超え、著名投資家のウォーレン・バフェット氏を超えて史上最大の“慈善家”となっている。

 国際NGOのオックスファムの調べによれば、コロナ禍の約2年間で世界の99%の人が収入を減らした一方で、世界で最も裕福な10人の資産は倍増したという。

<タックスワンポイント>詐欺の被害は税金では救済されず  確定申告期に“ニセ国税”が多発

 毎年、確定申告の時期に増えるのが、税務署員を装って現金自動預払機(ATM)に現金を振り込ませる「振り込め詐欺」だ。言うまでもなく、国税局や税務署が金融機関の口座を指定した上で税金の振り込みや還付金の支払いのためにATMの操作を求めることは絶対にないが、近年では現金を直接狙うだけでなく、勤務先や取引銀行の情報を問い合わせる事例、未公開株や社債の取り引きに関連して銀行の口座情報を聞き出そうとする例など、さまざまな被害が報告されている。

 また電話だけでなくメールによる詐欺も増えているほか、振り込め詐欺の手口は複数人がそれぞれ税務署、警察、金融機関を装うなど巧妙さを増していて、見抜くのがますます難しくなっているという。「自分だけは大丈夫」などと自信を持たず、何事も疑ってかかる心構えが求められていると言えるだろう。

 覚えておきたい知識として、本物の税務職員が税務調査や滞納整理を行う時には、必ず顔写真のある身分証明書を携帯している。少しでも怪しいと思ったときには身分証明書の提示や、税務署への直接問い合わせによる確認をすべきだ。仮に本当に税務署からの連絡であったとしても、一度「顧問税理士に相談して折り返し連絡します」と答える習慣をつけておくことも、詐欺被害の防止には役立つはずだ。

 もちろん振り込め詐欺の手口は税務署を名乗るものだけではない。過去にあった事例では、長男を名乗る電話で「確定申告があって税務署に3千万円払わなければいけない」、「頭金が今日中に必要」などと伝えられた女性が、自宅まできた男に現金150万円を渡してしまったという。

 詐欺ばかりは、いかに税理士が有能であろうとも、納税者本人が気を付けていなければ防ぐことはできない。また詐欺の被害は盗難などと異なり、雑損控除などの税の救済手段も適用されない。詐欺に引っ掛かったのは本人のミスだからという容赦のない理由だ。

 詐欺の手法は年々新しく、また高度化しているため、重ねて言うが「自分だけは大丈夫」と思い込まず、不審な点がなくても必ず家族や顧問税理士、あるいは警察などに確認することを心掛けたい。

2024年4号(2024/1/25)

<タックスニュース>ガソリン税「被災地復旧に不可欠」  トリガー条項が再び議論に

 ガソリン税の上乗せを停止する「トリガー条項」の凍結解除を巡り、国民民主党が能登半島地震の被災地復旧のためにも「ガソリンの値下げが不可欠」との認識を示している。ただ、駆け込み需要や終了前の買い控えに伴う物流の混乱や制度の技術的な問題などが懸念材料となっている。価格高騰対策の補助金が切れる4月末までに結論を出す見通し。

 国民民主党の玉木雄一郎代表は1月15日、石川県かほく市など金沢市周辺の被災地を視察。翌16日の記者会見で「補助が入っているにもかかわらずやっぱり高い。復旧復興の事を考えても、特に地方はただでさえガソリンが手に入らない。復旧復興を進めるためにも、ガソリン値下げは不可欠だ」と述べた。

 トリガー条項は、2010年に旧民主党政権が創設した。ガソリン税は1リットル当たり53.8円だが、ガソリンの全国平均小売価格が3カ月連続で同160円を上回った場合に25.1円の上乗せを止める。軽油にかかる軽油引取税も17.1円を同様に止める仕組み。11年の東日本大震災の復興財源を確保するため、発動せずに凍結されたまま現在に至る。

 資源エネルギー庁によると、ガソリンの店頭価格は1月9日時点で1リットル当たり175.5円で、前週より0.5円上がった。政府は22年1月以降、計6兆円超の補助金を投入し、今年4月末までの延長も決めている。現行の補助率は同185円超なら全額、185円以下なら60%となっている。

 トリガー条項の凍結解除は現在、自民、公明、国民民主の3党が立ち上げた「原油価格高騰・トリガー条項についての検討チーム」で議論されている。12日に開かれた、実務者級の初会合では、トリガー条項の凍結解除が見送られた22年4月までの検討内容について、発動時の買い控えや解除前の駆け込み需要による混乱、ガソリン製造業者と販売業者が税金を還付したり追加で支払ったりする実務上の負担増など懸念材料への認識を共有した。

 今後の検討課題となる項目で、国民民主党から出席した礒崎哲史参院議員は会合後、「まず実務ベースとして元々あった課題を進めていく。加えて、能登半島の災害への対応も加えた形で議論を進めていくところまで確認した」と語った。一度は見送られた議論が震災の影響でどう変化するのか注目が集まっている。

<タックスワンポイント>国税当局も注視するメルカリ所得  税務調査は1年間で約500件

 メルカリやヤフオクといったネットオークションの市場規模は、経済産業省の調査によれば1兆円を超えるという。雑貨や古本だけでなく貴金属や自動車などの高級品が売られていることも珍しくなく、捨てるよりマシとネットオークションを利用して不要になった日用品を売った経験のある人も少なくないだろう。近年ではスマホアプリなどから簡単に売買のやり取りができる気軽さもあり、その市場規模は拡大し続けている。

 ネットオークションであろうがフリーマーケットであろうが、一定の儲けが出ているのなら確定申告を行い、所得に応じた税金を納めなければならない。ただし例外もあり、実際にはネットオークションで出品者となった経験のあるほとんどの人が以下のルールに該当するはずだ。

 「資産の譲渡のうち、家具、じゅう器(家庭用の道具)、通勤用の自動車、衣服などの生活に通常必要な動産の売却については、所得税を課さない」

 つまり日用品の処分としてオークションを使っている分には、それがいくらで売れようが、所得税を課されることはない。ただしオークションで売ることを前提として商品を仕入れたり、継続的に物を売って利益を得たりしていると、税務署から指摘される可能性はないとは言えない。なお「貴金属や宝石、書画、骨董(こっとう)など、1個あるいは1組が30万円を超えるもの」の売却は譲渡所得が発生するという規定もあるので、家にあるものなら何でも非課税というわけではないことを覚えておきたい。

 気になるのは、原則として非課税である通勤用の車が、金額基準の30万円を超える額で売れた時はどうなるかということ。そこは30万円超であっても通勤用のマイカーであれば非課税だが、フェラーリやベントレーといった高級車であれば通勤用に使っていたとしてもぜいたく品として課税する、という運用がされているようだ。

 市場が大きくなるということは、そこに“儲け”があることを意味するわけで、ネットオークションによる所得には課税当局の目が光っていることも忘れてはならない。各国税局にはインターネット取引を担当する「電子商取引専門調査チーム」という専担部署があり、メルカリやヤフオクといったネットオークションで生じた所得を捕捉しようと日々監視を続けている。2022年度には、ネットオークションやネット通販取引などを対象に472件の税務調査が実施された。

 もっともメルカリなどで日常的に利益を上げていても、よほどの“人気業者”でなければ税務調査が動くことはなさそうだ。ネットオークション絡みで税務調査を受けた人の1件当たりの申告漏れ所得額は1508万円だという。

2024年3号(2024/1/18)

<タックスニュース>大谷選手の“節税契約”を批判  「税制に著しい不均衡が生じる」

 大谷翔平選手が米大リーグのロサンゼルス・ドジャースと結んだ契約について、同球団が所在するカリフォルニア州の会計監査官が「税の公平な分配を妨げている」との声明を発表した。年俸の大部分を後払いにすることで税負担を減らせる現行制度を問題視し、連邦議会に対策を取るよう呼びかけている。

 大谷選手がこのほどドジャースと結んだ総額7億ドルの契約は金額も異例だが、さらに話題を呼んだのが、その支払い方法だ。年俸のうち約97%を後払いにすることで、ドジャースは年俸総額に応じて課される「ぜいたく税」を軽減し、大谷選手自身も支払い開始前に別の低税率の州に転居することで所得税負担を抑えられる。

 発表当初は米国内でも「節税面で優れている」と評価された今回の契約だが、それに「待った」をかけたのが、税収が減ることになるカリフォルニア州だ。同州の会計監査官マリア・コーエン氏は1月8日(日本時間9日)、『大谷選手の契約についての声明』と題した文章を発表し、「現行の税制では、最高税率にあたる幸運な人々に対して無制限の延期が許されており、税制において著しい不均衡が生まれている」と批判したとロサンゼルスタイムズ紙が報じた。

 カリフォルニア州は米国内でも高い税率で知られ、もし大谷が11年目以降に他の州に移住した場合、失われる税収は約9800万ドル(約142億円)に上る。毎年、州に入らなくなる所得税の額は、21年の納税者の下位178万人分に相当するという。

 コーエン氏はこうした振る舞いへの制限がないことが「所得の不平等を悪化させ税の公平な分配を妨げる」と指摘し、連邦議会に対し、不均衡の是正のため速やかに思い切った対策をとるよう求めた。

<タックスワンポイント>もしもの備え、マンションの地震保険  住民同士の修繕合意は困難

 能登半島で起きた大地震をきっかけに、自分の家が加入している地震保険をチェックする人が増えている。そもそも自宅が分譲マンションなのであれば、マンションの管理組合が多額の資金が必要になる大規模修繕に備えて計画的に修繕費を積み立てているのが一般的だ。この修繕積立金が十分でない状態で地震などの被害を受ければ、金融機関の融資を受けるか、所有者がお金を出し合って修繕資金を工面しなくてはならなくなる。

 そこで万が一に備えて加入するのが「地震保険」というわけだ。分譲マンションでは、専有部分は住民が個々に加入し、一方でエレベーターや付属設備などの共有部分については管理組合で加入することとなる。一般的な地震保険では、損害率3%以上20%未満の「一部損」の支払額は契約金額の5%、20%以上40%未満の「小半損」は30%、40%以上50%未満の「大半損」は60%、50%以上の「全損」で100%となっている。

 ちなみに東日本大震災で甚大な被害を受けた宮城県での地震保険加入率は全国で2番目の高さだったが、それでも加入率は32.7%であり、多くの人が補修費用をまかなえずにあきらめざるを得なかった。

 実情として、マンションの区分所有者によって懐事情はそれぞれだ。すでにローンを支払い終えている人もあれば、まだ数十年支払いが残っている世帯もある。修繕にかかるコストが大きくなれば、費用負担の合意形成も難しくなる。いざというときのために地震保険への加入を考えておきたい。

2024年2号(2024/1/11)

<タックスニュース>国税庁は前年度から予算が微減  税制改正経費は27%増

 政府が12月22日に閣議決定した2024年度予算案で、国税庁の予算は前年度比で4%弱の微減となった。納税者サービスのための「納税者利便性向上経費」や、税務大学校経費、国税不服審判所経費などが前年度より減少した。

 国税庁の24年度予算は6170億300万円で、23年度当初予算の6416億5200万円から246億4900万円マイナスと3.8%減った。納税者利便性向上経費が前年度比2.6%減、職場環境整備・安全対策経費が同7.6%減と減ったことなどが影響した。一方、前年に比べて増加したのは、国際化対策経費、庁局署一般経費、税制改正関係経費などだった。特に税制改正関係経費は前年から26.8%の大幅増となった。

 なおこれらとは別に、23年度補正予算で、インボイス制度に関する相談支援の強化に4億円、定額減税相談支援として17億円、日本産酒類の海外展開を支援する事業経費として14億円が措置されている。

 人員面では前年から1176人を増員する一方で、定員合理化によって1140人を削減。24年度の定員は5万6380人で、前年度より36人の増加となった。

 役職で見てみると、国際的な租税回避への対応などのために国税庁に「国際徴収調整官(仮称)」を設置する。また経済取引のデジタル化に対する調査・徴収のために東京国税局に「査察情報技術解析課(仮称)」を新設する。そのほか各地の国税局に国際税務専門官や情報技術専門官を増員する。

 さらに20年にスタートした、税務署間の照会事務などを統括する「業務センター室」の機能を拡充するため、各国税局に「統括国税管理官」、「主任国税管理官」を大幅増員する。

<タックスワンポイント>認知症の母が不動産を売るのに必要な後見人  本人のために法律行為を代行

 認知症の母の生活費が足りなくなったので、母名義の不動産の売却を検討している。しかし認知症によって意思能力がないと判断されてしまうと、不動産売買契約を結んでも無効となってしまう。ではこの不動産はどうやっても売却できないのだろうか。

 このようなケースでは、家庭裁判所に「成年後見人」を選任してもらうことで、代わりに売買契約を締結することが可能だ。

 不動産売買契約などの契約が有効とされるには、契約の当事者に判断能力(意思能力)があることが前提だ。認知症と診断されると本人に意思能力がないとされてしまい、財産を処分できない。そのため認知症になってしまった人の不動産を売却するには、代わりに財産管理をする成年後見人の選任手続きを家庭裁判所で行う必要がある。

 成年後見人は、本人に代わって財産管理や介護施設入所への契約、また遺産分割の協議などを行う。成年後見人は3つに分類され、本人に判断能力がまったくないなら「後見」、判断能力が著しく不十分なら「保佐」、判断能力が不十分なら「補助」となる。後見人になれるのは親族のほか、弁護士、司法書士、社会福祉士、法人、市区町村長など多様だ。成年後見制度の申し立てることができるのは、本人や配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、検察官、市区村長などとなっている。

 高齢社会化に伴い、認知症患者は増える一方だ。そのぶん、成年後見制度の重要性も増すばかりだが、同制度の持つ独特の硬直性が課題との指摘もある。成年後見制度では後見を受ける人の保護を図ろうとするあまり、後見人が動かせる財産の裁量が細かく規制されている。原則的に本人の財産が減少する可能性のある投資や運用はできず、他者への生前贈与などもできない。あくまで「財産を維持しつつ本人のためになること」にしか財産を動かすことはできず、たとえ相続対策や会社の経営のために必要な取引であっても相当の困難を伴うという短所がある。

 制度の硬直性については国も認識しているのか、2016年には後見人の権限拡大を認める促進法が施行されている。これにより被後見人あての請求書などの郵便を直接開封でき、被後見人の死亡後、相続人に引き継ぐまでの債務弁済なども行えるようにはなった。

2024年1号(2024/1/5)

<タックスニュース>常滑市が宿泊税  東海3県で初導入

 愛知県常滑市が、旅館やホテルなどの宿泊者に課税する「宿泊税」を導入する方針を固めた。市によると宿泊税を徴収するのは静岡、愛知、三重の東海3県で初めてとなる。2024年3月に市議会に条例案を提出し、25年1月からのスタートを目指す。

 同市には中部国際空港近くのホテルをはじめ、37の宿泊事業者が存在し、計約4300室、7700のベッドを備えている。宿泊税は、観光の街づくりの財源に活用する目的で宿泊者1人1泊につき一律200円を徴収するという。1年間で約100万人の観光客から、総額2億円ほどの税収を見込む。宿泊税により増える財源は、空港と市街地を結ぶシャトルバスの運行といった観光施策に活用する。

 宿泊税は地方税法に基づく法定外目的税で、総務相の同意を得て開始する。近年のインバウンド需要の高まりを受け、全国で宿泊税を導入する動きが活発化している状況だ。すでに東京都や京都市、金沢市などが導入している。

<タックスワンポイント>元日に切り替わる相続税路線価  ちょっとの時間差で税負担激増も?

 毎年、年が明けるたびに税の世界に訪れる変化の一つが「路線価」だ。土地の相続財産としての価値は、国税庁が毎年7月に発表する「相続税路線価」によって算定される。路線価は毎年1月1日時点での一定の範囲内の道路(路線)に面した土地を評価するものなので、つまり土地の相続税評価額は、死亡した年の元日の値段によって決められる。2024年の1月1日から12月31日までに発生した相続については、「24年の元日の値段」が適用されることになる。

 ここで疑問に思うのが、その年の路線価が発表される前、例えば2月に相続が発生すると、評価額をどのように算出して相続税を納めればいいのだろうか。

 この場合、例えば一つのやり方として、国土交通省の発表する「公示地価」から路線価を「推測」するということが考えられる。公示地価は土地取引の基準などになる土地の値段で、毎年3月に公表されるため、路線価より約4カ月早く地価変動の動向を把握することが可能だ。公示地価の前年からの変動率を前年分の路線価に掛けわせることで、おおよその相続税路線価を割り出せば、とりあえずの遺産分割協議をまとめることはできるだろう。

 しかしこの概算評価はあくまで暫定的なもので、今年発生した相続には今年分の路線価を適用するというルールに変わりはない。7月になって正確な路線価が発表されれば、それに合わせて遺産分割協議を修正し、申告も今年の路線価を使って行わければならないわけだ。もし先走って概算評価のまま申告していれば、当初申告額との差に応じて更正の請求なり修正申告なりを行う必要が生じてしまう。あくまで税の申告自体は7月の路線価発表を待つのが賢明だろう。

 ちなみに年をまたいでの路線価の切り替わりを巡っては、大晦日のうちに亡くなったのか新年に亡くなったかで、相続税に大きな差が出るケースも考えられる。過去には、元日の朝にお風呂になくなっているところを発見された女性の相続について、「故人は紅白歌合戦を見た後に除夜の鐘を聞いてから入浴する習慣があった」と主張して国税と争った遺族もいたという。