放置されている空き家に課税強化する「空き家対策特別措置法」の改正法が12月13日に施行された。全国で増え続ける空き家への対策として、管理できていない空き家の所有者を固定資産税の軽減措置から外す。
住宅用地には税額計算のベースとなる課税標準を最大6分の1まで減らす特例があるが、倒壊の危険性や衛生上の有害性があると自治体が判断した「特定空き家」は優遇措置の対象から外されている。今回の改正法ではさらに、窓や壁の一部が壊れているなど「管理不全空き家」についても、改善がみられなければ特例が解除できるようになった。周囲に著しい悪影響を及ぼす「特定空き家」と同様に扱い、状態が悪化する前の活用や撤去を促す狙いだ。このほか空き家の活用促進地域を定めて建て替えなどをしやすくしたり、NPO法人などを管理活用法人として所有者との相談などを強化したりする内容が盛り込まれた。
法改正の背景には、放置された空き家が倒壊リスクや衛生悪化など周辺環境に悪影響を及ぼすほか、不動産流通の妨げや地価の下落に繋がるなど社会問題化している実態がある。国土交通省によると、放置されている空き家の数は全国で349万戸に上り、20年前から倍増している。親から住宅を相続した子が放置するケースが目立っており、現状のペースだと30年までに470万戸に増える見通しだ。
今回の改正法により、空き家オーナーにとっては、特例が外れてしまうと固定資産税の負担額は最大6倍に膨らむ恐れがある。空き家の固定資産税を回避するには相続時に登記しない手法があるが、来年4月にスタートする「相続登記の義務化」によって、これも封じられる見通しだ。義務化後は、相続を知ってから3年以内に所有権移転登記を行わないと行政罰として10万円以下の過料が科されるようになる。この義務化の対象には施行前に相続した不動産も含まれる。
空き家の数が膨大となっている今、登記情報をどこまで国が精査できるかは不透明だが、法務省は「固定資産台帳や住基ネットなどさまざまな情報源から死亡情報を取得し、自治体と連携して調べる体制を整える」と本気度を示している。
年末に向けて、この一年に溜まった不要な物の処分を始めている人も多いだろう。だが溜まっていたレシートについては、捨てるのを少し待ってほしい。今年に市販薬を買う機会が多かったという人は、一部が税優遇の対象となる可能性がある。
「セルフメディケーション税制」は、一部の市販薬について年間の購入費のうち1万2千円を超えた部分を所得から控除するという制度だ。家計が同じであれば本人分だけでなく家族全員分を合計することも可能で、上限は購入費用10万円。つまり最大で8万8千円が控除されることになる。
同税制の税優遇を受けるためには確定申告が必要で、その際には出費を証明するレシートか領収書の添付が必須だ。最近買ったものであればドラッグストアによってはレシートを再発行してくれるかもしれないが、春に買った花粉症の薬などについて、今から購入の事実を立証して再発行を受けることは不可能に近い。一年分のレシートをチェックするこの時期に、税優遇の対象となる薬のレシートはしっかり分けて保存し、2月に始まる確定申告期に備えたい。
同税制を巡っては、2022年に大幅な見直しが講じられた。それまでは、かつて医療用だったのが市販医薬品として承認された「スイッチOTC薬」のみが対象だったが、それ以外にも薬効が認められた「非スイッチOTC薬」も制度の対象となった。その結果、現在では対象医薬品の種類はスイッチOTC薬が約2700に比べて、非スイッチOTC薬が約4000と、後者のほうが多くなっている。スイッチOTC薬か否かにかかわらず、セルフメディケーション税制の対象である薬には専用のマークが付き、レシートの商品名の横に付いた「★」マークなどで見分けることができるので覚えておきたい。
そして、セルフメディケーション税制は従来の医療費控除との選択適用となっている。医療費控除のほうは年間の医療費が10万円を超えた時に超過分が所得から差し引かれ、どちらを使ったほうがトクかは条件によって異なる。一つの基準として、おおむね医療費全体で18万8千円を超えるようなら、従来の医療費控除のほうが有利、それ以下ならばスイッチOTC薬以外の医療費が8万8千円以下の時はセルフメディケーション税制、8万8千円超なら従来の医療費控除の控除額が大きくなる。
後継者難にあえぐ中小企業のM&Aに対する税優遇を拡充する方向で、与党税制調査会が検討を進めている。買収にかかる準備金の全額を損金に算入できるようにする。2023年度税制改正大綱に盛り込む。
自民、公明両党の税制調査会は現在、大綱に盛り込む改正項目の絞り込み作業を進めている。そのなか目玉の一つとなったのが、中小企業のM&Aを促す税制優遇の拡充だ。
現行制度では、将来的なリスクに備えて中小M&Aにかかる株式取得額の70%以下を準備金として積み立てたときに、その金額を損金に算入できるようになっている。24年度大綱ではこれを拡充し、1社目の買収では株式取得額の70%、2社目では90%、3社目以降は100%を損金として算入できるようにする方針だ。従業員2千人以下の中堅企業が中小企業を買収するケースについても、1社目の優遇は設けないものの2社目以降は中小企業と同じ水準とする。
さらに現行制度では、積み立てた準備金は5年後から取り崩し、課税される益金として5年かけて繰り入れる仕組みとなっているところ、10年後からに延ばす内容も盛り込む。
業績が良かったため決算賞与を支給したいと考えた社長さんだが、金額はもう少し見極める時間がほしいので、支給することだけをとりあえず決算日までに社員へ伝えようと考える。その上で、支給額は支給日直前に決定したいと思うのだが、このケースは決算賞与を当期の損金にすることはできない。
決算賞与は通常の賞与とは違い、企業がその年度の業績に応じて支給する臨時の賞与を指す。企業としては頑張ってくれた従業員に賞与として支給することで、次年度以降のモチベーションのアップにつながるし、支給した賞与が損金となれば節税にもなるため、メリットは大きい。
この決算賞与は、必ずしも決算日までに支給していなくても、条件を満たせば損金に算入することができる。その条件とは、その事業年度の終了日までに、賞与の支給額を、同時期に支給を受ける従業員すべてに対してそれぞれに通知していること、通知した金額を、すべての従業員に対して、その事業年度の終了日翌日から1カ月以内に支払っていること、通知した金額を、通知した事業年度に「損金」として処理していること。つまり冒頭の社長さんは1つ目の条件を満たしていないので、当期の損金にすることはできない。
なお税務調査の際には、決算日までに支給額を伝えていたか、決算日から1カ月以内に支給されているかなどの確認をされる可能性が高い。支給額の通知は書面で行い、支給は振り込みにするなど、調査時に慌てないための対策をしておくようにしたい。
自民党税制調査会は11月29日、幹部会合と総会を開き、2024年度税制改正大綱の策定に向けて主要検討項目を議論した。その中で、都道府県が課税する法人事業税の「外形標準課税」の課税基準見直しに関し、中小企業やスタートアップに課税対象が拡大する懸念があるとの意見が多数上がった。
「中小企業やスタートアップに影響はないと総務省は言うが、具体的な根拠は全くないと考える。中小企業団体からも、一度基準が入れば50億円から引き上げが進む恐れがある。今回の提案が中小企業への課税拡大への布石となる強い懸念を抱いている」。出席したある男性議員はこう反対した。
外形標準課税の現行の課税基準は資本金1億円超。資本金や給与総額などに課税されるため、赤字の企業も課税される。04年度の導入時は大企業のみに課税するため、税法上の大企業と見なされる同基準が採用された。
総務省は今回の見直しで、「資本金と資本剰余金の合計額」を追加基準とし、50億円超を課税ラインにする案を持つ。
ただ、全国の商工会議所が会員の日本商工会議所(日商)は「断固反対」と真っ向から対立している。小林健会頭は16日の記者会見で「中小企業の賃上げを後押しする動きとは反対の方角だ」などと理由を説明した。
2自民党税調で宮沢洋一税調会長は「節税目的で減資をする大企業のみを抽出できるような制度が重要」という趣旨の発言をしている。22、23年度の与党税制改正大綱でも検討課題に挙げられていたことから、年末にどんな結論が出るか注目が集まっている。
早生まれの人の親は税金で損をしてしまう。所得から一定額を差し引ける扶養控除の仕組みが、1~3月に生まれた人には不利なものとなっているためだ。
扶養控除は、16歳以上の人を扶養している家族が、所得から38万円を差し引ける制度だ。16歳以上か否かは12月31日時点の年齢で判定する。
問題は同じ学年の生徒でも12月31日時点の年齢はふたつに分かれることだ。高校1年生の段階で12月31日までに16歳になって扶養控除の要件を満たすのは、遅生まれの生徒に限られる。早生まれの生徒は高校1年生の時点では扶養控除の対象にならないため、その親は遅生まれの生徒の親と比べて1年待たないと控除できないということになる。
それだけであれば1年スタートが遅れるだけでトータルは同じだろうと思うかもしれない。しかし早生まれの子どもはトータルの控除額が減る可能性が高い。子どもが学校を卒業して一定の給与を受けると、所得制限によって扶養親族から外れてしまうためだ。そうなると、親が1年遅れとはいえ適用できるはずだった所得控除を使えなくないということになる。
同様の「損」は児童手当にもいえ、児童手当の受給要件は「中学校卒業まで(15歳の誕生日後の最初の3月31日まで)」となっている。このため早生まれの子は15歳にもかかわらず中学を卒業しているため児童手当をもらえず、最大で遅生まれと11万円ほどの差が出てしまう。
なお例外として、1月1日生まれの人は早生まれではあるが扶養控除の対象となる。というのも、民法の規定により、年齢が一つ増える時刻は誕生日の0時ではなく、誕生日前日の24時とされているためだ。1月1日生まれなら12月31日の24 時の時点で16歳になり、控除対象となる。
扶養控除制度には、19歳以上23歳未満の子がいる人に対し、通常より多い63万円を差し引ける特例も設けられている。大学の授業料など多額の教育費支出が必要になる親の負担を軽減するためのものだが、この特別控除も早生まれの子の親は適用まで1年待たされることになる。
日本商工会議所(日商、小林健会頭)は、全国商工会連合会などの中小企業関係4団体と連名で、外形標準課税の中小企業への適用拡大に反対する意見書を公表した。総務省の審議会では、中小企業に認められている優遇税制などを適用することを目的に資本金を1億円以下に減資する大企業が後を絶たないことから、こうした企業も外形標準課税の対象になるよう仕組みの見直しを求める案を取りまとめている。これについて意見書では、無関係の中小企業にまで外形標準課税の対象が及ぶものと「断固反対」との立場を表明した。
外形標準課税は、利益に応じた課税とは異なり、事業所の床面積や資本金などに課税される地方税で、見直し案では、資本金と資本剰余金の合計が一定基準を超えた場合も課税対象に加えるとしている。
こうした動きを受けて鈴木淳司総務相は11月17日の記者会見で、外形標準課税について「実質的に大規模な法人を対象に制度的な見直しを検討するものであり、中小規模の企業を対象とするものではない」と中小企業への適用拡大を否定した。
日商の小林会頭は記者会見で、資本金を減資して課税を逃れる大企業に対して、「脱税行為ではないが、言葉を選ばず言えばセコイ」と批判した。
粉飾決算とは、企業が悪化した財務状況を隠し、まるで経営が健全であるかのように見せかけた決算書を出すことをいう。偽りの数字をベースに今後の事業計画などを示して銀行筋を欺いて融資を受けるなど、株主や取引先、顧客までをも騙す極めてタチの悪い犯罪だ。
一方で、粉飾は結果的に利益を多く見せる行為であるため、税金面をみれば本来より多くの儲けを申告していることになる。つまり過大納付になっている状況だ。そこで粉飾を目論んだ会社で悪事がバレてしまったときには、「これ以上、多い儲けの姿を税務署に見せ続けておく必要もない」として、納め過ぎた分の還付請求を行うだろう。しかし、こうしたケースでは、還付はすぐには認められないルールになっている。
通常であれば税金の過大納付分は、国税当局が定める手順を踏めばすぐに還付を受けられる。しかし、故意に粉飾をした会社にもこのルールを適用すれば、利益を本来より上積みした決算書(申告書)を作って銀行から有利な融資を受け、その後に税務署に請求して還付金を受け取るといった「裏技」が使えてしまう。恥も外聞もない会社であれば、それを繰り返して運転資金を回し続けるということも不可能ではない。そのため、粉飾などの仮装経理をした会社に限っては、納め過ぎた分をすぐには受け取れず、5年程度をかけてようやく取り戻せるというルールが適用されている。
ひとたび粉飾に手を染めれば、翌年度の決算がさらに苦しくなり、それをごまかすためにまた嘘を塗り重ね、粉飾から抜け出せなくなる。そして粉飾がバレたときには、世間からは冷たい目で見られ、株主は離れていき、銀行の信用を失い、多く納めた税金はなかなか返してもらえないと何重苦にもなる。ウソの決算はくれぐれも慎みたい。
年末の2024年度税制改正議論で、法人事業税のうち「外形標準課税」の課税基準見直しが議論される。「資本金1億円超」とする現行の基準に「資本金+資本剰余金」を加える総務省の検討会の追加基準案がたたき台となる。
外形標準課税は重要な地方財源の一つ。利益に応じた「所得割」と異なり、資本金や給与総額などに課税されるため、赤字でも税収が見込めるためだ。04年度に導入され、15、16年度に法人事業税に占める割合が段階的に引き上げられた。
22、23年度の与党税制改正大綱でも検討課題に挙げられ、総務省が22年度から有識者らによる検討会で課税基準について議論を重ねていた。今月14日には、第2回の中間整理を終え、追加基準案を「資本金と資本剰余金の合計額が一定水準を上回る法人」とした。
地方財政審議会(地財審)は追加基準を適当と判断し、鈴木淳司総務相に意見書を提出。検討会で座長を務めた小西砂千夫・地財審会長は、増税ではないことを強調しつつ、「規模が大きく、本来は納税するはずの企業を課税対象に戻す」と狙いを述べた。
総務省によると、外形標準課税の対象法人数は06年度の約3万社をピークに、20年度には約2万社に減少。累積赤字を補填するなどの目的ではなければ、資本金を1億円以下に減資する企業行動は、租税回避行為と見なされてもおかしくない。このため、自民党の宮沢洋一税制調査会長も「3割の大企業が減資をして中小企業になっているという事態はやはり相当問題が多い」と報道各社に問題意識を語っていた。
「実質的に大規模といえる法人」への課税強化は有権者の多くから賛同を得られるだろう。ただ、追加基準を判断するには「政府の経済施策や経済団体などの意見を踏まえた検討が必要」とし、線引きの議論の場は与党税制調査会に移された。地方の有力企業などへの影響も考えられるため、ある与党税調幹部は「議論は長引くだろう」と見通した。
少額投資を非課税にできるNISAが、来年から一新される。非課税で保有できる期間が無期限になり、投資できる金額が大幅に増えるなど、より幅広い投資に使えるようになる。ただ、すでに現在のNISAを利用している人が新制度に移行する際には、いくつか注意点があるので押さえておきたい。
まず現行の一般NISAやつみたてNISAで投資してきた人は、新制度への切り替えに当たっての手続きは一切不要だ。新NISAを利用するには新NISA専用の口座が必要となるのだが、すでに現行制度を利用している人については、現行のNISAを利用している金融機関に自動的に新口座が開設される。
次に、今まさに投資をしているNISA口座で保有している資産については、現行の非課税期間終了まで口座で保有できる。来年以降にその口座で新たな投資はできなくなるが、残高については新NISAの投資上限額とは別枠で投資を続行することが可能だ。もちろん非課税期間終了までに得られた投資利益に税金はかからない。なお非課税期間が終わっても売却しないと、資産が課税口座に自動的に移管され、その後に発生した利益には税金がかかるので気を付けたい。
注意したいのが、現行NISAで認められている「ロールオーバー」についてだ。ロールオーバーとは、非課税期間終了時に残っている残高をそのまま引き継いで新たにNISAの投資を始める仕組みのことで、ロールオーバーをすると増やした元手でさらに儲けても全額が非課税となるメリットがある。これまでであれば非課税期間の終了時にロールオーバーをするか非課税の利益を確定するかの選択を迫られていたが、今年については選択の余地がない。というのも、現行のNISAは今年で終了し、新NISAへのロールオーバーが認められていないためだ。つまり今年中に非課税期間が終了する人は、強制的にここで売却ないし課税口座への移管となる。併せて、来年以降の新NISAには、そもそもロールオーバーの仕組みそのものがないことも覚えておきたい。
政府が税収増の還元策として経済対策の目玉に据える、所得税などの定額減税と低所得世帯への現金給付の評判が良くない。自民党内からも「引っ込めれば政権が倒れる」と懸念する声が上がる。政権浮揚には、年末にかけて議論される減税や給付の時期などの詳細な制度設計が鍵を握りそうだ。
政府は経済対策で「デフレからの完全脱却」を目指すとぶち上げた。政府案では、定額減税は来年6月、低所得世帯への現金給付は年内開始を目指す。
野党は「即効性を求めるなら一律給付にすべきだ」と国会審議で追求したが、岸田文雄首相は、税収の増加分を「所得税、住民税という形で国民の皆様にお返しする手法が最もわかりやすい」と譲らなかった。
自民党の世耕弘成参院幹事長が「何をやろうとしているのか全く伝わらない」と批判するなど、党内でも岸田首相は求心力を失いつつあるとされる。自民党ベテランは「総理が言い出してしまった以上、やるしかないという空気が漂っているが、諸手を挙げて賛成している人は少ない」と声を潜める。
定額減税は、所得税と住民税から1人当たり計4万円を減税する。政府は納税額が4万円に満たず、減税の恩恵を受けきれない「狭間」の低所得層にも公平な支援を目指している。例えば納税額の1万円から減税して3万円分が余れば、その分の給付金を支給する方向で調整している。
ただ、実施は2025年以降となる可能性もあり、今後の制度設計でどこまで期間を早められるかが焦点となる。税制は与党税制調査会、給付金は内閣府の専門チームが制度設計を担う。
定額減税と現金給付の規模は約5.1兆円。国内総生産(GDP)の押し上げ効果が0.19%にとどまるとの民間アナリストの試算もある。17兆円台前半の経済対策の財源で赤字国債の発行が見込まれるが、岸田首相には財政を悪化させてまで実施する理由を改めて説明する必要がある。
メガバンク3行は11月から固定型の住宅ローン金利を引き上げた。10年固定では最大0.15%幅の引き上げとなり、10~12年ぶりの高水準となった。日本銀行の金融緩和政策の修正を受けたもので、今後さらに住宅ローン金利が上がっていく可能性もある。今回の金利引き上げを受けて、わが家の住宅ローンの「借り換え」を検討し始めた人もいるかもしれない。
「借り換え」とは、新たな借入先である銀行からまとまった融資を受け、その資金で今まで借入を受けていた銀行に住宅ローンなどの残債を一括返済することをいう。交渉次第ではあるものの、自行でお金を借りてほしい銀行側としては、ライバルよりも著しく低い金利を提示してくることも珍しくはない。
ただ借り換えを行う際には、残債の繰り上げ返済などに伴う様々な一時的費用が発生することもある。銀行としては返済年数の全期間にわたって利子が支払われる計算で利率を計算しているので、それが減るとなれば損をしてしまう。そのためローン契約書には、繰り上げ返済にかかる手数料や違約金が設定されていることも多い。また既存のローンを組んである銀行に設定された抵当権の抹消登記と、新たにローンを組む銀行への設定登記には費用がかかる。借り換えをする際には、得られるメリットと必要なコストの比較が必要になるだろう。
借り換えをすると一時的に費用がかかるが、現在借りている金融機関に金利を下げてもらうだけなら費用はかからない。借り換えを検討する前に、まずは現在借りている金融機関に交渉してみるといいだろう。
政府の経済対策で、基金の創設や拡充が目立っている。先を見通せない新型コロナウイルス禍を機に金額が急増したことに専門家は警鐘を鳴らしているが、財政規律の緩みは簡単に戻りそうにない。
基金は複数年度分の資金を一括して確保できるため、中長期にわたる政策に柔軟に財政支出ができる。ただし、本来は年度内に使い切ることが原則の国家予算において、あくまでも例外だ。2019年度までは年数千億円程度だったが、コロナが流行した20年度以降、年4~9兆円程度が措置されている。
今回の経済対策では、小中学生に1人1台の学習端末を配る「GIGAスクール構想」関連で、端末の更新費用にあてる基金が創設されることになった。
宇宙航空研究開発機構(JAXA)に新設される「宇宙戦略基金」は企業や大学での先端技術開発や実証実験、商業化の支援に利用する。要求段階ではそれぞれ1兆円程度の規模だった。
与党の会合では基金化を求める意見が相次ぎ、DXや半導体を促進する基金も拡充される。基金関連だけで数兆円が確保される見通し。
基金が増える背景には「使い勝手の良さ」がある。一括計上で巨額の予算を確保できたように見えるため、政治家は支持団体などへのアピールに利用しやすい。要求官庁側には、財務省の厳しい査定を毎年度受けなくてよい利点が生じる。検証資料は担当省庁が毎年発表する「基金シート」しかなく、運営は公益財団法人などが担うことが多いため、会計検査院や財務省の目もかいくぐりやすい。
内閣府によると、22年度末時点の基金残高は前年度比3.6兆円増の16.6兆円だった。財政に詳しい専門家からは「多くの基金は規模ありきで作られ、数年分の予算をまとめて使ってさらに予算要求するなど計画性に欠ける。緊急性があり、重点的に取り組むべき政策には基金ではなく当初予算をつけるべき」と疑問視する声が上がっている。
長引く不況や不安定な世界情勢もあって、相場の世界でも明日の動向を読むのはますます難しい時代となっている。株価が落ち込むと気分も落ち込んでしまうが、そういうときこそ、弱気相場だから可能な節税策がある。
上場株式や上場投資信託の売却損は、確定申告で節税ができる。本来なら損失は申告不要だが、あえて分離課税の20.315%の譲渡所得で申告することで、一緒に申告する配当益や譲渡益と相殺して課税所得を引き下げるわけだ。さらに今年の運用益と相殺しきれないときには、翌年以後3年間、繰り越すことも可能だ。借金して投資しているなら、借入利子も譲渡所得の費用にできる。
この節税策を使うには注意点もあり、例えば翌年以後も必ず連続して申告することを忘れてはいけない。最初の年に申告したものの翌年は取引がないから申告しないケースでは、翌々年に損失を繰り越せなくなる。またNISAなど、もともと運用益が非課税の投資だと節税のしようがない。同様に、非上場株式も損失を繰り越せず、売却損が生じても0円扱いとなる。さらに損益通算ができるのは同種の配当益や譲渡益とだけで、給与所得や不動産所得など他の所得との相殺ができないことに留意したい。
上場株式でなくても、外国為替証拠金取引(FX)の損失も、来年以降3年間繰り越して翌年や翌々年に生じた運用益と相殺できる。こちらは譲渡所得ではなく「先物取引等に係る雑所得」となり、先程の上場株式などの損失とは別扱いなので注意が必要だ。FXの損益も同じ所得区分の先物取引としか相殺できない。損益通算ができるのは商品先物や金融商品先物、カバードワラントの差金決済の損益などだ。
なお弱気相場は生前贈与のチャンスでもある。株や仮想通貨を贈与すると贈与税がかかるが、その基準となる評価は「贈与した時点の時価」で行うためだ。相場の下落局面で贈与したなら、贈与した金融商品の評価額も低くなり、その分贈与税を抑えられる。
国税庁は10月12日、タワーマンションなどに適用する相続税の新たな算定ルールについての通達を発遣した。新ルールは来年1月以降に相続などで取得された物件から適用する。今回の通達は、高層マンションの相続税評価額と実勢価格の差を利用した『タワマン節税』を抑止するもので、今年7月に通達案を公表してパブリックコメントを募っていた。
国税庁が提示した新たなルールは、マンションの階数や築年数などを基に評価額を補正して引き上げるというもの。築年数や所在階、総階数、専有面積などを基に一室ごとの評価額のかい離率を算出し、これに現行の相続税評価額や最低評価水準である「6割」を掛け合わせて最終的な評価額を割り出す。6割の基準は、一戸建て物件の実勢価格と評価額の平均かい離率(1.66倍)に合わせて設定された。新ルールによっておおむね、実勢価格と評価額が大きく離れていた物件では、実勢価格の6割まで評価額が上がる。過去の調査では、平均して実勢価格と評価額に3.16倍のかい離があったという。かい離率の高かった高層階ほど、これまでに比べて税負担が増えることとなる。
パブコメには102通の意見が寄せられた。例えば、今回の通達の適用範囲が区分所有マンションに限定され、いわゆる「一棟所有」には適用されない点が不公平との指摘があった。これに対して国税庁は、「本通達は、分譲マンションの流通性・市場性の高さに鑑み、その価格形成要因に着目して、売買実例価額に基づく評価方法を採用した」と答え、区分所有マンションに限定したことには合理性があるとしている。一方で、一棟所有についても「評価通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる場合には、引き続き評価通達6(いわゆる総則6項)により評価する」と釘を刺している。
「法人の決算日は、一度決めたら変えられない」と考えている経営者は少なくないが、実際には法人の決算日は何度でも、自由に変えてよい。ただ、決算日を決めるに当たって避けるべき時期というものがあるため、ここではそのポイントを紹介したい。
1つ目は言うまでもなく自社にとっての繁忙期だ。業務量が増加して忙しい最中に、決算にまつわる事務負担までのしかかってくると、業務効率が低下することこの上ない。実際にもほとんどの法人が、自社の繁忙期を避けて決算日を定めているだろう。
2つ目は、利益額が急変動しやすい時期だ。決算日直前に利益額が急激に変化すると利益や納税額の予測値と実際の結果との間にブレが生じてしまい、事前に行った決算対策や納税の資金繰りが意味を成さなくなってしまう。売上の最盛期や不測の支出の生じやすい時期を決算日にするのはやめたほうがいい。
3つ目に、支出が多くなる時期も避けたい。法人の決算にまつわる税金は決算日から2カ月以内に納付するため、多額の支出と決算後の納期限が重なってしまうと一時的に資金繰りが圧迫されかねない。賞与や保険料など多額の支出がある時期と決算日をずらしておくだけで、資金繰りが楽になるだろう。考慮すべきは賞与(7月・12月など)、納期特例の源泉所得税(7月・1月)、納期特例の個人住民税(6月・12月)、労働保険料(7月)などだ。
4つ目が、在庫数量が増える時期だ。決算に当たっては、在庫の数量とその金額を確定するための「実地棚卸」が必須だ。現存する在庫の数量を確認するので、在庫が大量にあればあるほど作業も大変になるのは言うまでもない。決算日を設定するに当たっては、在庫の積み増しが起こりやすい時期を避けるか、あるいは逆に決算前のタイミングに合わせて在庫処分セールを行って在庫を減らすなどの対策を講じたい。
5つ目のポイントとして、税務デメリットが生じる時期を考慮すべきだろう。税に関するルールには決算日や事業年度開始日を基準にして適用の有無が分かれるものが多くある。税制改正でも「○年○月○日以後終了の事業年度から適用する」など法人の事業年度によって適用されるタイミングが変わるため、税制改正による不利な取り扱いを避けるため、もしくは有利な取り扱いを受けるために決算日を変更するというのは、十分あり得る話だ。
最後の6つ目が、顧問税理士の繁忙期だ。ここまで考えて決算日を決めることはまれかもしれないが、決算処理や税務申告を税理士に依頼しているのであれば、税額予測や決算対策、申告処理を早期に完了させるための重要なポイントとなる。税理士の繁忙期はおおむね年末調整と確定申告の時期(12月~3月)と、一番多いとされる3月決算法人の申告時期(5月)なので、これらの時期を外した決算日にしておくと税理士とのやりとりや事務処理がスムーズになるだろう。
10月1日にスタートしたインボイス(適格請求書)制度の発行事業者登録を取り消した事業者数が、2万1820件に達したことがわかった。制度の廃止を求める市民団体「インボイス制度を考えるフリーランスの会」(STOP!インボイス)が、国税庁の公表データを基に、毎月「登録取り下げ・失効件数」のデータを集計・分析した。
登録事業者の「登録取り下げ・失効件数」は、同会が統計を取り始めた2022年5月は170件で、その後10カ月は3桁台で推移してきたが、制度開始を半年前に控えた今年4月に1898件と4桁に上り、実施直前の9月単月では7837件と急増した。
このタイミングでの取り下げ・失効件数の急増について同会では、「発注側に頼まれて一旦は登録したものの『やっぱりやめよう』という思いや、『経過措置の間は様子を見てもいいのではないか』など、地に足のついた検討が広がっていったことで、特に免税事業者の間で課税期間が発生しないで済む9月末までに一旦取り下げようとの決断が多く出たのではないか」とコメントしている。
なお、「取り下げ・失効」については9月までしかできないが、9月末ギリギリでの取り下げ申請がかなり多かったことから、国税庁側で処理しきれていない分が存在するとみられている。同会では、10月末分のデータが出た時点で、改めて集計・分析するとしている。
今回の結果について、インボイス登録の「ボイコット大作戦」を提唱してきた神田知宜税理士は、「税制に関して、一度申請した登録を取り消す動きがこれだけ出るのは極めて異例のこと。先日提出した55万筆の反対署名とともに、政府は今回の結果を重く受け止め、今からでも遅くないので廃止の検討をすべきだ」と訴えた。
老後の資産形成を助ける手法として注目を集めるiDeCo(確定拠出年金制度)。最大の特徴はなんといっても、掛金として払い込んだ全額が所得から控除されることだ。年金として積み立てた額がすべて控除されるのだから、年金の受給額を増やしながら節税できることになる。さらに積立金で得た配当や利子も非課税で、受給時にも手厚い税優遇が付いてくるというのだから嬉しい。
とはいえiDeCoにも様々なリスクやデメリットがある。まずiDeCoは年金制度といっても、実際にやることは投資に他ならない。大きく得をする可能性がある一方で、損をするリスクも存在するわけだ。老後のために積み立てたお金がなくなってしまう可能性もゼロではない。さらにiDeCoは、他の年金制度に加入しているかどうかで年間の拠出額の上限が変わり、また「加入できるのは65歳未満」という年齢上限が設けられている。
非課税の恩恵を受けて資産形成をするという点では「NISA」などと比較しやすいが、iDeCoによる投資は、あくまで老後の資産を積み立てるものであるという理由から、原則として60歳になるまで払出ができない。そして勘違いしやすいのが、iDeCoの投資で得た利益は、完全な非課税ではないという点だ。
iDeCoで儲けたお金には、税優遇はあっても必ず受取時に所得税がかかる。退職金として一度に受け取れば退職所得控除、年金として少しずつ受け取れば公的年金等控除という優遇は受けられるものの、所得税自体はかかるということだ。これはNISAが払出時にも非課税であることとは大きく異なるポイントだ。
もっとも、これらの注意点を踏まえてもiDeCoが老後の資産形成のために取れる有力な選択肢の一つであることは変わらない。各控除の枠を出ないよう受け取ることで課税を避けられることもあり、また掛金の控除と合わせればトータルで得をすることもあるため、自分にとってどうすれば得かを、しっかり検討して利用したい。
みずほ銀行が租税回避地(タックスヘイブン)を巡る課税処分の取り消しを求めた訴訟で、最高裁は10月6日に上告審弁論を開いた。弁論は通常、判決を覆すときに開かれるため、課税処分の取り消しを命じた二審判決が逆転する可能性がある。
みずほ銀は2008年のリーマン・ショック後、タックスヘイブンの英領ケイマン諸島に複数の特別目的会社を設立した。同社が有価証券を発行して投資家から約3600億円を集め、その資金は後に全て返還されたが、その過程で利益が残った。この利益につき、みずほ銀は「利益はみずほ銀行には帰属しない」として課税所得0円として申告したが、東京国税局は「特別目的会社はみずほ銀行の100%出資子会社であり、利益も銀行本体に合算すべきだ」と指摘し、約20億円の追徴課税処分を行った。
この時に適用されたのがタックスヘイブン対策税制で、同税制は税率の低い国や地域に実体のない会社をつくる企業に対して過度な節税を防ぐことを目的として導入されたものだ。海外子会社に主たる事業の実体がなく、関連会社の株式保有や資産管理だけが目的と判断されたときには、親会社の所得と合算して日本の法人税率で課税される。かつては「これ以上法人税率が低ければ対象となる」というトリガー税率が設定されていたが、17年度税制改正で税率基準は原則的に廃止され、現在は税率にかかわらず事業の実体をもって判断することとなっている。
一審では、「タックスヘイブン対策税制の適用要件を満たす場合は租税回避の目的・実態の有無にかかわらず適用されるべきだ」として、みずほ銀側の請求を棄却した。一方、二審では、「みずほ銀行が子会社の利益から配当などを受け取ることは想定されていない」として、「租税回避の目的も客観的に回避の実態も生じておらず、ルールの形式的な適用は同税制の基本的な制度趣旨や理念に反する」とみずほ銀側の主張を認めた。
最高裁判決は11月6日に下される予定となっている。
誰かが亡くなれば、その人(被相続人)が生前に持っていた一切の財産は、家族などの相続人が受け継ぐことになる。受け継ぐ財産の多くは、不動産、現金、預貯金、株券、美術品、車、貴金属、思い出の品などだ。だが、なかにはこうしたプラスの財産だけではなく、借金などのマイナスの財産もあり、これも相続財産に含まれている。
相続が開始すると相続人は、単純承認(プラス財産だけでなく借入金などのマイナス財産を含む一切の財産を無制限・無条件で承継することを承認すること、限定承認(相続人がプラス財産で利益を受ける範囲に限って、マイナス財産を相続する承認方法)、放棄(被相続人の財産のすべてを放棄し、一切の財産を相続しない方法)の3つのうちのどれかを選ばなければならない。ここで単純承認と放棄は比較的単純だが、限定承認を選ぶ際には、メリットとデメリットを押さえておきたい。
まず限定承認とは、プラスの財産に限定してマイナスの財産を引き継ぐ形態であるため、借金をしてまで相続しなくてもよくなることが挙げられる。そのため資産の全体がマイナスであっても、プラスの相続財産以上の負債を背負うことはない。そのうえでプラス財産の範囲でマイナス財産を裁判所で清算してもらうが、債務を任意で弁済できなければ相続財産は換価処分されることになる。ただし、不動産相当額を用意できれば、不動産の換価処分は免れて手元に残すことが可能となる。
一方デメリットとしては、限定承認を行うには相続人全員で取り組む必要があり、一人でも反対があれば裁判所は認めてくれない点がある。さらに、限定承認では小規模宅地の特例が使えず、また被相続人から資産が譲渡されたものとして譲渡所得税が発生することも覚えておきたい。
判断はケースバイケースとなるだろうが、一般的に「マイナスはあるけど絶対に手放したくない資産がある」というときか、「プラスもマイナスも、いくらあるのは分からない」というときは、限定承認を選ぶことが多いようだ。
財務省は10月4日、ふるさと納税制度によって寄付先の自治体が得る収入を「寄附金」扱いとしている現行の仕組みを変更するよう提案した。地方収入の不足分を国が補填するルールがあることから、ふるさと納税の利用増で減る地方税収の補填で、将来的に国費負担が増えることを懸念している。財務相の諮問機関である財政制度等審議会は提案を受け、一般財源への変更が将来的に論点になるとの見解を示した。
ふるさと納税では、納税者が選んだ自治体に寄付した金額から自己負担額の2000円を除いた額が、住民税などから原則控除される。総務省によると2022年度の寄付金は前年度比約1.2倍の9654億円で、過去最高を3年連続で更新した。23年度の住民税控除額は6798億円あまりで、横浜市、名古屋市など大都市の税収に影響が出ている。
地方財政計画では地方の財政規律と安定的な行政サービス維持のため、ある種のシーリングとして「一般財源総額実質同水準ルール」が設けられている。地方税収や地方交付税、臨時財政対策債などの総額を一定水準で維持し、不足があった場合は国と地方で折半しなければならない。
しかし、ふるさと納税で自治体が受け入れる金額は税収ほど安定的でない寄附金扱いとされているため、この総額の対象に含まれず、一般財源は減ることになる。財務省側は「ふるさと納税はいわば住民税の取り合いだが、減収分の穴埋めを国がするのはおかしい」という問題意識で、寄附金収入ではなく一般財源に変更するよう提案した。
審議会終了後に会見した財政制度分科会の増田寛也分科会長代理は「一般財源化もひとつの方向性として考えられる」と意見を述べた。ただ、国による穴埋めに関しては「将来的に想定されるかもしれないが、当面はなさそうだ」との見解も示しており、是正に向けた整理には時間がかかりそうだ。
診療報酬や入院代など、医療費関係の出費は基本的に消費税がかからない。しかし入院するときに追加料金を払って個室に移ったり特別な食事を提供されたりした時には、その差額には消費税がかかる。個室は最低限必要な医療サービスではないというのがその理由だ。
しかし出産にかかる費用は例外で、個室料金や特別な病院食であっても料金はすべて消費税がかからない。たとえ結果として流産や死産をしてしまっても諸費用は非課税となっている。消費税については、出産は優遇されていると言えるだろう。
一方、医療費控除を受けるに当たっては出産でも優遇されない。産院で利用する自己都合の差額ベッド代は控除の対象とならず、治療のために必要な支出ではないというのがその理由とみられる。もっとも医療費控除でも、他の病室が満室だったり、そもそも産院が全室個室だったりという理由があれば控除対象となる点は押さえておきたい。
そもそも控除対象かどうか以前に、病院から個室への移動などを打診された時には、差額ベッド代を払う必要があるかを確認すべきだろう。厚生労働省が出した通知によれば、他の病室が満室であるなど患者自身の選択によらず差額ベッドを使わせる際には、「特別の料金を求めてはならない」とされている。だが実際には、他の病室が空いていても料金の高い差額ベッドに入院させたがる病院もなくはないので、もし差額ベッドを望んでいないのであれば、その旨をはっきり伝えたいところだ。
政府肝いりの施策であるマイナンバー制度でトラブルが続出していた問題で、個人情報保護委員会は9月20日、国税庁やデジタル庁に対して「必要かつ適切な措置を講じていたとはいえない」として再発防止を求める行政指導を行った。
マイナンバーを巡っては、給付金を受けとるための「公金受取口座」で誤って他人の口座とマイナンバーがひも付けられていたケースが940件見つかっている。自治体の窓口などで本人や自治体の支援員が端末を使って手続きする際、本来行うべきログアウトを忘れたことなどが原因という。またコンビニの証明書発行サービスでも、本人ではない人に誤交付してしまうトラブルが発生していた。
問題の発覚を受けて個人情報保護委員会は7月からデジタル庁に立入検査を実9月20日に同委員会は、制度運営に携わったデジタル庁、国税庁、システム開発を担った富士通Japan、行政サービスを運営する東京都足立区、川崎市、福岡県宗像市にそれぞれ行政指導を行った。
委員会の調査結果によれば、国税庁(丸亀税務署)は今年1月26 日、所得税の確定申告に当たって公金受取口座を登録した納税者に対して、口座情報を同姓同名の別人に紐づけて登録していた。委員会はミスの原因として、国税庁内で策定された手順書では「漢字氏名・カナ氏名・生年月日」の3つの情報で本人特定をするところ、この手順が徹底されずカナ氏名のみで検索したため同姓同名の別人が選択されたことを挙げた。
加えて、データの誤入力が判明した際には庁内業務データとデジタル庁連携の公金受取口座データの双方を削除しなければならないところを、連携データが残されたままだったことも策定された手順に従っていなかった。
これらの点を踏まえて国税庁は「必要かつ適切な組織的・人的安全管理措置を講じていたとはいえない」として、委員会は「手順の見直しを行い、手順の徹底を含めた職員への監督および教育を確実に行うなど、再発防止に努める必要がある」と求めた。
相続財産の中身は、預貯金をはじめ、不動産、貴金属、美術品、さらにゴルフの会員権や知的財産権など多岐にわたる。また法律上で相続の対象になるものは、いわゆる「価値のあるもの」だけではなく、カードの未決済分や買掛金、未払いの税金、保証債務など、マイナスの資産も含まれている。
その一方で、被相続人が所有した物であっても、遺産分割の対象とはならないものもある。墓地、墓石、仏壇、仏具、神棚、系譜など宗教的・祭祀的な要素を含むものが該当し、これらは民法の規定により祭祀主宰者一人が引き継ぐことが定められている。
さらに相続財産に見えても相続の対象ではないものもある。それは、遺族給付や賃貸物件の家賃、株式の配当などだ。そのほか生活保護の受給権、年金受給権、扶養請求権といった一身専属的な権利や義務なども該当する。
相続財産を巡っては、民法と税法のルールの違いもややこしい。民法上に定められた財産だけが相続税の課税対象となるわけではなく、相続税法では「実質的な相続財産で税金を負担するだけの価値のあるもの」も対象となるからだ。
例えば「みなし相続財産」などはよい例だろう。これは民法上の相続財産ではないが、相続税法上は相続財産としてみなされる財産で、生命保険金や死亡退職金、個人年金など定期金に関する権利などが挙げられる。亡くなった人に負担があったからこそ残された財産であり、被相続人の死亡により相続人に権利が受け継がれたことから、相続税法上は相続財産とみなし、課税の対象となっている。なお、生命保険金と死亡退職金にはそれぞれ非課税枠があるので個別に確認が必要だ。
このほか、遺言で免除された債務などもみなし相続財産に該当することがあるので、漏れのないように気を付けたい。
「少額投資非課税制度(NISA)」の新たな制度が2024年1月からスタートする。年末までに旧制度で投資をすれば有利な側面を持つが、機運の高まりに欠ける。「資産運用立国」を掲げる岸田政権の目玉政策の課題になりそうだ。
NISAとは株や投資信託で得られた利益や配当にかかる約20%の税金がゼロになる制度。これまでは上場している会社の株式などを購入できる「一般NISA」と、長期の投資に適した「つみたてNISA」のどちらかを選ぶ必要があった。新制度ではそれぞれ「成長投資枠」と「つみたて投資枠」に名称が変わり、両方に投資ができる。
年間投資額も大幅に拡充される。成長投資枠が従来の2倍の年240万円、つみたて投資枠は3倍の年120万円で、併用すれば年間360万円の投資ができる。保有限度額も倍以上の1800万円となり、非課税で保有できる期間も無期限となる予定だ。
23年末までの投資分は今の制度が適用されるが、この投資分は新制度の保有限度額に含まれないため、その分だけ非課税になる枠が広がると言える。NISAが気になっている人にとって、投資を始めるいいタイミングだろう。まずは証券会社や銀行などでNISA口座を開設し、元本割れのリスクがある商品もあるため、しっかり吟味した上で投資をしたい。
一方、政府は国民の多くが財産を銀行に預けている現状を変え、投資で個人の資産形成や企業の成長につなげる状況を目指す。NISA口座数は23年3月末時点で約1870万口座だが、政府は3400万口座に増やす目標を掲げる。金融庁の幹部は「業界団体などと連携したセミナーや分かりやすいガイドブックの配布など、長い目でみた金融教育が大切だ」と語る。投資に消極的な風潮を打破し、日本の成長につなげる分岐点にさしかかっている。
地方税で先行して始まったクレジットカード納税が国税でもできるようになったのは2017年からだ。それ以降、国税のクレカ納付の利用は徐々に増え、20年度時点では国税の29%がクレカを含むキャッシュレス形式で納付されたという。現在では自動車税や固定資産税、不動産取得税、個人事業税などの地方税に加え、所得税、法人税、消費税、相続税など国税などほとんどの税目でクレジットカード納付することが可能だ。また加算税・延滞税といった附帯税も納付できるようになっている。
税金をクレジットカードで納付する最大のメリットは、納付することでクレジットカードのポイントを貯められることだろう。その他、24時間いつでも税金を納付できること、分割やリボ払いなどにすることで税務署に申請などしなくても分割して納付が可能になるなどのメリットが挙げられる。
一方のデメリットとしては、納付額に応じて手数料がかかることがある。国税では納付税額1万円までは83円、以後1万円を超えるごとに76円(消費税別)の決済手数料が加算される。なお、すでに「口座振替」による納付手続きをしている税目については、クレジットカードによる納付はできない。改めてカードで納付したいと思うなら、事前に口座振替廃止届を提出するなどの対応が必要となる点を覚えておきたい。
最後に、地方自治体によっては、まだクレジットカードでの納付に対応していないところもある。また対応している自治体でも手数料は一律でないので、地方税をクレカ納付したいなら各自治体に事前に問い合わせるほうがよいだろう。
東京国税局元職員らのグループによる国の新型コロナウイルス対策の持続化給付金詐取事件で、詐欺罪に問われたリーダー格とされる無職松江大樹被告(32)の公判が東京地裁で開かれ、検察側は懲役5年を求刑した。同事件を巡ってはすでに元国税局職員や大和証券元社員など、複数の被告に有罪判決が言い渡されている。
松江被告は暗号資産の投資事業「マイニングエクスプレス」の会員だった2020年、別の会員に持続化給付金を不正受給させ、手数料を徴収する仕組みを考案した。同年7~8月に7回にわたり虚偽の給付申請をし、計700万円をだまし取ったとされている。グループは約200人分、計約2億円の不正受給に関与したとみられている。
昨年11月に懲役3年、執行猶予5年の有罪判決を受けた元東京国税局職員の塚本晃平被告は、20~30件の確定申告書を偽造し、地元の友人に対しても虚偽申請を持ちかけ、「怪しい話じゃない。おれは国税だから大丈夫」などと声をかけていたという。判決では「国税局職員の立場からして、あるまじき犯罪に手を染めた」と指摘された。
減価償却の計算は、資産ごとに決められた法定耐用年数に応じて損金に算入するのが原則だが、耐用年数が異なる機械などであっても性質や用途が共通しているものはグループとして一括で減価償却計算をすることも認められている。
仮に耐用年数10年の機械の価格が1200万円、7年のものが700万円、4年のものが200万円だとして、それらが一つの生産ラインを構成するなど一体となっているなら、同じ期間でまとめて償却することも可能となる。具体的な償却方法は、全ての機械の価格の合計額2100万円を、それぞれの年間償却額(120万円、100万円、50万円)の合計額である270万円で割って算出した7(端数は切り捨て)を償却期間とする。すなわち全ての設備をまとめて7年間で300万円(2100万円÷7)ずつ償却できるということだ。
余談だが、耐用年数が最も長く設定されているのは水道用ダム(鉄筋鉄骨コンクリート造)で80年、次点がトンネル(同)で75年となっている。鉄筋(鉄骨)コンクリートの事業所は50年。同じ構造でも住居であれば47年だ。機械および装置に限ると電気業用水力発電設備と鋳鉄製導管が22年で最長。普段注目しないものでは、学校の滑り台は10年、魚は2年、鳥は4年、将棋盤は5年、温州みかんは28年、乳用牛は4年、競争用の馬も4年、ビリヤード台は8年などとなっている。
東京国税局は10月1日、過去にない商取引を行う企業からの税務リスクに関する事前相談を受ける「J-CAP」制度を開始する。従来の事前照会制度などと比べて、スピーディーに回答を受け取れる点が特徴だ。ただし対象は資本金40億円以上の大企業となっている。
J-CAPを利用できるのは、東京国税局管内かつ、調査部の特別国税調査官が所管する資本金40億円以上の大企業、いわゆる「特官所掌法人」の約300社。前例のない新たな取引について、具体的な取引資料などを基に、法人税と消費税に関して相談ができるという。回答まで半年かかることも珍しくなかった従来の文書照会制度などに比べて、営業日ベースで45日以内に回答が得られるという点が強みだ。
東京局としては、新興国への進出や海外企業を交えたM&Aなど、主に国外取引を想定しているという。企業にとっては後から税務処理を否認されてトラブルとなるリスクを防止できるというメリットがある。
今後、対象企業を拡大していくかなどは未定で、ある関係者は「実際にどれくらいの相談ニーズがあるのかも含めて、まず始めてみて、走り出してから様子を見ていくという形になるだろう」と話す。
昨年12月、東京都が、2025年4月以降に都内に新築される住宅に太陽光発電パネルの設置を義務付ける条例を可決した。今後はマイホームを含む不動産オーナーは望むと望まないとにかかわらず、太陽光発電によって得られる利益やランニングコストなどの負担を検討する事が必須となる。
税金についても考えなくてはならない。太陽光発電で一定の利益が出れば所得税や法人税を納める必要が出てくるのはもちろんのこと、設備を維持する上でも所有者には税負担が課される可能性がある。
原則として、太陽光発電を行うために必要な装置には、償却資産税がかかる。すでに太陽光発電パネルを設置していても、これを申告していない人は意外に多い。理由として、そもそも太陽光発電の設備が償却資産に該当することを知らないようだ。個人事業主や法人は、設置した設備のワット数に関係なく全てが償却資産税の対象となるが、業務用だけでなく個人用であっても、電力が10キロワット以上になると売電事業用資産として扱われ、償却資産税を支払う必要が生じる。
そして個人宅に太陽光発電設備を設置しているケースで注意したいのが、発電設備が家屋と一体化しているかどうかだ。一体化していれば「ソーラーパネル」と「架台」は家屋として固定資産税が課税される一方、その他の機器は償却資産として課税される。発電設備を架台に乗せて屋根に設置しているのであれば、ソーラーパネルを含めてすべてが償却資産と判定される。つまり、発電設備と家屋が一体化しているケースでのみ、発電設備に固定資産税を課される可能性が生じる。
株式報酬の一種である信託型ストックオプション(信託型SO)の課税処理を巡り、人口知能開発のパークシャテクノロジーは8月14日、2022年10月~23年6月期の連結決算で14億円の特別損失を計上した。国税庁が信託型SOについて、企業が想定していたものと異なる税務処理を示したことが理由だ。
SOは新株予約権の中で株式購入権と呼ばれ、事前に決めた「権利行使価格」で株式を購入できる権利を指す。なかでも信託型SOは、企業側が発行した全てのSOを一旦、信託会社が購入して預かり、企業側は成果や貢献度に応じて役員や従業員らに交付する仕組みだ。
信託型SOにつき、これまでの一部の企業では信託会社が有償でSOを購入していることから有償SOを想定し、譲渡所得(税率20%)と考えていた。しかし今年5月、国税庁は信託型SOの取り扱いについて、「会社からの報酬と認められることから給与課税(税率最大55%)の対象と考えている」との見解を示した。国税庁によれば、これまでも問い合わせがあった時には「給与課税の対象になる」と説明してきたというが、統一した見解をホームページなどで明示したことがなかったため、誤解が解ける機会がなかった。
パークシャ社もこれまでは、信託型SOを行使して株式を売却した従業員には20%の所得税がかかると想定してきた。しかし国税庁の見解を受け、給与として課税されることになると地方税を含めて最大55%の税金がかかることになる。
同社はこれを受け、新たに源泉所得税を納付するとともに、本来は従業員が負担する所得税についても、全額を会社が負担することを決めた。「これまでの役職員等とのコミュニケーションや信託型SOの導入経緯を踏まえ、(中略)求償権の一部を放棄する判断をいたしました」としている。同日発表した22年10月~23年6月期の連結決算では、信託型SOに絡む14億6654万4千円の特損計上が響き、最終損益は5億円の赤字となった。なお同社は「本信託SO対応については今回をもって完了し、今後も信託型SOの活用の予定はない」という。
信託型SOを巡っては、クラウドサービスを提供するSansanやAIを手掛けるJDSCなどもすでに特別損失を計上しているほか、上場新興企業13社が訴訟を検討しているとの報道もある。
仕事中に椅子から滑り落ちてケガをした際、それが会社内であれば通常は何の疑いもなく労災が認定される。会社側による安全配慮義務違反などが問われるためだ。
ではコロナ禍で急増したリモートワーク中はどうかというと、「業務上」であれば会社内と同様に原則として労災が適用されることになる。厚生労働省の「テレワーク導入ための労務管理等Q&A集」によると、「自宅でトイレに行くため作業場所を離席した後、作業場所に戻り椅子に座ろうとして転倒した」という例が挙げられ、これも業務災害の適用になることが明記されている。
一方で、労災は業務に起因する災害であることが条件のため、たとえ業務時間中であっても食事や育児、洗濯など、私的行為によるケガは認められない。
ただ業務に起因するケガであることの証明については、状況を録画しているなどの物的証拠がなければ、労働者が労災であることを明らかにするのは難しい。同時に会社としては、労働者の訴えに対し、認めるかどうかの判断を迫られ、「怪しい」と感じたときは主張を却下することもあるだろう。
だが、ここで大事なことは労災の認定は会社が決めることではなく、あくまでも労働基準監督署に権限があるということだ。会社の思い込みや独自ルールで労災と認めない判断をした後、労働者が労基署に駆け込んで労災が認められれば、会社としては難しい立場に立たされることもある。労災の訴えがあったときは勝手な判断をせず、社労士や弁護士に相談するほうがベターだろう。
新型コロナウイルスの影響を受けた企業を支えた実質無利子・無担保の「ゼロゼロ融資」の返済ができず、倒産する企業が急増している。足元の倒産件数は前年に比べて1.6倍となった。背景にはゼロゼロ融資を受けた時には想定できなかった原材料高や人手不足がありそうだ。
そもそもゼロゼロ融資は、コロナ禍で売り上げが急減した中小零細企業を支えようと2020年3月に政府が始めた。売り上げが前年比15%減るなど一定の条件を満たせば、実質的に無担保で最大3年間は無利子で融資が受けられる。22年9月の受け付け終了までに約245万件、総額40兆円以上の融資が実行された。融資を受けた多くの企業が、返済の猶予期間を3年間の無利子期間に合わせたため、今夏になって返済が本格化している。
帝国データバンク(TDB)によると、ゼロゼロ融資を受けた後に倒産した企業は20年7月から今年7月までで922件に上る。特に今年1月~7月で354件と、前年同期(221件)の1.6倍に急増した。
4000万円以上のゼロゼロ融資を受けた都内の飲食店店主は「8月で無利子期間が終わり、毎月の返済額が8万円近く増えた。足元では材料費が2割上がり、人手不足で時給も上げないと従業員も集まらない」と窮状を訴える。ある金融機関の担当者は「融資の返済と原材料高を乗り越えるには、コロナ前よりも収益力が高まっている状態が必要になる。返済開始とともに店をたたむケースが多い」と語る。
TDBの推計では、倒産企業が借りていたゼロゼロ融資の総額は計約532億円に上り、焦げ付いた融資は最終的に税金で穴埋めせざるを得ない。政府は今年1月、返済が難しい企業に元本返済を最長5年間猶予する借り換え保証制度を新たに始めた。ただ企業の収益力が上がらなければ問題の先送りになりかねず、金融機関を中心に返済企業の事業転換などの支援が急がれる。
遺言は遺産分割の内容に大きな影響力を及ぼすが、遺産分割そのものを遺言で禁止することもできる。分割を禁止されると、遺産は相続人全員の共有状態となり、特定の誰かのものにはならない。この遺産分割の禁止は、遺産分割の過程で起こり得る争族トラブルを防ぐために認められているルールだが、利用する上では注意すべき点も多いので制度内容をしっかり把握しておきたい。
まず押さえておきたい点として、遺産分割の禁止は決して「遺言どおりに遺産を渡すよう強制する」というルールではなく、そもそも遺産を渡すこと自体をできなくする仕組みだ。さらに遺産分割の禁止は、原則として5年しか設定できない。
遺産分割の禁止は、現実にどんなケースで行われるか。代表的なものは、相続人のなかに未成年者がいる場合だろう。未成年者でも特別代理人を立てることで分割協議を進めることは可能だが、手続きが煩雑で、いらぬトラブルの種にもなりかねない。そこで未成年者が成年するまで遺産分割を禁止し、本人が協議に参加できるようになるのを待つというケースが考えられる。
相続人間の折り合いが悪くてトラブルが予想されるケースもある。5年で関係が改善するかは保証できないが、少なくとも頭を冷やす時間が稼げるという意味で検討に値する一手だろう。
そのほか相続財産の全容が不明だったり、相続人の確定に時間がかかったりというような場合も、調査期間を設ける目的で遺産分割が禁止されることもある。なお分割の禁止は、遺言で指定する以外にも、関係者全員の合意があるときや、一部の相続人の申し出に基づいて家庭裁判所が認めたときも行われる。
トラブル防止の観点からは利用価値の高い遺産分割の禁止だが、デメリットも多く存在する点には気を付けたい。例えば分割を禁止された遺産は相続人全員の共有財産となるため、自由に処分したり動かしたりができなくなる。共有財産が自社株であった場合、会社経営に重大な影響を及ぼすことも考えられる。
さらに分割を禁止しても相続税は待ってくれない。申告期限は相続から10カ月であるため、実際に遺産を受け取っていない状態で、それぞれの相続人は法定相続分に従った税金を納める必要がある。しかも分割が終わっていない財産は、原則として配偶者控除や小規模宅地の特例といった各種の特例を利用できない。分割見込書を提出するか、あるいは後から更正の請求などを行うことで最終的には優遇を受けられるが、手続きが煩雑で一時的には持ち出しになる可能性もある。遺産分割の禁止を検討する際にはこうしたデメリットがあることも踏まえ、専門家に相談した上で慎重に検討したい。
今年3月末までの1年間で資本金1億超から1億円以下に減資した企業が1235社あったことが東京商工リサーチの調査でわかった。前年の959社から約3割(前年比28.7%増)増えた。税負担軽減のメリットをはじめ、持株会社や分社化など組織変更も進み、コロナ禍で悪化した財務内容の強化など様々な理由で減税を行う企業が増えている。一方で、株主資本に影響が出ない資本剰余金などに振り替える形式的な無償減資も散見され、税負担の公平性を疑問視する声も聞かれる。与党内や総務省では外形標準課税見直しの検討も始まっており、今後議論は活発化しそうだ。
資本金1億円以下へ減資した主な企業には、359億7586万5942円から1億円に減資した日医工や、247億9883万965円から1億円に減資した旅行業のエイチ・アイ・エスなどがある。
産業別では、サービス業他の878社(同27.4%)が最多。次いで製造業の515社(同16.0%)、情報通信業388社(同12.1%)と続く。減資社数の前年比では農・林・漁・鉱業が60.7%と急増。円安や燃料高などコスト増が続き、収益悪化や赤字補填による減資が増えたとみられる。
1億円以下へ減資した企業は数々の優遇措置で税負担が軽減される。実質的な大企業が税負担から逃れるために減資を行うのは公性が損なわれるとの批判もあるが、今後も減資企業が相次ぐ可能性は高い。
自分の死後についての希望を気軽に記すことができる終活(エンディング)ノートはかなり市民権を得てきたようだ。基本的に書式は自由で、市販のものでは質問項目に回答していくだけで完成するものも人気だ。
遺言書に書く内容は死後のことに限られているが、エンディングノートには生前のことも自由に書ける点も利点だろう。例えば死ぬ前の介護の希望や尊厳死に関することは遺言には書けない。正式な遺言書と違って法的強制力は生じないが、本人の意思を残す意義は大きい。
遺言書でもエンディングノートでも、共通する注意点は、必ず見つけてもらえるようにするということだ。最も良いのは家族と一緒に作成したうえで保管することだろうが、もしも生前に内容を知られたくないというのであれば、エンディングノートが存在することと、そしてその保管場所だけはしっかり伝えておかなくてはならない。
エンディングノートは「財産編」と「葬儀・医療編」を分けて作成する方法もある。そのうえで前者は金庫に入れるか税理士や弁護士に預けるなどしっかりと保管し、後者はすぐに発見される場所に置いておく。特に、医療に関する希望については重要だ。手術や延命治療の有無など、最後の生き方に関することだけに、自分が意識を失ったり身体の自由が利かなくなったりしたときに、簡単に発見されるようでなくては意味がない。
もっとも可能であれば、法的効果のはっきりした遺言と、自分の意思をつづるエンディングノートの両方を用意しておくべきだろう。遺言については「そのうち」と先延ばしにしている人がほとんどだが、いざ何かがあってからでは作成することはできない。しっかり判断でき、そして自分の力で書くことができるうちに作っておく必要がある。
富裕層の相続税対策として活用されてきた「タワマン節税」について、国税庁はタワマンの相続税評価額を実勢価格の最低6割に引き上げる新たな計算ルールへの意見公募を開始した。集まった意見などを参考にして通達を改正し、来年1月以降の相続や贈与に適用する方針。公募期限は8月20日となっている。
国税庁が提示した新たなルールは、マンションの階数や築年数などを基に評価額を補正して引き上げるというもの。築年数や所在階、総階数、専有面積などを基に「一室の評価かい離率」を算出し、これに現行の相続税評価額や最低評価水準である「6割」を掛け合わせて最終的な評価額を割り出す。6割の基準は、一戸建て物件の実勢価格と評価額の平均かい離率(1.66倍)に合わせて設定したという。
新ルールによっておおむね、実勢価格と評価額が大きく離れていた物件では、実勢価格の6割まで評価額が上がる。過去の調査では、平均して実勢価格と評価額に3.16倍のかい離があったという。かい離率の高かった高層階ほど、これまでに比べて税負担が増えることとなる。
マンションは階数が変わったとしても住戸面積が同じなら評価額が変わらないため、これまでは同じマンションのなかでも1階住戸の実勢価格が5千万円、同じ広さの30階の住戸が1億円で、相続税評価額はいずれも2千万円とすると、実勢価格に対する評価額の割合は1階住戸なら40%、30階住戸なら20%という差が生まれていた。
これを利用し、相続を見込んでタワーマンションの高層階を購入しておき、相続税を納めた直後に高額で売却するという「タワマン節税」が流行していた。
こうした問題を受け、2023年度税制改正大綱では「相続税におけるマンションの評価方法については、相続税法の時価主義の下、市場価格との乖離の実態を踏まえ、適正化を検討する」と記載し、今年1月からは国税庁の有識者会議が新ルールを検討していた。
コメントはe-Govのホームページか、郵便で行える。
父が死亡し、長男、次男、長女が相続人となった。葬式の後、父の書斎から見つかった遺言書には「次男に財産のすべてを相続させる」と書かれていた。長男と長女は「父は次男に暴力をふるわれていたし、かわいがっていたと思えないのに……」と困惑する。その後、タンスの奥に隠されていた父の日記帳に、「次男に遺言書を無理やり書かされたがどうしたらよいのかわからない」と書かれていたことを長男と長女は知る。
このようなとき、被相続人を脅迫して遺言を書かせた人は相続人としての資格を失うので、次男は財産の一切を受け取れない。これは民法で定めた「相続欠格」という制度に基づくもので、ほかにも被相続人やほかの相続人を殺そうとして刑に処された人、被相続人の殺害を知っていながら告訴や告発をしなかった人、遺言を偽造、変造、破棄した人は相続権がなくなる。
なおこのような要件を明確に満たしていなくても、日常的に暴力を振るわれていたなどの理由で相続人から排除したい人間がいるときには「相続廃除」という制度を使うこともできる。ただし過去の判例を見ると廃除が認められたのは、親の家から金品の持ち出しを繰り返して親に暴力を振るい、サラ金業者から金を借りて親に借金対応をさせたというようなケースであり、「何かと反発してくる」や「折り合いが悪い」程度の事情では、廃除は認められない可能性が高い。
政府税制調査会の中期答申が波紋を呼んでいる。退職金のほか、通勤手当などの非課税所得も対象とする「サラリーマン増税」を政権がもくろんでいるという臆測が一部メディアで報道されたためだ。自民党税制調査会の宮沢洋一会長は7月25日、岸田文雄首相と会談後、記者団に「党の税調の中でそういう議論をしたことは一度もないし、会長の私の頭の隅にもない」と否定した。岸田首相から「自分は全く考えていないが、どうなんだ」と問いかけがあったという。
宮沢会長は「政府税調のメンバーのある意味で卒業論文みたいなもの。いろいろ書かれているが、正直言って制度の紹介的なものがほとんどだ」と答申の内容を説明。一部メディアが、今後の税制のあり方として検討の必要性を示した税金や単なる紹介とした項目まで「増税を検討している」と報道し、SNSなどを中心に政権への批判が高まっていた。
答申は、税の仕組みや歴史、今後の課題などを網羅した「教科書」のような内容。全261ページで6月30日に公表された。
退職金は所得課税の項目の一つとして説明する中で「補論」でその歴史に触れている。勤続20年を超えると退職所得控除40万円から70万円に拡大することから1社で長く働くことを優遇する仕組みと説明。その上で、「近年は、市場における様々な動向に応じて、税制上も対応を検討する必要が生じてきている」と指摘した。
退職金以外に企業年金など老後資産を形成する他の商品も増えたため、「給与・退職一時金・年金給付の間の税負担のバランスにも留意しつつ、引き続き、中立的な税制のあり方を検討していく必要がある」と今後の課題を提示している。
通勤手当などは「参考=主な非課税所得」として列挙されただけで、個別の指摘はない。非課税所得については「経済社会の構造変化の中で非課税等とされる意義が薄れてきていると見られるものがある場合には、そのあり方について検討を加えることが必要」との方針を示している。
特定の条件で一定期間税制優遇を受けられる法人税の「租税特別措置」のように、答申で「期限到来時には、必要性や有効性を検証の上、廃止を含めてゼロベースで見直す必要がある」と強い表現で触れた部分もある。一部メディアはこうした点を切り取り、臆測と組み合わせて記事にしている例もあるようだが、答申では全ての税目について「税率を引き上げるべきだ」などと具体的に触れる項目はなかった。
答申が6月30日に公表された後、政府税調の中里実会長(当時)は「将来に希望が持てるような社会が実現されることを切に願う」と強調した。1人でも多くの人が手に取って将来の税制のあり方を考えてほしいとの期待も示していた。
高齢社会化の進行に伴い、認知症患者の増加が社会問題となりつつある。老々介護も珍しくなく、親が亡くなったときには子もすでに高齢で、なかには認知症を患っているということもある。こうしたとき、遺産分割にはどのような問題が生じるのか。
相続人の中に認知症で判断能力が全くない人がいて、遺言書で財産の分け方が指定されていない場合、遺産の分け方は2通りある。法定相続分通りに分けるか、あるいは成年後見人を立てて遺産分割協議をするかだ。相続人が認知症だからといって、その子(亡くなった人の孫)など推定相続人だけで遺産分割協議を進めることは認められていない。
成年後見人を付けるのが面倒だからと法定相続分通りに分けると、小規模宅地の特例などの税負担軽減措置のメリットを最大限活用した遺産分割ができない恐れが生じる。また不動産は相続人全員の名義で共有となるため、判断能力がない相続人が一人でもいるとスムーズに処分もできないなど不都合もある。
一方、成年後見人を付けたからといって、自由に遺産分割ができるわけではない。後見人を交えて遺産分割協議をするケースでは、後見制度が被後見人の保護を目的とするものだ。そのため、原則として被後見人の法定相続分を確保する分け方でなくてはならず、完全に自由な遺産分割はできない。また後見制度は一度スタートすると原則的に途中で止めることができないので、弁護士など親族以外の専門家を後見人に付けると、遺産分割協議が終わった後も被後見人が死亡するまで報酬を支払い続ける必要が生じてしまう。
このように認知症を患っている人が相続人にいると自由な遺産分割はできなくなる。財産を残す立場の人は、遺言書を作成するなど生前対策を講じるようにしたい。
チャンネル登録者数262万人のユーチューバーユニット・がーどまん(写真)を巡る税金トラブルで、顧問契約を結んでいた会計事務所側が「税務申告を行った事実はない」とする声明を発表した。がーどまんは自身の動画で「税理士の不手際で査察調査を受けた」と告発しており、両者の主張が真っ向から対立した形だ。
男性2人組ユーチューバーユニット・がーどまんは6月30日に公開した動画で、所属事務所に紹介された税理士が税務申告を怠ったことが理由で国税局査察部の税務調査が自宅や実家にやってきたと報告。無申告を指摘されて延滞税などで数千万円の税負担が発生したと明かし、事務所や税理士の怠慢があったと告発した。
所属事務所がこれに対し、「税金の未申告が指摘されたのは、がーどまん氏が保有する法人である」、「売上や支出を弊社は把握できる立場になく、税務申告の手続等を代行することは不可能」と事務所側の責任を否定したところ、がーどまんは「税理士の件も動画をアップします、証拠も全部出して公開します」と投稿し、隠し録りによる税理士とみられる男性との会話をユーチューブに公開していた。動画内では、税理士とみられる人物が「所属事務所の社長にも確認していただいて、コロナで少し(申告期限を)引っ張りましょう」などと話している様子や、「延滞税とかあったらですね、税理士賠償保険(編注=税理士職業賠償責任保険)というのがあって…。訴えてくだされば、それが認められると思う。数千万とかになっちゃったとしたら、自力で払うのは難しいので、保険を使ってカバーできないか」「いくらだったら許していただけますか」などと話していた。
動画内で名指しされたサムライ会計事務所(港区)は7月10日に、ホームページ上に「当会計事務所に関連する報道について」とする声明を発表。それによれば、「令和3年1月8日を最後に顧問料等の費用は頂くことはなく、更に、税務申告に必要な資料提供がないことから令和3年度、また、令和4年度の、2期の法人税申告はできませんでした」と自らの落ち度を否定した。また「査察部による調査が入りましたのは、令和5年4月であり、顧問契約解消後でした」とした上で、「税務申告ができなかったのは、申告に必要な資料を頂けず、また、費用も頂けなかったことに理由がありました。この方の税務申告が可能な状況で、当事務所が税務申告を怠った事情は一切なかった」と主張した。がーどまんは11日までに所属事務所とは協議の上で和解したことを発表しているが、会計事務所についてはその後発言していない。
なお動画内にあった税賠の利用を促すような発言について、サムライ会計事務所は「当事務所担当者が、『幾ら支払えば許して貰えるか』等発言した録音が、インターネット上で情報として流れています。この点、この方(編注=がーどまん)ではありませんが、その関係者と称する人から、この報道された件について当事務所として莫大な金銭を請求されたことがありました。よって、当事務所としては、刑事告訴を検討するなかで、必要があって発言したものであり、当事務所の非を認めたものではない」と説明している。
会社設立に当たっては、一般的な株式会社だけでなく合同会社という選択肢がある。かつては一般になじみがないとして信用力が劣るイメージもあったが、最近は知名度も上がり活用の仕方も広がってきている。
合同会社は株式会社のように経営と資本(出資)が分かれていないので、お金を出した人(出資者)を「社員」と呼び、出資者が経営も行う。株式会社よりも組織がシンプルで、設立や運営に必要な手続きも簡素に設計されているというメリットがある。
例えば株式会社を設立する際は定款を作成して公証役場で認証を受ける必要があるが、合同会社では定款の認証が不要なため、この手数料(約5万円)がかからない。また登録免許税も株式会社では最低15万円かかるところ6万円(下限)で済むため、司法書士や行政書士に頼んだとしても手数料込みで株式会社の半額以下(10万円前後)で足りる。
さらに合同会社は「社員」の任期がないため、株式会社の役員改選(重任)時にかかる登記手続きが不要で、また決算公告の必要もないので、そうした費用も浮く。このほか、合同会社では増資の際に資本金に組み入れる額は自由に決められることから、増資する金額の全額を資本剰余金に計上すれば、増資の際に登記をしないで済む。
分配の自由という面も株式会社とは大きく異なる。株式会社で稼いだ儲けは、基本的に株式の数に応じて各株主に分配されるが、合同会社では社員間で決めた比率で分配することができる。会社への貢献度などを考慮して、100万円出資した社員と1万円しか出資していない社員が同額の配当を受けることも可能だ。
一方で株式会社に比べて資金調達の手段が限られることや、金額に限らず出資者が同じ議決権を持つため、経営方針や利益分配を巡って出資者同士で対立したときにトラブルになりやすいデメリットがあることは覚えておきたい。
なお合同会社は総社員の同意により、株式会社へ変更することができる。そのため、最初は使い勝手の良い合同会社として事業を進め、規模拡大が必要になったときに株式会社化するという方法もあるだろう。
国税庁は7月7日、ストックオプション(SO)の権利行使価格の設定に必要な株価の算定ルールに関する所得税法と租税特別措置法の法令解釈通達を一部改正した。未上場企業であれば、理論上、1円で設定できるようになり、一定の条件を設けることで税制優遇を受けられる「税制適格SO」の利用促進が期待される。
国税庁は5月30日~6月29日に算定ルールの見直しについて意見公募し、計36件の意見が届けられた。改正に賛同する意見が大半を占め、改正案の修正はなかった。
新ルールでは、純資産の時価を発行済み株式数で割って算定する「純資産価額方式」など「財産評価基本通達」内の算定方法が利用できる。純資産がマイナスの未上場企業では算出結果がマイナスになることもあるが、法律上0円には設定できないため、理論上、1円が最低限の価格となる。
一方で、日本公認会計士協会の意見は、法人税制の見直しの必要性を指摘した。税制適格SOを行使して社員らが報酬を得た場合、会社側は費用計上することになるが、現行の法人税法上は「損金不算入」になると指摘。「実質的に法人税を負担した上で付与することにほかならない」として、「課税の公平性を損ねない範囲でできる限り税負担の少ない形で利用可能であることが望ましい」と税制上の措置の検討を求めた。
SOは新株予約権の1種で、あらかじめ決めた「権利行使価格」で株式を購入できる権利。スタートアップ企業が成果報酬として役員や従業員らに交付する事例が多く、税制適格SOは一定の条件を定めることで、給与所得(税率最大55%)としての課税を繰り延べ、譲渡所得(税率20%)として課税することができる。
税制適格SOの権利行使価格は「SOを付与する時の株価以上」が要件で、未上場のスタートアップには算定が困難で、導入のハードルとなっていた。
全文を自分で書く「自筆証書遺言書」は、思いついたタイミングで費用を掛けずに残せるという手軽さがあるが、書き方を少しでも間違えればその全部が無効になる恐れがある。そのため、確実に効力を発揮する遺言を残す方法としては、公正役場で公証人に作成してもらう「公正証書遺言」に軍配があがる。
公正証書遺言は、役場が原本を保管するので紛失リスクがなく、法律のプロが作成するので遺言が無効になることもない。作成に手数料がかかるが、財産を思い通りに渡すための支出と考えれば仕方ないだろう。なお手数料は、渡す財産の価格が100万円までなら5千円、100万円超200万円以下は7千円と、財産の価格によって変わる。財産が10億円を超えると、「24万9000円に超過額5000万円までごとに8000円を加算した額」となる。
ただし公正証書遺言を作る際に面倒なのが、証人が2人いなければならないという点だ。所有財産を含めた遺言の内容を知られてしまうので、いかに仲が良くても近所の友だちに任せるのははばかられる。だったら最も信頼できる妻と子どもに任せようか、となるところだが、それは認められない。法律上、未成年者、推定相続人や財産を受け取る人、その配属者および直系血族、公証人の配偶者、四親等内の親族、書記、使用人は公正証書遺言の証人になれないと決められているためだ。相続の際に利害関係が生じる人は同席できないというわけだ。
もし知り合いに頼める人がいなければ、弁護士などの専門家に頼むという手もあるが、これまた料金が別途発生してしまう。遺言をちゃんと残すのも一苦労だ。
政府税制調査会(会長=中里実東大名誉教授)は6月30日、中期的な税制のあり方の方向性を示す答申を岸田文雄首相に提出した。答申をまとめるのは2019年以来4年ぶりで、岸田政権では初めて。具体的な税率には触れず、経済社会の構造変化に合わせた税制の見直しを求めた。
答申は、租税原則の「公平・中立・簡素」に加え、租税の「十分性」が重要と位置づけた。国債費が増大し、税収の割合が約4割まで落ち込んだ国の政が「将来世代に負担を先送りしている」と断じ、「持続的な経済成長を実現しつつ、租税の財源調達機能を回復することが重要だ」と指摘。税制全体では「経済社会の構造変化を見据えた見直しが必要」と訴えた。
税目別では、消費税は「社会保険料を補完する財源として、税収の変動が少ない消費税がふさわしい。更なる増加が見込まれる社会保障給付を安定的に支える観点からも、消費税が果たす役割は今後とも重要」とした。過去に税率引き上げに触れた答申もあったが、今回は見送った。
所得税では、働き方の多様化を見据えた所得控除のあり方を問いかけた。特に、共働きの世帯が増えていることなどから「配偶者控除、配偶者特別控除のあり方についても検討すべきだ」とし、「公平かつ働き方に中立的な税制」の構築を求めた。給与と退職一時金、年金給付の間の税負担のバランスにも留意する必要がある。
自動車関係税は、電気自動車(EV)の普及で、車体税や燃料税の減収が続き、道路整備などの財源が不足していると指摘。EVへの課税のあり方について「見直しを図る必要がある」と促した。
法人税では、条件を満たせば優遇税制が受けられる租税特別措置について、租税原則に「基本的に反する」と明記した。例えば、研究開発税制を受けられるのは全納税法人の1%程度で、受益しているのも8割が製造業と偏りが生じている。こうした背景から、客観的なデータに基づいて有効性を分析し、各措置の「廃止を含めたゼロベースの見直し」を求めた。
多くの中小企業では、定款で株式の譲渡制限を定めていて、会社の承認なく株式が売却されたり想定しない株主が登場したりすることはない。
しかし例外もあり、相続による株式の移転には譲渡制限の効力は及ばない。そのため自社株が分散している状態を相続まで放置していると、予想外の範囲にまで自社株が分散し、会社運営上の障害になってしまう。株主が兄弟などであれば本人同士の交わりがあるが、放置するうちに本人が亡くなると叔父と甥の関係になり、やがて従兄弟の関係になり、将来的にはまったく交流のない人が株主総会に登場する可能性もゼロではない。
譲渡制限株式が相続に対しては効力を発揮しないという問題に対しては、会社法で定められた「株式売渡請求制度」を利用するという手がある。これは相続や合併などによって譲渡制限株式を取得した者に対して、強制的に株式を会社が買い取ることができる制度だ。ただし相続人に対して売り渡しを請求できるとする定款を置く必要があり、定款を変更するためには株主総会の特別決議がいるので、気心の知れた兄弟などがいるうちに定款の変更だけでも済ませておかなければならない。
また強制的に買い取ることができるのは、あくまで会社が分配可能な金額の範囲に限られるため、買い取り資金を用意しておくことも必要となる。例えば資本金や資本準備金を取り崩して資本剰余金としたり、含み益のある資産を売却したり、経営者からの借入金を債務免除することで利益を計上したりという方法が考えられる。
「そのうちきちんとしなければ」と思っているまま時間が経過するほど、散逸した自社株がトラブルに発展するリスクは高まる。自社株の分散を放置しているなら、一刻も早く整理と集約を行うことをお勧めする。
6月15、16日に開催された日銀の金融政策決定会合の「主な意見」が6月26日に公表された。中でも日銀が2016年から続けている緩和策「イールドカーブ・コントロール(YCC)」について、一部の政策委員から「早い段階で扱いの見直しを検討すべき」との意見が上がり、市場関係者の注目を集めた。YCCは日銀が大量に国債を購入することで、短期金利をマイナス0.1%、長期金利を0%程度の超低金利に抑える手法だ。
6月の主な意見では「YCCは将来の出口局面における急激な金利変動の回避、市場機能の改善、市場との対話の円滑化といった点を勘案すると、コストが大きい」として委員から見直しが求められた。いずれの理由もYCCを始めた当初から指摘されてきた「副作用」だけに、なぜこのタイミングで委員が見直しを求めたかは不透明な部分も残る。それでも、金融政策の最高意思決定機関の内部から早期の政策修正が求められたことは重要な変化の兆しと言える。
加えて6月会合の主な意見では足元の物価高について、現状の見通しよりも「上振れ」のリスクを指摘する声も相次いだ。ある委員は「企業の価格設定スタンスが積極化してきており、想定より上振れる可能性がある」と語り、他にも「(今年度の物価上昇率が)2%を下回らない可能性が高い」などの意見が上がった。
日銀は次回7月会合で3カ月に1度の物価見通しを公表する予定だ。前回4月の見通しでは23年度の物価上昇率(変動の大きい生鮮食品を除く)を「1.8%」としている。市場関係者の間には7月会合で物価見通しの上方修正し、大規模緩和策の変更に踏み切るとの懸念が根強い。足元の為替相場も一時1ドル=144円台まで下落するなど、円安の主因である日銀の大規模緩和策への修正圧力も高まる可能性もある。その意味で7月会合は植田・日銀の政策スタンスを図る試金石となるだろう。
脱税のニュースなどを見ていると「重加算税を認定される」という報道をよく見る。字面からも、いかにもキツそうな印象だが、実際に重加算税はどのような場合に認定されて、課されるとどうなってしまうのか。できれば関わり合いたくない重加算税について、ここで確認しておきたい。
税務調査で申告漏れが発覚したときのペナルティーである「加算税」には4つの種類がある。そのうち過少申告加算税、無申告加算税、不納付加算税の3つは納税額が不足した理由がうっかりミスや法律の理解不足など、不正があったとまでは言えない状況のときに課されるものだ。一方、最も税率が高い重加算税は、税額の不足に関して故意に不正を働いたと判断されたときに課される税金となっている。
重加算税が課される典型例としては、2種類のパターンがある。税金の計算に関わる事実をあえて隠す「隠ぺい」があったときと、事実とは異なる状況を装う「仮装」があったときだ。例えば裏帳簿の作成、重要書類の破棄、記録の改ざんなどが判明すると、重加算税を課されやすい。実際に重加算税を課されてしまうと、納税者は4つの深刻なデメリットに直面する。
1つ目は、単純に加算税が高くなるということだ。前述の通り、重加算税はほかの加算税よりも税率が高く設定されている。仮に法人税100万円の過少申告が指摘されたとすると、故意がなければ過少申告加算税10万円(100万円×10%)を追加納付すれば済むのに対し、重加算税では35万円(100万円×35%)と、より多くの金額を納めることとなる。
2つ目は、延滞税も高くなるということだ。延滞税は、納期限を過ぎてしまったときに課される税金で、遅れた分の利息に相当する。延滞税が発生するのは通常、納付期限から1年間のみで、1年間を超えた期間については上乗せされない。だが重加算税は例外的に、納付が遅延している間は際限なく延滞税が課されてしまう。仮に納期限から3年後の税務調査で修正申告を行ったケースでは、通常であれば1年分の延滞税を納めれば済むところが、重加算税だと延滞税額は3年分に膨らむ。
3つ目は、将来に税務調査を受ける確率が跳ね上がるという点だ。国税当局は昨今の人員不足を背景に税務調査の効率化を図っていて、取り組みの一環として過去に不正のあった法人を重点的に調査していくことを明らかにしている。通常の中小法人の税務調査の頻度が5~10年に1度くらいだとすると、過去に重加算税を課されていると3~5年に1度税務調査がやってくる可能性がある。
最後のデメリットが、過重措置によっても税率が上がるということだ。重加算税の対象となる不正行為が5年以内に再発すると、税率が更に10%加重される。例えば3年前に重加算税を課された後、再び税務調査が入り不正行為による申告漏れ税額が100万円生じたケースでは、重加算税の税率が45%(35%+10%)まで増加し、45万円を納めなければならない。あまりに痛い税負担だといえる。
仕入税額控除をするため、消費税率ごとの税額や登録番号などを記載した請求書の発行が求められる「インボイス(適格請求書)制度」の導入まで約3カ月となった。東京商工リサーチによると、課税事業者からのインボイス登録は5月末時点で約316万件に達しているが、免税事業者は約50万件にとどまっている。
インボイスに向けた課税事業者の登録件数は315万9235件(5月末時点)。政府の見立てでは約461万件の登録が見込まれる。しかし、2月の衆議院内閣委員会で政府側が「消費税は預かり税でない」と明言したため、登録の遅れにつながった可能性もありそうだ。
6月14日には、免税事業者が多い声優やアニメーターらの有志団体が主催するデモが、東京都など全国約20カ所であった。国会議事堂正門前ではデモ開始直後、共産党の志位和夫委員長がマイクを握った。「消費税の大増税をやろうって話で、絶対に許すわけにはいかない」と気勢を上げると、参加者は熱気を帯びた。
インボイス制度の導入後は、インボイス登録をした事業者間の取引でなければ仕入税額控除ができない。インボイスの発行には、課税事業者への登録が必要だが、立場の弱い免税事業者に「登録しなければ取引を打ち切る」などと取引先から圧力があり、登録を強制されるケースなどが問題視されている。売り上げ1000万円以下であれば消費税の納税が免除されてきたが、登録すればその分の税負担が増す。
同制度は、消費税率が2019年10月に10%に引き上げられた際、23年10月の導入が決まった。消費増税と同時に8%の軽減税率が設けられたため、複数税率下での正確な納税を目的としている。導入までの4年間は周知や準備期間で、導入後は26年10月まで税額の8割、29年10月まで5割を控除できる激変緩和措置などが設けられている。
ただ、国会での政府説明は的を射ていない。野党議員に「今は適切な課税をしていないということか」と問われた鈴木俊一財務相が「より適切な課税をする」などと苦しい答弁をする場面もあった。課税当局は各地で説明会や相談会を開いているが、依然として登録をためらう個人事業主や免税事業者は少なくないとみられる。登録期限は当初3月末までだったが、9月末に延長されている。
相続発生から数年。現金などの分割は終了しているが、自宅の土地、建物の名義は父のままになっている。母親が自宅不動産に住み続けているうちは特に支障はないが、将来的に施設に入るなどの理由で不動産を売却したいとなれば、相続による名義変更が必要となる。
不動産の名義変更は法務局への申請など複雑な手続きをしなければならず、後回しにしがちだ。しかし、この不動産の名義変更を行わずに放置しておくと、さらに次の相続が派生してしまったときに面倒なことになってしまうので注意したい。次の相続が発生すれば必然的に相続人は増加し、権利関係が複雑になる。当然、相続人が増えれば、遺産分割協議に同意してもらうための労力も増える。前述のように登記変更がされていないと不動産を処分できず、スムーズな遺産分割を妨げるかもしれない。一人でも同意が得られなければ、遺産分割の調停・審判をすることとなる。
だがこれらのリスクがあると分かっていても、登記費用などのコストがかかってしまうことを嫌がり、結局動かせず、そのままにしている土地と建物が往々にして存在する。
来年からは相続で取得した不動産の登記が法的義務となり、3年間放置すれば10万円以下の過料が発生する恐れもある。相続人名義への変更は、早ければ早いほど、相続手続きは簡単、低コストとなることを覚えておきたい。
自民党の特命委員会(委員長・萩生田光一政調会長)は、防衛費増額の財源確保策に関して、増税時期の2025年以降への先送りを念頭に置いた提言を岸田文雄首相に提出した。経済財政運営の指針「骨太の方針」に向け、今後は提言の内容がどこまで反映されるかが焦点となりそうだ。
政府は22年末、防衛力の抜本的強化に向け、防衛費の総額を23~27年度の5年間で43兆円程度とする方針を決定した。27年度以降は従来4兆円弱の追加財源が必要とし、歳出改革や税外収入などで3兆円弱を賄う一方、法人税、所得税、たばこ税の3税を対象に増税し、1兆円強を確保する方針を示している。
増税時期について、政府は「24 年以降の適切な時期」に実施するとしているが、提言は「25年以降のしかるべき時期とする柔軟な判断も可能にするには、税制措置以外の財源を更に確保することが必要」と明記し、先送りに言及した。「税制措置により国民に負担をお願いすることは最終的な手段」と強調し、増税以外で賄う財源を「確実に確保することを含め最大限の努力をすべきである」と要望。岸田首相は提言について、「(骨太の方針に)できるだけ取り入れるように努力する」と述べている。
先送りの背景には、年末に向けて防衛だけでなく、少子化対策の財源を巡る課題も山積する中、党内ではかじ取りを誤れば禍根を残すとの危機感が強まっている。
また、提言では増税以外の財源確保策として、政府が保有するNTT株を売却し、完全民営化の選択肢も含めて「早急に検討すべき」だとした。決算剰余金の活用や歳出改革、為替介入の原資となる外国為替資金特別会計(外為特会)の剰余金の一定程度の活用を盛り込んだ。国債を借り換えながら60年で完済する「60年償還ルール」の見直しを巡っては、「引き続き幅広く議論を重ねていくべき」だと列挙している。
提出後、萩生田氏は記者団に「提言を踏まえ、最大限の追加財源の確保を期待する」と述べた。
日本の国籍法では、2つ以上の国籍を持つ人は22歳になるまでに国籍を選択しなくてはならない。二重国籍となったのが22歳以降なら、二重国籍となってから2年以内とされている。ただ外国籍を離脱せずにいても罰則はないため、二重国籍のままという状態も多く起きているのが現状だ。
国籍は個人のアイデンティティーでもあるため杓子定規に型にはめることは慎むべきだが、納税にあたっては各国で厳格にルールが定められている。一概には言えないものの、日本を含めた多くの国では、国籍を問わず「どこに住所(居所)があるか」と「どこで所得が発生したか」で判断している。だから日本に家がある中国人が韓国で納税するということもある。
さらに、「自国民は世界中どこにいようと自国民」という“属人主義”を採用しているアメリカでは、米国民であれば世界のどこに住んでどこで稼いでも米国で申告納税することが決められている。もちろん、これはあくまでも立法上の形式論にすぎず、納税までは強要されない。ただし税金の申告は必要で、年末調整がない米国では日本に住んでいても米国籍のある人は米国の税務当局に向けて毎年確定申告を行う必要がある。
二重国籍で特に面倒なのは相続だ。「日本の法の適用に関する通則法」によると、相続は「被相続人の本国法による」と定められているため、生まれてから死ぬまで日本を一歩も出たことのない米国人は、法定相続人の範囲や順位、法定相続分といった相続の仕方は全て米国法に従うことになる。さらに、この人が二重国籍であれば米国と日本のダブルスタンダード状態で相続が行われることになる。当然、相続の際には国際相続に詳しい専門家の力を借りることになるだろう。
島根県の丸山達也知事が5月25日、少子化対策の財源案を「一人頭いくら出せ、というのはまるで人頭税だ」と批判した。出演したニュース番組で発言した。
岸田政権の掲げる少子化対策では、社会保険料に上乗せする形を検討している。丸山知事は「所得に関係なく求められる社会保険料は、すごく逆進性が高い。それで子どもが増えると思うか」と政府案に反発した。また「一切の負担を求めるなと言うかどうかは別」とした上で、「個人が負担するのは500円、雇っている会社が負担するのも基本的に同じ額の500円。黒字赤字関係なく負担してもらうことを意味する。ガソリンや電気・ガス料金だけでなく、スーパーで買う日用品、食料品も値上がりしている。生活の厳しさが増している中、負担能力を無視したやり方が本当にいいのか」と注文を付けた。
また経団連の十倉雅和会長が「消費税(増税)も排除せず検討すべきではないか」と述べたことに対しても反発。日経平均株価がバブル崩壊後最高値の更新を続け、上場企業の決算は2年連続で過去最高に達する見込みとの現状を踏まえ、「大企業がどこまで負担できるのか、そういう議論がなぜ一切出てこないのか。大衆課税である消費税を排除するなと言うなら、私のように誰かが『法人税を排除するな』と言わないといけないのではないか」と指摘した。
夏のボーナスの時期がやってきた。会社としては賞与の源泉徴収で気を付けなくてはならないポイントがある。前月に給与を支払っていないとき、またはボーナスの金額が前月給与額の10倍を超えているときは注意が必要だ。
給与を支払うときに源泉徴収する税額は、支払いの都度「給与所得の源泉徴収税額表」を使って求める。税額表には「月額表」「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」があり、ボーナスや年末手当、期末手当といった名目で定期の給与とは別に支払われるものには二つ目の「賞与に対する源泉徴収額の算出率の表」を用いる。具体的には、前月の給与から社会保険料などを差し引いた金額を「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」に当てはめ、税率(賞与の金額に乗ずべき率)を求める。そして「賞与から社会保険料等を差し引いた金額×税率」が賞与から源泉徴収する税額になる。
しかし前述のふたつの例外に該当するときは、ボーナスの支払いであっても一つ目の「月額表」を使う。
前月に給料を払っていない場合は、「賞与から社会保険料等を差し引いた金額×6分の1」を月額表に当てはめ税額を求め、それを6倍した額が源泉徴収する税額となる。賞与が給与の10倍超となる場合は、「賞与から社会保険料等を差し引いた金額×6分の1」と「前月の給与から社会保険料等を差し引いた金額」を足した額を月額表に当てはめ税額を求める。その税額から「前月の給与に対する源泉徴収税額」を差し引き、これを6倍した額が賞与から源泉徴収する税額となる。
どちらも賞与計算期間が半年超なら(賞与-社会保険料等)÷12として同方法で計算。求めた額の12倍が源泉徴収税額だ。
コロナ禍で確定申告をする人が密を避けようとした結果、電子申告が急激に普及拡大していることが明らかになった。コロナ前の2019年からの推移をみると自宅から電子申告をした人は5倍超に増え、スマホ申告は申告環境が整ったこともあって4年で200倍超に増加している。
5月31日に国税庁が公表した22年分の所得税・贈与税等の確定申告の状況によれば、確定申告をしたのは2295万人で前年から0.4%微増した。ただし納税が発生した人数は0.5%減り、納税額も3兆6801億円で2.9%のマイナスとなっている。
特筆すべきは、e-Taxを利用する人の増加だ。国税庁によれば、国税庁ホームページの確定申告書等作成コーナーや会計ソフトなどで自宅から申告をした人は592万人で、前年から約1.3倍、コロナ禍前の18年からは約5倍に増加している。かつては税務署などの会場まで行って職員のサポートを受けながら申告をする人の方が多かったが、昨年に両者の割合は逆転し、1年でその差は約2倍にまで拡大した。
さらにパソコンではなくスマートフォンから申告をする人の増加も著しい。22年分にスマホ申告をしたのは249万人で、前年比1.6倍、4年前に比べると200倍以上に増えている。スマホ申告を巡る納税環境は年々向上しており、それに併せてコロナ禍で自宅から申告したいと考える人が増えたことが背景にあるとみられる。
スマホ申告の普及の一因となっているのが、マイナンバー制度だ。最大2万円分のポイントを還元するマイナポイントキャンペーンもあり、マイナンバーカードの普及率は急増した。そのマイナンバーカードを使って確定申告をした人は387万人に上り、前年から1.8倍増と伸びた。マイナンバーカードとスマホを組み合わせて申告した人は179万人で、こちらは前年比2倍、4年前に比べると約30倍に激増している。また各種控除証明書をマイナポータル経由で取得した人も増え、こちらは132万人と前年比4倍に伸びている。
もらってうれしいものを正直に言えば、やはり使い方の自由度の高いものだろうか。代表格は現金、次いで換金性の高い商品券等々…。
早くもお中元を考える季節となったが、贈り物にビール券などの商品券は喜ばれるものの筆頭だ。当然ながら経費として認められる。ただし、その経理処理は通常の商品以上に注意が必要だ。
なんといっても商品券は換金性が高い。相手に手渡したときに「受取証」をもらうこともないため、税務調査では「本当に渡したのか」と、疑われることも多い。実際、会社が買った商品券を取引先に渡さないで自分の懐に入れてしまうという事例はいくらでもある。社長自身が自身の臨時収入にしてしまうほか、預かった社員が自分のポケットに入れたり金券ショップで換金したりするという。もちろん、不正に手にした金券を転売したことによる譲渡益を申告する者はいない。
こうしたことは税務署も想定内であるため、お歳暮やお中元の扱いにはしっかりと目を光らせている。お中元の処理で痛くもない腹を探られないためには、商品券を渡した相手のリストを正確に作ってしっかり保管しておくことだ。その際は、相手の社名や日時、商品の内容はもちろんのこと、配送でなく手渡したのなら受け取った相手の名前も記しておきたい。
せっかく会社で買って取引先に確かに渡した商品券も、税務署に否認されれば、その代金は損金にできず会社の所得が増えて法人税が増加するだけではなく、社長が懐に入れたと判断されれば、ボーナスということで社長個人の所得税と住民税も跳ね上がる。まさに踏んだり蹴ったりだ。しっかり対処しておきたい。
お中元の季節は以前に比べて全国的に早まっているようだ。北海道では、旧盆の時期にあたる7月15日~8月15日あたり、東北と関東は7月初旬から7月15日まで、北陸は地域によって関東型と北海道型に分かれ、東海・関西・中国・四国のお中元では、7月15日~8月15日までに贈ることが一般的なようだ。また、夏の到来が早い沖縄では旧暦の7月15日までに贈ることが多いという。
政府肝いりの施策であるマイナンバー制度でトラブルが続出している。かねてより情報管理の危うさが指摘されていた同制度で個人情報が漏えいする不祥事が続いたことで、制度の信頼性そのものを揺るがす事態となっており、岸田首相も「重く受け止めている」と再発防止に政府一丸で取り組む姿勢を強調した。
一連のトラブルは、国内IT大手の富士通の子会社である「富士通Japan」がシステムを提供する自治体で3月以降に多く発生している。マイナカードを使ってコンビニで証明書を交付するサービスを利用したところ、他人の住民票や戸籍謄本が誤発行されたり、印鑑登録書を発行したら登録抹消済みの印鑑証明を誤交付したりするなどのトラブルが11自治体で発生した。5月24日には富士通の時田隆仁社長が、トラブルの原因は個々のケースにより異なるとした上で、「お客様をはじめ関係者の皆様に多大なるご心配ご迷惑をおかけしていることについて改めて深くお詫び申し上げます」と謝罪した。富士通は最長で6月4日までシステムを停止し、一斉点検を行うという。
さらに同社が関与した案件以外でも、災害時に給付金などをすばやく受け取れる公金受取口座のシステムで不祥事が判明している。マイナンバーに銀行口座を紐付ける際に、他人のマイナンバーに自分の口座を登録してしまった事例が7自治体で12件発生した。原因は手続き担当者が、先に手続きした人をシステムからログアウトさせないまま次の人の手続きを行ったことだ。河野太郎デジタル相は「今後起きないよう、デジタル庁と自治体で連携して取り組んでいきたい」と述べた。
ようやく全国で運用を本格的にスタートさせたマイナンバー保険証でも同様のトラブルが起きている。マイナンバーカードと一体化した健康保険証について、誤って他人の情報が登録されていたケースが7300件余り確認された問題で、加藤勝信厚生労働大臣は23日、およそ3400ある全国すべての組合に対し、これまでの入力作業でルールを守っていたか点検を要請するとの再発防止策を発表した。
トラブルが全国で頻出し、マイナンバー制度そのものの信頼性が問われる事態となっていることを受け、24日に国会で答弁に立った岸田首相は、「信頼というものがあってこそのマイナンバーカードであると思います。国民がこの信頼に対して不安を感じるような指摘をされている。これは重く受け止めなければなりません」との認識を示した。その上で、「再発防止をはじめ、信頼回復に向けて、政府一丸となって対応すべき課題である」と強調した。最大2万円分のポイントを還元するキャンペーンが功を奏し、マイナンバーカードの申請率は交付開始から7年でついに全人口の8割に達しつつある。社会的基盤として利用する下地が整いつつあるタイミングでのトラブルの続出は、制度の足元を揺るがしかねない。
会社が行う「節税」と呼ばれる手法は、保険しかり設備投資しかり、そのほとんどが決算前に行うものだ。すでに決算が確定してしまった後でやれることはほとんどなく、数値を後からいじったりすると意図的な税逃れとして否認されてしまう。
それでも決算後にできることもゼロではない。例えば売上債権や貸付金など、回収不能な債権の貸し倒損失などが見つかれば、費用に計上することができる。また固定資産税台帳をチェックして、廃棄したにもかかわらず台帳に残っているものがあれば、台帳から削除して除却損を計上することが可能だ。実際に廃棄していなくても使用していないのであれば「有姿除却」として損金に含められる可能性もある。
さらに在庫を抱える会社であれば、不良在庫がないかも確認したい。型落ちや売れ残った季節商品、傷物など定価で販売できない事情があるなら、評価損の計上が認められる。ただし本当に定価で販売できないほど価値が落ちているかは、納税者と税務署のあいだで争われやすいポイントでもあるので、注意したいところだ。
駐車場料金や保険料を年間で一括払いしていれば、短期前払費用としてまとめて損金に含められたり、社会保険料などの未払いの費用を未払費用として処理したりすることもできる。そのほかにも、損金にできるはずの固定資産取得時の租税公課を取得費に計上していないか、減価償却の方法は有利なものを選べているかなど、チェックすべき項目は多岐にわたる。
これらの費用は一つひとつは細かくても、積み重ねればまとまった節税額になることもあり得る。地道にコツコツと確認して、すこしでも税負担を抑えたい。
岸田文雄首相が掲げる「異次元の少子化対策」を巡り、政府は子ども関連予算の収支を明確にするため、新たな特別会計を設ける検討を始める。社会保険料に上乗せして財源を確保する案を検討しており、新設する特別会計で管理する考えだ。月内にも本格的な議論が始まる見通しで、6月にまとめる経済財政運営の指針「骨太の方針」への反映を目指す。
少子化対策の予算は、省庁ごとに財源の区分などが異なる。こども家庭庁が所管する児童手当や保育所運営費は一般会計からの拠出や企業からの拠出金が充てられる。育児休業給付の予算は厚生労働省が扱い、保険料を労働者と企業で折半する雇用保険料を原資にしている。特別会計に子ども関連予算を一本化することで、巨額になる予算の全体像を見えやすくしたい考えだ。
一方で、目玉政策となる児童手当を巡っては、第3子以降の支給額を1人当たり月3万円に拡充する案を軸に調整が進む。現在の児童手当は、中学生までの子どもを持つ世帯に原則、第1子と第2子には1人当たり月1万円(0~2歳は1万5000円)、第3子以降は同1万5000円(中学生以降は1万円)を支給していて、これまでの支給額から倍増以上となる。必要な財源は「(第3子以降の場合だと)数千億円レベルで収まる」(自民党幹部)ため、医療保険の保険料を上乗せして財源を確保し、消費税を含めた増税は避けられるという。
政府は多子世帯を積極的に支援する姿勢をアピールし、企業からの拠出金も含めた新たな特別会計を設けることで収支の透明性を担保する狙いだ。「複数の政策が絡み、入りと出が混同しやすくなる。負担する側に協力を求めない中、(特別会計での管理は)理にかなっている」との見方だ。ただ、少子化対策の肝となる児童手当は所得制限の撤廃を求める声が与野党に根強くあり、文言の修正なく政府案が骨太に盛り込まれるかどうかが焦点となりそうだ。
賃貸アパートや社屋を修理したときの支出が、原状復帰のための費用である「修繕費」か、資産価値を高めるための「資本的支出」かの判断は常に迷うところだ。その境界線を、国税不服審判所の裁決事例から探ってみたい。
費用が「修繕費である」ということを認めさせるには、まずは工事内容を明確にすることが大前提だ。コンクリートの下地工事が争点となった裁決では、納税者が「機械取り替えに伴う工事概略図」と「作業日報」の写しが添付された「工事施工内容確認書」を提出したところ、「修繕費」として損金の額に算入するのが相当との主張が認められた。ポイントとなったのは、施工内容が分かる書面の存在だ。もしも詳細な内容がない「〇〇工事一式」といった書面しかなかったなら、納税者の主張は通らなかったかもしれない。極論すれば明細を出す工事業者だったかどうかがカギともいえる。
2つ目の事例は、建物の「出入口の工事」と「照明の取り換え」、「地盤沈下による水漏れを止める工事」の3点が争われた裁決だ。結論としては、前2つは資本的支出とされたが、水漏れ工事だけは修繕費と認められた。ポイントとなったのは、やはり詳細な証拠資料の提示があったことに加えて、施工を担当した業者が、維持管理のための工事であると具体的に証言したことだった。プロの援護射撃が効いた一例だ。
最後は、ポンプの漏えい対策として設置した「メカニカルシール」という部品の支出を巡って争われた事例をみてみる。国税当局は機材が特殊なものであることを理由に、固定資産の価値を高めるものと主張したが、審判所は「あくまでもガスの安全性を回復する修繕費」と修繕費扱いを認めた。どれほど特殊なものであっても、きちんと説明ができれば一様に資本的支出にされるのではないことを示したケースだ。
宅配ポータルサイトを運営する出前館が資本金を現在の3億7572万円から1億円まで減らすと発表した。5月10日の取締役会で決議しており、6月22日から適用される見込みだ。
同社はピザや弁当、中華、寿司といった飲食物の宅配サービスを展開している。コロナ禍の「巣ごもり需要」を捉え、加盟店数は2019年時点の2万店から23年1月時点で10万店へと5倍に急増した。ただ利用者向けアプリや広告宣伝費の投資が膨らんでおり23年8月期の連結最終損益は169億円の赤字となる見込み。最終赤字となれば5期連続だ。
コロナ禍の収束による外食機会の増加を受けて宅配サービスの利用者が減少傾向にある中、同社は各種コストの見直しに着手しており、資本金の減資も財務改善に向けた取り組みのひとつだ。法人税法では資本金1億円超を大法人、1億円以下を中小法人と判定しており、中小法人には800万円までの所得に対する法人税率の軽減や、欠損金の繰越控除、法人事業税の外形標準課税の免除など大法人にはないさまざまな税優遇が設けられている。また、設備投資に対する減税措置など租税特別措置法の優遇対象になることもある。
コロナ禍をきっかけに大企業の“中小化”は相次いでいる。すでに航空会社のスカイマークや旅行大手のJTB、全国紙の毎日新聞社、液晶大手のジャパンディスプレイといった有名企業が1億円への減資を実行した。
「ところで奥様、過去に働かれていたことはありますか」「いえ、ずっと専業主婦です」「おかしいですねえ、どうしてこんなに預金に残高があるんでしょうか。これは亡くなったご主人の収入ですね。贈与の証拠がなければ、相続税の対象となってしまいますが…」
非常によくある、相続税の税務調査でのやり取りだ。亡くなった夫としては生前に妻に財産を渡したつもりだったかもしれないが、それを妻が証明できなければ贈与は成立せず、相続財産として相続税を課されてしまう。
贈与の大原則は、「ただであげましょう」「ただでもらいます」という双方の合意と認識があることだ。例えば孫名義の通帳を管理していて自分名義の通帳から移し替えるだけで贈与をしたつもりになっているケースがあるが、もらった側が知らないで贈与が成立することはない。贈与をするなら、きちんと相手に伝えること、もらった人に財産が実際に渡って、もらった人自身によって管理されているという事実が重要となる。合意は書面でしなくても、口頭でもかまわない。しかし税務調査の場面で証明できる自信がないなら、契約書などの書面にして自署押印しておくと非常に心強いだろう。
また、モノの実際の引き渡しなくして贈与は成立しない。現金や預金なら、あげる人の通帳からもらう人の管理する通帳へきちんと振り込まれていることが贈与の証明となる。不動産を贈与するなら、登記などの名義変更手続きを絶対に忘れてはならない。
また年間110万円以内の贈与は非課税だが、「毎年110万円を10年にわたって贈与する」というような契約は、それ自体が一つの贈与契約である「連年贈与」と認定され、贈与税を課されかねない。この連年贈与対策として、毎年111万円を贈与して申告しておけば税務署に否認されることはないとの“裏ワザ”がまことしやかに語られることがあるが、会計事務所を対象としたアンケート調査によれば大半の税理士が「意味がない」と答えている。
相続したものの不要な土地を国に引き渡せる「相続土地国庫帰属制度」が4月27日にスタートした。各地の法務局で申請を行い、審査をクリアすれば、一定の負担金を納めることで所有権を手放せるものだ。来年には相続土地の登記が義務化され、違反者には罰則があることから、使う当てがなく売り手もつかない土地の処分方法として新制度の利用を検討するケースも増えそうだ。
全国で増加する所有者不明土地の原因は、相続時に登記をしないまま放置される土地が多い。そのため国は来年から相続時の不動産登記を完全義務化する。正当な理由なく登記を怠れば10万円以下の過料が科されることとなる。対象は過去の相続も含むすべての土地となっていることから、これまで管理が面倒だったり固定資産税負担を納めたくなかったりという理由で放置していた土地も登記せざるを得なくなるだろう。そうした売り手もつかないような“負動産”オーナーの選択肢として、国が新たに用意したのが「国庫帰属制度」だ。
ただ、利用価値の低い土地を引き取るだけあって、国が制度の利用に一定のハードルを課しているなど、注意すべき点は多い。
例えば申請に当たっては、土地が“クリーン”であるかが問われる。建物がある、担保権や使用収益権が設定されている、他人の利用が予定されている、土壌汚染されている、境界が明らかでない、所有権の存否や範囲について争いがあるなどの事情がある土地は、却下事由に該当し、そもそも審査を受け付けてもらえない。
審査を受けられるとなれば、承認申請書、土地の位置および範囲を明らかにする図面、申請者の印鑑証明書などの必要書類を用意して法務局で手続きを行う。1件当たりの審査手数料は1筆当たり1万4千円だ。仮に審査で不承認となり帰属制度が利用できなかったとしても、審査手数料は返還されない。
審査では、国による管理にコストがかかり過ぎないかがチェックされる。ポイントは、一定以上の勾配・高さの崖がないか、管理・処分を阻害する有体物が地上にないか、管理・処分のために除去しなければならない有体物が地下にないか、隣接する土地の所有者等との争訟がないかなどだ。例えば崖であれば「勾配が30度以上かつ高さ5メートル以上は不適格」など詳細な条件も設定されている。
こうした条件をクリアして審査を通過すれば、晴れて不要な土地を国に引き渡すことができるが、その際には10年分の管理費に当たる負担金を納めなければならない。金額は原則20万円だが、市街地や農用地区にある宅地、田畑、森林などは金額が上がり、面積によっては100万円を超える負担金が発生することもあるので注意が必要だ。
制度のスタートを受けて、法務省は各地の法務局で相談窓口を設けている。窓口では、相談者が記入したチェックシートや持参した土地の状況が分かる資料などを基に、土地を国に引き渡せそうか、申請書類に漏れがないかなどのアドバイスを受けられるという。
同制度は価値の低い土地を持つオーナーにとって有力な選択肢の一つとなり得るが、利用に際してのハードルは決して低くはない。申請に当たっての諸々の事務負担やコストを検討した上で、制度を利用するかを判断したいところだ。
コロナ禍を経てリモート勤務がそれなりに普及したが、家では子どもがいるなどの理由でなかなか仕事に集中しづらいことも多い。そこで時間貸しのワーキングスペースを利用したり、なかには職場に近いマンションを購入したりして、自宅以外でリモート勤務をするという人もいるようだ。
こうした「セカンドハウス」は自宅以外に持つ2つ目の居住空間という意味では「別荘」に近いが、別荘とは異なり税制上の様々な優遇を受けられる点が特徴となっている。税法では厳密に「セカンドハウス」という規定はないが、施行令などでは一般に「週末に居住するため郊外等に取得するもの、または遠距離通勤者が平日に居住するために職場の近郊に取得するもので、毎月1日以上居住の用に供するもの」かつ、「別荘」でないものと位置付けている。そして「別荘」は、「毎月1日以上居住の用に供するもの以外で、専ら保養のためのもの」と規定されているので、つまりセカンドハウスとは、夏休みやお正月などの一定期間だけ滞在するのでなく、日常的に使用する自宅以外の居住空間ということになる。
このセカンドハウスは、メインとなる自宅と同様に、不動産取得税を軽減できる特例の対象だ。具体的には、床面積50平方メートル以上240平方メートル以下の要件を満たしていれば、税額計算の基礎となる固定資産税評価額を最大1200万円差し引くことができる。同様の軽減措置は敷地に対してもあり、土地の価格や床面積に応じて税負担を軽減することが可能だ。
注意しなくてはならないのは、この軽減特例は原則として、セカンドハウスの取得者が自治体に適用申請をしなければ利用できないという点だ。実際には多くの場合、取得者が申告しなくても、登記をするために法務局に提出した書類などによって自治体が減額特例の適用をしてくれることが多い。しかし確実とはいえないので、自治体から不動産取得税についてのお知らせや納税通知書が送付されてきた時点で税額をしっかりチェックし、適用漏れがあるなら問い合わせをしたほうがよいだろう。
国民の所得に占める税金や社会保険料などの負担の割合を示す「国民負担率」が47.5%に上っていることについて、「江戸時代の年貢率「五公五民」のようだ」との野党議員の指摘に対し、岸田文雄首相が反論する場面があった。
4月19日の参院本会議で日本維新の会の東徹氏は「日本はこの30年間GDPが伸びず、賃金が伸び悩み、競争力が低下した。まさに失われた30年になった。一方で上がったものは税金と社会保険料といった国民負担。国民負担率は30年前が36.3%で直近が47.5%。まさしく今や五公五民であり、まるで江戸時代に戻ったかのようだ。少子高齢化と人口減少という国難を克服できなかったことは政治の怠慢によるものだ」と指摘した。
これに対し岸田首相は社会保障や教育など公的サービスに還元されているとし「受益と負担を考慮していない江戸時代の年貢と同列に論じるのは不適当だ」と反論した。
一般の賃貸物件を企業が借り上げて従業員に貸し出す「借上社宅」制度と、福利厚生の一環として住居費用の一部を企業が負担する「住宅手当」とでは、会社としてはどちらが得なのか。
借上社宅は、例えば会社が6万円で借りたものを社員へ3万円で貸し出すものだ。一方の住宅手当は6万円の家賃を払う従業員に3万円の手当を支給する制度で、どちらも会社から従業員への支出は3万円で同じだ。
ところが住宅手当は税務上、給与、労働保険(労災保険・雇用保険)の賃金、社会保険(健康保険・厚生年金)の報酬になるため、会社としては同じ額の支援であっても、企業はもちろん従業員も自らの負担が増えることになる(労災保険は従業員の負担なし)。
では借上社宅で、社員に格安で貸し出せば会社も社員も双方が最善かというとそうともいえない。借上社宅であっても貸し出す相手や社宅の規模によって、最低限の金額(賃貸料相当額)を負担しなければ、その差額が給与として課税され、税金や社会保険料の対象とされることになってしまうからだ。賃貸料相当額とは、貸し出す相手が従業員か役員かで異なり、それぞれ建物の固定資産税額や規模をもとに細かく定められているもので、実施にあたっては税理士などの専門家に相談したほうが無難だ。
ふるさと納税の返礼品競争はとどまることを知らない。その一方で長野県は、返礼品なしで寄付を募る新たな取り組みを始めた。県直営のふるさと納税受け付けサイト「ガチなが」が、4月3日に開設された。大手仲介業者への委託費用などをなくしてその分を本来還元されるはずだった住民サービスに充てる。県によると全国初の取り組みだという。
「ガチなが」によると、返礼品代や配送料、業者への委託費などの事務経費は寄付総額の約半分に上り、その分住民サービスに充てられる金額が減っているという。こうした課題を解決するために、「ガチなが」では返礼品なしで寄付金の使い道により寄付先を選んでもらい、寄付者がともに事業を「共創」するような仕組みを目指す。
サイトでは、伝統工芸の支援や自然・環境保護、教育支援や人材育成など10種類の事業が示されており、その中から寄付先を選ぶ。寄付者が事業へのアイデアや意見、応援メッセージを投稿でき、寄付金が使われた事業の成果を動画や写真で発信していく仕組みも導入する。
「ガチなが」の名称は「ガチ(本気)で長野県をよくしたい」という寄付者の思いに応える場にしたいとの期待からだという。
ただ、地元の特産品を返礼品とした従来のふるさと納税の取り組みも続ける。県内産業の需要喚起につながるとして、事業者に委託している別サイトでの寄付金の受け付けが継続される。
ふるさと納税制度によって税収の流出が著しい都市部では返礼品競争が過熱化する動きもある中で、長野県の試みが歯止めになりうるのか。注目が集まる。
多く稼いだ分だけ納めるのが筋とはいえ、近年の富裕層を狙い撃ちにした税金の数々はさすがに目に余る。かくなる上は財産を持って国外に移住するしかない。そんなことを考えても、国外への資産移転を実行するのはなかなか難しいのが現状だ。そもそも日本から海外への移住をめぐる税金のルールは、かつてより厳しくなっている。2017昨年3月までは、相続人と被相続人の両方が5年を超えて海外に住んでいると、海外資産に対しては日本国内での相続税は課されなかった。しかし同年4月以降は、5年超という要件が2倍の10年超に引き上げられた。現在では、たとえ9年住んでいても日本の相続税が課される。
さらに15年7月に導入された国外転出時課税では、有価証券など1億円以上の金融資産を持っている人が海外に住所を移して出国する際や、海外にいる親族などに財産を贈与・相続する際に、その段階で資産が売却されたとみなして含み益に譲渡所得税を課するようになった。日本国内での税負担が重いからといって、資産を海外に自由に持ち出せるわけではないということだ。
これらの税務上の要件を満たせたとしても、住み慣れた日本を離れて生活が激変するという、移住最大のリスクは解消できない。他にも目的があるならともかく、税金対策のためだけに慣れない海外に10年間住むのは困難を伴う。もしも海外移住を検討するなら、税負担だけでなく、家族も含めたライフプランまでをしっかり考慮したいところだ。
京都市が新設を決めた「非居住住宅利活用促進税(空き家税)」について、不動産投資家の評価が真っ二つに分かれている。不動産投資のポータルサイトを運営するファーストロジックが不動産投資家654人を対象に実施したアンケートによると、空き家税の新設について「支持する」が43.0%、「支持しない」が44.0%だった。京都市は新税導入により空き家の市場流通を促す狙いだが、投資家の半数は否定的な見方をしている実態が浮き彫りとなった。
空き家税とは、空き地や別荘など普段人が住んでいない住宅に課税する京都市の新制度だ。市街化区域内にある固定資産税評価額が20万円以上(条例施行後5年間は100万円以上)の物件を対象に、原則として家屋の固定資産税評価額の0.7%を課す。また、土地の評価額などに応じて税率の加算もある。京町屋など歴史的価値のある建物や入院・海外赴任など特殊な事情のある空き家は減免対象となり、課税対象となる物件は市全域で約1.5万件に上る見込み。京都市は今年3月24日に総務相の同意を得ており、2026年度にも導入する計画だ。
アンケートでは、支持する理由として「空き家が増えるとエリアの資産価値が下がる。空き家を減らすための新税には賛成だ」との意見が寄せられた一方で、不支持とする側からは「買い手のつかない土地を相続してしまうと、永続的に課税されてしまうリスクがある」と懸念する声が上がった。
消費税のインボイス制度が導入される10月が近づくにつれて、導入の是非を問う議論が再加熱している。免税事業者の苦境を訴える反対派に向けて、賛成派からよく言われるのが「免税事業者はもともと益税を手にしていたのだから、それをなくすのは当然のことだ」という言葉だ。だがそれなら消費税の「損税」についても是正が叫ばれてしかるべきだが、そうした声はほとんどない。
消費税の課税事業者は、仕入れ時には消費税を支払い、売上時には消費税を受け取る。年間を通して売上時に受け取った額のほうが多ければ差額分を納税し、逆に仕入れ時に支払った額のほうが多ければ還付を受けることが可能だ。しかし商取引のなかには政策上の観点などから消費税のかからない取引として定められているものがあり、この非課税取引の割合が多いと消費税の還付を受けることができない。つまり仕入時には消費税を支払っているにもかかわらず売上時に受け取ることはできず、一方的に損をこうむる。これが「損税」問題だ。
損税の代表的なものには、医療業界の診療報酬が挙げられる。病院にある医療機械や注射器のような消耗品の仕入費用にはすべて消費税が上乗せされている。一方で、診療時に支払われる診療報酬には消費税がかからない。小売業などであれば商品の値上げという形で負担を消費者に転嫁できるが、診療報酬は国が定める公定価格のため勝手に変えられない。2年に1度行われる改定では消費税分を見込んだ増額がされているものの、日本病院団体協議会の調査によれば、改定があっても消費税分を補てんできない病院は過半数を超えているという。
また賃貸アパート経営者も「損税」の被害者だ。住居用の家賃は人間が生きていくために最低限必要な費用ということで、政策上の理由から非課税取引となっている。消費税分を家賃に転嫁すればよい話ではあるものの、人口減少などによって空室率が高まるなか、家賃の値上げは簡単にはできないのが実情だ。リフォーム代や修繕費には当然ながら消費税がかかるため、税率が引き上げられれば維持コストがかさむことになる。「益税問題」がさかんに議論されている今こそ、賃貸オーナーらも「損税問題」について声を上げるべきかもしれない。
亡くなった人の財産のうち、誰にも相続されずに自治体が保管している遺留金が20億円を超えていることが分かった。自治体が相続人を探す調査にかかる費用などが膨らんでいるとして、総務省が厚生労働省と法務省に状況改善を勧告した。
身元不明の死者や、連絡がとれる親族がいない人が死亡して残した現金や預貯金は、「遺留金」と呼ばれる。「行旅病人および行旅死亡人取扱法」により、そうした遺留金は自治体が保管、清算することが定められており、最終的に行き先が見つからなければ国庫に納められるものの、それまでに行われる相続人を探す調査などは自治体が行うこととなる。単身世帯が増えて家族のつながりが希薄になるなか、独りで亡くなる人の数は今後も増加が見込まれ、厚生労働省と法務省は2021年、遺留金の処理方法を示した自治体向け手引を作成したばかりだ。
総務省は今回、21年12月~22年3月にかけて全自治体を対象に調査を実施。身寄りのない人の死亡は18年4月~21年10月までの3年半で約10万6000件あり、うち46%で現金や預貯金が「遺留金」となった。自治体の保管額は計約21億5000万円だった。
今回の調査では、死亡届が親族から提出されず相続人の調査に必要な戸籍謄本の交付を請求できないケースや、亡くなった人の葬祭費に充てるために自治体が本人の口座から預金を引き出そうとしても金融機関が応じないケースも確認された。身寄りのない人の葬祭は自治体が実施し、費用は遺留金で賄うのが原則だが、預貯金を引き出そうとした際に金融機関から「相続人以外は引き出せない」などと断られるケースが多数あったという。実際は関連法で引き出しが認められているため、制度の周知が進んでいないとみられる。
総務省は、遺留金の取り扱いについて指針を出している厚生労働省と法務省に対し、戸籍謄本の交付の請求や預金の引き出しについては必要な場合には自治体が対応できる法的根拠があることを指針で示し、関係機関に周知するなど改善を行うよう勧告した。
年度末には多くの会社が商品の棚卸しを行う。商売の規模によっては1日では終わらないこともあり、1年でもっとも忙しく残業が多い季節という会社もあるだろう。では、この大変な棚卸しは一体何のために行われているかをじっくり考えたことはあるだろうか。
まず棚卸しの最大の目的は、言うまでもなく在庫数の確認だ。中小機構のホームページでは棚卸しの目的について、「期末在庫の数量・評価などを現実に把握するための唯一の手段」と説明している。また在庫の受払システムを持っているような会社にとっては、棚卸資産が実際に存在しているかを確認する意味もある。実際の在庫数が把握できれば、帳簿上の在庫数量の誤りが発見でき、それを修正して正確な利益の計算を行うことが可能となる。
そして棚卸しを行うことには、余分な税金を支払わなくてよいようにするという目的もある。棚卸しを怠ると、正確な在庫数を把握できなくなってしまう。つまり「在庫を抱えすぎているから抑えよう」といった判断も正確に下せず、過剰在庫を抱えるリスクが上がる。そしてこの過剰在庫に、税金がかかるのだ。
例えば商品を10個仕入れて、そのうち8個が売れたとき、仕入原価として計上できるのは売れた8個分だけだ。つまり在庫分は経費にできない。8個しか売れず、売上より仕入れにかかった金額のほうが多かったとしても、2個分を経費にできないせいで、会計上は利益が上がっているとされてしまう。在庫が残っていれば残っているほど法人税の負担は大きくなるわけで、街でよく見かける「年度末大売り出し」や「在庫処分セール」は、こうした過剰在庫を解消するために行われているわけだ。
棚卸しを怠れば在庫数を把握できず、そうなれば今後の販売戦略も立てられず、税金も余分に取られることとなる。さらに利益の計算が正しくなければ税金の計算にも誤りが生まれ、税務調査で過少申告加算税などのペナルティーまで課されかねない。棚卸しは大変な作業だが、ミスなくしっかり行いたい。
岸田文雄首相は3月17日の記者会見で、少子化対策として「年収の壁」によって手取りが逆転しない仕組みを導入し、制度の見直しに取り組む考えを明らかにした。既婚女性の労働意欲を抑制している「壁」を取り除くことで若い世帯の所得を増やし、出産・子育てを後押ししたい考えだ。
年収の壁はもともと税の問題とされていた。年収103万円を超えると所得税負担が発生するため、そのラインで調整する人が多かった。2017年度の税制改正で年収上限を引き上げたため、現在は「103万円の壁」は解消されつつある。
現行制度で「壁」として残っているのが、年収が一定額を超えると厚生年金など社会保険料の負担が生じる「106万円の壁」や「130万円の壁」だ。勤め先の会社の従業員101人以上などの条件を満たすと、年収106万円から社会保険料の負担が生じる。会社員の配偶者がいる場合、年収130万円を超えれば扶養から外れて自ら社会保険料を支払うことになる。さらに150万円超になれば配偶者特別控除が縮小する。パートタイムなどで働く人の手取りが「壁」を越えると「逆転」する現象が起きてしまうことから労働時間の抑制につながり、特に女性の就労促進を阻害しているといった指摘がされてきた。
政府は負担軽減策として一時的に負担分を減免する措置も検討している。3月末までに少子化対策のたたき台を策定する見通しだ。
今年の確定申告期はコロナ禍で初めて期限延長を行わず、原則どおり3月15日で終了した。ただ、なかには様々な事情で申告ができず、税金を取り戻し損ねたという人もいるだろう。そういう人のために、税法では「還付申告」という制度を設けている。
還付請求をすべきなのは、「しまっておいた医療費の領収書が後から出てきた」「昨年末に組んだ住宅ローン申告が間に合わなかった」「保険や高額療養費の金額が確定しなかった」「退職したことで年末調整しないままだった」「地震や風水害で自宅や家財に被害があったのに忘れていた」「ふるさと納税についてワンストップ特例の申請も確定申告もやっていない」といった人だ。
還付申告についてまず気を付けたいのが申告期限の計算だ。還付に関する確定申告は、通常3月15日までの確定申告期間とは関係なく、その年の翌年1月1日から5年間とされている。気を付けたいのは、あくまで翌年の正月から5年間であり、「3月15日の確定申告期限」ではないという点だ。仮に2017年分の医療費控除があったとすると、原則としては確定申告の法定申告期限は18年3月15日であることから23年3月15日までと思いがちだが、これは昨年12月31日に締め切られているため、今年の還付請求はできないことになる。
それと、「翌年1月から5年間有効であれば、なにもわざわざ混み合う3月15日までに申告する必要はないのではないか」と思う人もいるだろうが、早合点は禁物だ。確定申告は6月から納付する住民税の計算に影響することから、時間の経過によって本来享受できるメリットを失うことにもなりかねないためだ。
住民税の計算のベースは、昨年末の年末調整や確定申告をした所得税の計算のベースの所得金額と同じだ。そのため、確定申告での所得額が低ければその分だけ住民税額は少なくて済むし、逆に多ければ住民税額は多くなってしまう。つまり年末調整で所得額が多くなったが医療費控除を行えば少額になるというときに、還付申告を遅らせれば住民税は高額のままということだ。さらに、自治体の公的サービスの多くは住民税の計算のベースである所得額を元に判断されるため、生活の様々な面にも影響を及ぼす可能性も否定できない。
任意の自治体に寄付をすると住んでいる土地に納める税金が差し引かれる「ふるさと納税」について、東京都はこのほど、同制度に反対する見解をまとめて都主税局のホームページに掲載した。それによれば、同制度による都の減収額は年間571億円に上り、特別養護老人ホーム60施設分の補助額に相当するという。
ふるさと納税制度は、故郷やお世話になった土地を応援できる制度として2008年にスタートした。ただ寄付を受ける地方の自治体にとっては収入増の手段となる一方で、寄付者が集まる都市部では税収減が深刻な問題ともなっており、制度に反対する自治体も少なくない。
東京都がこのほどまとめた見解では、制度の問題点として4つのポイントを指摘した。
1つ目は、同制度が多くの寄付金を集めるための返礼品競争となっていて、ふるさとや応援したい自治体に寄付をするという制度の本来の趣旨からかけ離れているという点だ。この問題につき、政府は自治体による自助努力の結果と受け止めており、問題視する姿勢を見せていない。
2つ目は、自治体が住民サービスを提供するために必要な経費を住民税で賄うという地方税の原則に反しているというものだ。都は住民サービスと住民税における「受益と負担という地方税の原則に照らしても適当ではありません」と批判した。
3つ目は、高所得者ほど制度の恩恵を受けられるという点だ。ふるさと納税では、収入金額によって税優遇を受けられる上限額が変わるため、自己負担が同額でも受け取れる返礼品は高所得者ほど豪華になる。都によれば収入500万円の人の実質的な節税額が6400円にとどまる一方、収入2000万円の人では15万8800円に上るとして、「公平性の観点から問題がある」と指摘した。
4つ目は、確定申告を不要とする「ワンストップ制度」によって、国税である所得税の減収が地方税に転嫁されているという点だ。ふるさと納税では原則として寄付分を所得税額から差し引き、引ききれなかった分を住民税から差し引くこととなっている。だが「ワンストップ特例」を使うと税額控除がすべて住民税に適用されるため、「本来、国税である所得税の減収となるべき額が、地域の住民サービスに使われるべき住民税の減収となってしまいます」として、制度のいびつさを批判した。
ふるさと納税による都の減収額は年々増加していて、22年には571億円の税収が失われたという。都はこの額が特別養護老人ホームの施設整備費補助額の約60施設分に相当するとして、制度の見直しを求めた。
日銀の新総裁に、経済学者の植田和男氏が就任することが確実となった。前総裁の黒田東彦氏がこれまで行ってきた「異次元の金融緩和」政策を転換するのか維持するのかが注目されている。新総裁の舵取り次第では、約10年にわたって続いてきた歴史的低金利の時代が終わる可能性もある。
金利の水準は、日本経済や個人の資産形成に様々な影響を及ぼし、もちろん税の世界も無関係ではない。例えば、会社が役員や従業員に金銭を貸し付けた時には、法令で定められた利息を取らなければ差額分が給与として課税されてしまう。法令で定める利息とは、会社が銀行などから借り入れてまた貸しした時には融資にかかる利率が適用され、そうでなければ「認定利息」と呼ばれる数字を使う。例えば2022年中に貸し付けたものであれば0.9%だ。
認定利息は国税庁が毎年発表するが、その下敷きとなっているのは銀行の貸出金利で、貸出金利は長期金利の値動きがベースとなる。長期金利の値動きが認定利息に与える影響は顕著で、黒田総裁時代の“異次元の金融緩和”が始まる13年までに貸し付けたものにかかる利率は4.3%だったのが、翌14年からは1.9%まで一気に下がったことを見れば、その差が分かるだろう。
他にも長期金利に影響される税の利率としては、延滞税や利子税に用いられる「特定基準割合」も存在する。こちらも金融緩和政策によって13年を境目に大きく変動し、それ以前は4%台で小幅に推移していたものが、14年以降は1%台後半まで下がっている。このように長期金利の変動は、税の世界にも大きく関わっているのだ。
会社からの借金や延滞税、利子税に付く利息であれば、思わず「低ければ低いほどありがたい」と考えそうになるが、特例基準割合は、何らかの理由で税務署などからお金が戻ってくる時の還付加算金の利息計算にも使われる。つまり利率が低ければ損だけでなく得も小さくなるというわけだ。
過度な節税が問題視されていた「節税保険」を巡り、金融庁は2月17日、オランダに本拠を置く外資系生命保険会社のエヌエヌ生命保険に対して保険業法に基づく業務改善命令を下したことを発表した。金融庁は節税保険の販売への監視を強めていて、昨年7月にマニュライフ生命保険が同様の処分を下している。さらに国内大手の明治安田生命にも立入検査を行う方針だ。
今回の業務改善命令では、処分理由について主に(1)経営管理態勢・業務運営態勢の不備、(2保険本来の趣旨を逸脱した商品開発および保険募集――を挙げた。(1)では、営業優先、コンプライアンス・内部監査軽視の企業文化・風土が醸成されていると指摘し、そうした文化・風土が節税保険のような不適切な商品開発・保険募集推進を招いたとした。また(2)では、金融庁から保険本来の趣旨を逸脱するような募集活動を防止するための各種指針が示されているにもかかわらず、同社が経営陣の関与の下、組織的に本件節税保険を開発・販売を決定したと指摘した。公表された説明ではエヌエヌ生命が会社として防止策が機能しているかの確認すら実施していないとして、自主的な改善が期待できないことから処分に踏み切ったとしている。
金融庁が問題視するのは、「名義変更プラン」と呼ばれる定期保険の一種だ。多額の死亡保険金を受け取れる契約を当初は法人名義で締結して高額な保険料を支払った後に、名義を経営者個人に変更し譲渡した上で解約し、支払った保険料の多くを返戻金として個人が受け取る仕組み。返戻金は「一時所得」として扱われ、通常の役員賞与などの所得と比べて税負担を抑えられる。
節税効果をアピールする保険商品をめぐっては、2018年ごろより生命保険各社の販売が過熱した。保険料を全額経費として計上でき、利益を圧縮して法人税の支払いを遅らせる効果がある経営者向けの保険について、国税庁は19年2月、税務の取り扱いを見直す方針を示した。これを受け、日本生命や第一生命など大手生保4社はいずれも該当商品の販売を停止。しかしその後、「名義変更プラン」商品が一部の生保から登場し、この手法も問題視した国税庁は、21年6月に実質的に認めない通達を出していた。
だがその後も一部の生保会社では節税効果を強調した販売が続いていたことから、昨年2月にマニュライフ生命、SOMPOひまわり生命保険、FWD生命保険、エヌエヌ生命保険の4社に対して立入検査を実施し、報告徴求命令を出すに至った。なかでもマニュライフ生命では経営陣をはじめとして組織的に販売を展開していたとみられ、悪質性が高いとして7月、節税保険を巡っては初めて、業務改善を命じる行政処分が下されていた。今回のエヌエヌ生命は2例目となる。
金融庁の“攻勢”はまだまだ終わりそうにない。2月20日には、国内生保大手の明治安田生命保険に立入検査を行う方針を固めたことが明らかとなっている。同社は営業職員による着服などの不祥事が昨年明らかになっており、今回の検査では、こうした職員への管理体制を中心に調べるという。ただし、併せて節税保険の販売についても確認するといい、調査の結果次第ではさらに厳しい追及に発展しそうだ。
相続が発生した時、遺産分割協議が終わるまでの相続財産は、原則として「相続人らが共有する」状態になる。これを民法では「準共有」という。分割協議がスムーズに終わればよいが、相続人のあいだで同意が得られないなどの理由で協議が終わらないと、いつまで経っても相続財産は全員が準共有している状態となってしまう。
この準共有が大きなトラブルの種になるのが、事業承継に当たっての自社株の引き継ぎだ。例えば死亡した先代社長が900株を持っていた。相続人が3人の子だけだとすると、遺言がなければ900株は3人の準共有状態となる。準共有なので、遺産分割協議が終わるまでのあいだ、900株は「法定相続分に沿ってそれぞれが300株ずつ持ち合う」のではなく、1株1株が「3人の共有」状態となる。そして準共有となった株式の議決権は、「その権利行使の決定方法を、過半数をもってこれを決する」と規定されている。つまり後継者以外の複数の相続人が協力すれば、遺産分割が整うまでのあいだ「全株式の過半数」を得て、全議決権を持つこともあり得るのだ。
実際に過去には、遺言を残さずに先代社長が死亡してしまったため、後継者ではない次男と三男が結託して全株式の議決権をネタに長男を脅すという事例が起きたこともある。長男は議決権を得る引き換えとして、二人に法定相続分を大幅に超える相続財産を譲らざるを得なかったという。
こうした事態を未然に防ぐためには、何はなくとも先代がしっかりしているうちに遺言を残しておくべきなのは言うまでもない。最低でも遺留分を考慮に入れた遺産分割を遺言で指示しておけば、トラブルは大きくならなかったはずだ。さらに言えば、そもそも生前のうちに後継者に自社株式を譲っておけば、自社株の散逸リスクは防止できただろう。
ただ他をかえりみない後継者への資産集中は、やはり争族トラブルの原因となりかねない。後継者以外の相続人にも配慮した遺言を残すことが、最終的には円満な事業承継につながるということを忘れずにいたい。
17兆円超に上った新型コロナウイルスの感染拡大に伴って支給された医療機関向けの政府支援について、病床を確保したものの実際には患者を受け入れず「幽霊病床」化し、補助金を不正受給していた疑いのある事案が多数出てきている。会計検査院の指摘を受け、厚生労働省は実態調査に乗り出した。
会計検査院は2023年1月、コロナ患者用にベッドを空床にしたり、大人数部屋を少人数部屋にするために休床を設けたりした医療機関に支給する「病床確保料」について、抽出調査の結果、補助金を受給しながら患者の病床利用率が半数を下回った医療機関が43%を占めたと発表した。
病床確保料は1床当たり1日最大43万6000円を支給され、約3兆円の国費が投入された。この支給額は都道府県の病床確保を後押しした側面がある一方で、平時における1床当たりの売り上げの12倍にも及ぶ。問題視された医療機関の平均収支額は補助金の効果もあり、感染拡大前の19年度は約4億円の赤字だったが、拡大後の21年度は約7億円の黒字に改善していた。
厚労省は22年1月に病床使用率が都道府県平均の7割未満の病院は補助金を減額する新基準を導入したが、今回の調査結果を受けて、補助金を受け取りながら患者受け入れを拒否した「幽霊病床」の実態調査を始めている。ある経済官庁幹部は「社会保障の大半が国民負担で賄われている現状について、医療機関の認識が薄すぎる。公的支援の見直しが必要だ」と批判する。
一方で、新型コロナは5月8日から現在の2類から5類に移行されるため、現行の規定のままだと全額公費負担の医療費や入院費の法的根拠がなくなる。患者らの再感染に備えた体制維持や医師らの精神的負担への配慮の観点から、日本医師会の松本吉郎会長は1月に岸田文雄首相との面会後、記者団に「制度が変わっても、(病床確保料を含め)段階的な対応を経て慎重にソフトランディングをお願いしたい」と語っている。
また、公費負担のあり方を巡っては特に貧困家庭などを中心に物価高などの影響で家計に重い負担がかかっている経済的状況下では、ワクチン費用の公的負担が減少して自己負担を強いられると接種自体が困難になるとの声もある。こうした事情から、「医療機関向けの支援からまずは縮小を図るべき」(厚労省幹部)との見方が強まっている。
誰かが亡くなったとき、相続人の誰かが生前に受けていた贈与は「特別受益」と呼ばれて、遺産に持ち戻して分割協議が行われる。例えば3人兄弟のうち長男だけが莫大な遺産の前渡しを受けていたら、残った遺産を法定相続分に従って3等分すると他の2人が大きく損をするというのが、特別受益の持ち戻し制度の主旨だ。
この特別受益がある長男は、相続の発生に伴い「特別受益証明書」を書くことができる。これは別名で相続分不存在証明書とも呼ばれ、「私は生前贈与で相応の財産をすでに受け取っているので、遺産は受け取りませんよ」という意思表示を行う書類だ。これを書いた相続人は遺産分割から外れ、遺産分割協議書への署名捺印も必要なくなる。
だが、面倒な遺産分割協議から外れるという目的だけのために特別受益証明書を書くことはやめたほうがいい。この証明書には様々な落とし穴があるからだ。
第一に、遺産分割協議へ参加できず、協議書にもサインしないということは、遺産の全容を知らされないままの可能性がある。他の相続人らが結託して「あなたはこれだけの生前贈与を受けたのだからもう十分でしょう」と言って証明書を書かせてくるケースでは、あなたの知らない遺産がまだ眠っていて、それをあなたに知らせないまま山分けしているかもしれない。
第二に、未成年の相続人を遺産分割から排除する狙いに利用される恐れがある。未成年が相続人となったとき、通常であれば親権者が代理人として遺産分割協議書に署名捺印をするが、親も相続人だと代理人になれないため、家庭裁判所に遺産分割協議書を提出して特別代理人の選定を受けなければならない。その際、未成年者に不利な協議書は認められないのだが、特別受益証明書を出していれば、特別代理人を選任することなく、未成年者に相続分を放棄させることができてしまう。
そして第三に、特別受益証明書は自らに相続分がないことの証明をしたに過ぎず、プラスの財産もマイナスの財産もすべて受け取らない「相続放棄」とは根本的に異なるものだ。つまり亡くなった人に後から借金が見つかれば、特別受益証明書によって遺産を1円も受け取っていなくても他の相続人と同様に法定相続分に従って借金を分割継承しなくてはいけない。協議によって相続人間で債務の負担割合を決めることは可能だが、これはあくまでも相続人の間での合意に過ぎないため、債権者には通らない。
特別受益証明書を書こうが書かまいが、実際に特別受益があるのなら遺産に持ち戻して分割を行うことに変わりはない。これまで挙げたような多くのリスクがあることを踏まえれば、証明書を書くのは、持ち戻しによって相続分がないことが明らかなときだけにしておくのが無難かもしれない。
ふるさと納税の返礼品基準に違反したとして、総務省が138自治体に警告書を送ったことが分かった。このうち27市町村は、現行ルールが導入された2019年以降、一度も基準を守っていなかったという。ただ地方ほど遠方への返礼品の発送コストがかさむという事情もあるなど、制度自体の歪みが浮き彫りになったともいえそうだ。
ふるさと納税制度は08年にスタートした制度だが、人気が高まるにつれて豪華な返礼品を使った寄付金競争が激化したことを受け、19年に新たなルールが定められた経緯がある。現状では、返礼品は地場産品に限り、返礼品の調達費は寄付金額の3割以下、発送コストなどを含めた総経費が寄付金額の5割以下という条件を満たさなければならない。今回問題視されたのは3つ目のルールで、経費の総額が寄付金額の5割を超えた自治体が、21年度で全自治体の約8%に当たる138市町村あった。
27市町村では新ルールの導入以降、3年連続で5割を超えていたという。総務省は状況が改善されなければ制度からの除外もあり得るとして、基準を超えた自治体に警告書を送った。同省がこうした警告書を自治体に送るのは初めてのこと。
ただ自治体側にも事情があり、超過した自治体の多くでは民間ポータルサイトへの掲載料や返礼品の発送コストなどが膨らんでいるケースが多い。地方になるほど返礼品の発送コストは高くなるが、発送コストを削らずに総経費を削減しようとすれば、返礼品の価額を抑えるしかない。だが返礼品の価額が下がれば他の自治体に見劣りしてしまい、寄付自体が集まらなくなる。寄付を集めるためには、コスト超過の状態に目をつぶらざるを得ないという。また大手ポータルサイトに掲載されなければ返礼品の存在自体を知ってもらえないため、掲載手数料の値上げなどにも応じるしかないという事情がある。
ふるさと納税制度を巡っては、新ルールのもとで返礼品の調達費の3割ルールに違反したとして、高知県奈半利町、宮崎県都農町、兵庫県洲本市の3自治体が制度から除外されている。一方で、総経費の5割ルールに違反して除外された自治体はない。
たとえ遺言に「次男にはビタ一文やらない」と書かれていたとしても、子には民法で定められた最低限の遺産を受け取る権利がある。これを遺留分という。遺留分を請求できるのは配偶者、親、子までで、きょうだいは含まれない。親がいない場合は祖父母、子がすでに死んでいれば孫も遺留分を主張することができる。
遺留分を計算する上で算定基礎となる金額には、相続が発生した時に残っていた遺産はもちろん、一部の生前贈与も加算される。具体的には、法定相続人への相続発生から10年以内の贈与と、相続人以外への1年以内の贈与は、遺産に足し戻して遺留分を計算する。
「ビタ一文やらん」と言われた次男坊が実際に遺留分を請求するとなった時、一番多くの財産を生前贈与によって受け取った長兄、遺言によって少額の遺産を受け取った三男、介護を請け負う代わりに死亡時に現金を受け取る約束をした長女、この3人の誰から遺留分を取り戻せばいいのか。遺留分の額を3等分してそれぞれから同じ額を受け取ると思いがちだが、実は遺留分を請求できる財産には決まった順番がある。
子ども3人の財産の受け取り方はそれぞれ法律上の区分が異なる。三男のように遺言で財産を受け取るのは「遺贈」、長兄のように生前に受け取るのは「生前贈与」、長女のように生前の贈与契約に基づいて死亡時に受け取る方法は「死因贈与」となる。遺贈と死因贈与は似ているが、前者はあくまで贈る側の一方的な意思であり受け取る側が断れるのに比べ、後者では両者合意の契約による贈与のため受け取る側が一方的に放棄できない点などが異なる。
そして遺留分請求の順位は、遺贈、死因贈与、生前贈与の順番となる。つまり財産を受け取れなかった次男は、まず遺贈で財産を受け継いだ弟に遺留分を請求しなければならない。その結果、次男の遺留分の全額を充当できれば長兄と長女には何の累も及ばない。しかし次男の請求によって三男の取得分が遺留分にまで食い込んでしまうと、足りない分の請求先は次の順位である死因贈与で財産を受け取った長女に移るというわけだ。三男と長女の二人でも次男の遺留分を充当できないとなって初めて、生前贈与で受け取った長兄に遺留分請求がやってくるという流れになる。
もちろん家族の間で遺留分の争いなどが起きないような相続対策を講じておくことが一番ではあるものの、万が一のために、遺留分請求の順位について頭に入れておくといいだろう。なお複数の生前贈与がある時には、相続発生から近いものから順番に遺留分請求の対象となる点も押さえておきたい。
東京国税不服審判所が個人情報をふくむ文書の開示請求に応じた際、本来は隠すべき個人情報が閲覧できる状態で開示するミスがあったことが分かった。同様のミスは2021年7月から今年1月にかけて、246件にのぼるという。
ミスがあったのは、審判所に対して審査請求を行った納税者の個人情報についての部分。裁決結果を参考にしたい第三者が文書開示を求めた場合、通常であれば審査を請求した人の個人名などはマスキング(黒塗り)された状態で提供されることとなっている。だが今回開示された裁決書では、パソコン操作で手を加えると、マスキングした部分が外れてしまう状態だった。
審判所によれば、開示され得る状態になっていたのは、審査請求人の氏名や住所、所得金額、追徴税額など。246件のうち33件は開示請求者によってインターネット上に掲載されていたが、墨塗り部分の情報漏えいなどは確認されていないという。
ミスの原因は、電子化された裁決書をいったん印刷し、印刷後の文書を電子データに戻して開示する必要があったところを、担当職員が印刷作業そのものをしていなかったことだとしている。審判所は開示請求した16人に個別に謝罪したうえで、データを回収して削除。また246件の裁決書に関係する審査請求者297人に対しても経緯を説明し、個別に謝罪するとしている。
会社をハッピーリタイアして生活にゆとりが出たこともあり、大学の奨学金の返済を続けている息子に代わり、自分が一括返済してやろうと考えた。他の学業に関する費用と同様に、扶養義務者である自分が子の奨学金を肩代わりしても贈与税がかからないと考えてしまいそうだが、それは誤りだ。
親子や夫婦などの扶養義務者から生活費や教育費に充てるために取得した財産は、原則として、通常必要と認められるものであれば贈与税がかからない。しかし奨学金は、教育のためのお金ではあるものの、子ども名義で借りるため、親が一括返済する場合は「教育費の支払い」ではなく「子の債務の肩代わり」とみなされ、贈与税が課されるのだ。
これを回避する方法は2つある。1つ目は、本当に子に資力がなくて奨学金の返済ができないケースだ。国税庁の定めたルールでは、「債務者が資力を喪失して債務を弁済することが困難である場合」に限り、扶養義務者が返済を肩代わりしても贈与税を課さないとしている。ただし「返済が困難」というのは毎月の生活費が苦しい程度ではなく、本当に返済が不可能なケースに限られるので、税務署に認めてもらうのはハードルが高いといえる。
そしてもう1つの方法が、肩代わりする額を、他の贈与を含めても年間110万円までに抑えるやり方だ。贈与税のルールでは年間110万円までは非課税となるため、この範囲内に肩代わり額を抑えることで税金を免れることができる。
和歌山県で寺院を運営する二つの宗教法人が、檀家から受け取るお布施を私的に流用し、大阪国税局が計約1億5000万円を「隠し給与」と判断して所得税の徴収漏れを指摘したことが判明した。宗教法人は、お布施など宗教活動にあたる収入には課税されないが、法人が住職や職員に支払う給与や報酬に対しては所得税がかかり、法人は源泉徴収義務がある。
関係者などによると、住職らは非課税のお布施を生活費や貯蓄に回し、私的流用が常態化していた。法人担当者は「お布施は給与としては払っていない」などと説明していたという。
税制上の優遇措置を受けている宗教法人の所得隠しは後を絶たない。過去には2009年に長野などでラブホテルを経営していた宗教法人が、宿泊料などの一部を非課税の「お布施」として売り上げから除外する所得隠しを国税庁に指摘された。2013年には「ハンドパワーで病気を治せる」と称して有料セミナーを開いた会社の経営者らが、受講料を宗教法人の口座に振り込ませ、寄付と装って所得を隠したとして法人税法違反容疑で逮捕されている。
1995年の宗教法人法改正で、年間の収入が8000万円を超える法人には収支計算書を作成し、都道府県や文化庁に提出するよう義務づけられている。しかし、自治体側のチェック体制は不十分なことが多く、各地の国税局が税務調査を実施するなどして納付漏れを監視しているが、追徴課税される宗教法人は少なくない。大阪国税局では過去3年間の調査件数が756件に上り、約7割の559法人が「隠し給与」などを指摘された。
役員や社員にかかわらず同じ内容の健康診断を受けさせていた会社が、高齢化した経営陣が大病を患うと事業が立ちゆかなくなるリスクを踏まえ、通常の診断より詳しく調べてもらえる人間ドックを受けることにした。その費用は通常の診断より高額になるが、これを今までどおり全額損金としてよいのか。
社員に受けさせる健康診断の費用は、原則として福利厚生費として全額を損金にできる。ただし、それはあくまで全員が同じ条件のもとで診断を受けられることが条件だ。一般の社員が受ける健康診断より高額な人間ドックを役員だけ受診するようなケースでは、その人間ドックの費用は役員への報酬とみなされ、福利厚生費には当たらない。このような特定の人だけを対象にした扱いは、その人に特別な経済的利益が発生するので、税務上は報酬を受けた時と同じ扱いになる。
特別扱いをしていたとしても、相手が一般の社員であれば、本人には給与課税がされる一方、会社はその支出を損金にできるという点では変わらないかもしれない。だが相手が役員である場合、その支出は損金算入に厳しい条件が設けられている役員報酬となり、損金にもできなくなる。本人には所得税、会社には法人税が課されるという、いいところなしの結果だ。
こうした事態を避けるためには、「一定年齢以上の希望者は全て検診を受けることができる」というように、ルールに普遍性を持たせることが重要だ。このルールであれば、対象者を選んでいるわけではなく平等と言えるので、費用を福利厚生費として損金にできる。結果として条件を満たせる人が役員ばかりになったとしても問題ない。
少子高齢化や婚姻数の減少などを背景に、相続人がいないなどの理由で国庫に入る相続財産が増え続けている。2021年度に相続人不存在で国庫に入れられた相続財産は647億円で過去最高を記録した。
最高裁によれば、相続人不存在による相続財産の収入は、21年度は前年度比7.8%増の647億459万円だったという。朝日新聞が報じた。20年前は約107億円、10年前は約332億円だったため、20年間で6倍に増えた計算だ。
身寄りがない人が死亡し、財産の受け取り手が誰もいないケースでは、利害関係者か検察官の申し立てを受けて、家庭裁判所が相続財産管理人を選任することになる。選ばれた管理人は被相続人の債権者に相続財産から弁済し、公共料金などを支払い、残りは国庫に納まる。これらの「身寄りのない遺産」は少子高齢化の進行によって、一貫して増加傾向にある。
ただ相続人がいない状況で必ず国に財産が移るかというと、そうではない。相続人がいない被相続人の財産は、被相続人と生計を一緒にしていた人や介護・看病をしていた人などの「特別縁故者」に該当する人であれば受け取れるためだ。代表的な特別縁故者は、内縁の妻や夫で、裁判所に特別縁故者と認められれば財産を受け取ることが可能だ。
近年では、被相続人が生前に長く過ごした養護施設などが受け取る例も出ている。16年に名古屋高裁が下した判決では、知的障害がある男性が35年間生活を送った障害者支援施設を特別縁故者と認定し、約2200万円の遺産受け取りを認めた。
内閣府によると、ここ数年の婚姻数は毎年60万組ほどで推移している。第1次ベビーブーム世代が結婚適齢期を迎えた1970~74年の年間100万組と比べると、未婚率は大幅に上がっているのが現状だ。配偶者や子がいなければ財産が国のものになる可能性が高いので、もし国に財産が渡るのが嫌なら、遺言の作成や養子縁組などで財産の引き受け手を事前に決めておくのが賢明だろう。
税務調査を受けて、当局の指摘に基づいて修正申告をしたところ、重加算税の賦課決定通知を受けた。だが対象となった税務処理は単なるミスであり、修正申告には応じたものの重加算税を課されるのは納得がいかない。こうしたとき、当局に不服申し立てをすることはできるか。
原則として、いったん修正申告に応じると、同じ案件について当局に不服申立をすることは認められない。修正申告をしたということは、その処分を受け入れたということだからだ。
しかし修正申告に伴って課された過少申告加算税や重加算税については、不服申し立てを行うことができる。当初申告ではなく修正申告という「別件」についての申し立てとして扱われるためだ。また修正申告の内容自体に誤りがあったときは、不服申し立てではなく「更正の請求」によって訂正を求められる。
税務調査で何らかの否認事項を受け入れるとき、納税者は、(1)修正申告を提出する、(2)更正処分を受けるという2つの選択肢から1つを選ぶことになる。どちらにせよ過少申告加算税などは課されるため、ペナルティーの税額に差はない。だが多くの場合、納税者は(1)を選ぶ。これは処分に伴う事務処理が煩雑であるという調査官側の事情により、そちらに誘導されることが多いからだという。
だが前述したように、修正申告を一度してしまうと、後から納得がいかなくても同じ案件について不服申し立てができなくなる。少しでも納得できない項目があれば、安易に修正申告をすべきではないだろう。納税者側にとって修正申告と更正処分の違いは、「後から不服が言えるか」の一点であると覚えておきたい。
政府はマイナンバーの利用拡大に向けて、給付金支給などに活用しやすくなるよう法改正する方向で調整に入った。マイナンバーの利用範囲も拡大し、国家資格の登録や引っ越し時の自動車変更登録などにも利用できるようにする。税・社会保障・災害対策の3分野に限定して利用するとして導入されたマイナンバー制度が、大きな転換点を迎えようとしている。
2020年に新型コロナウイルス流行に伴う経済対策として実施された1人10万円の「特別定額給付金」では、給付事務の遅さが批判を呼んだ。その際にマイナンバーを活用していれば迅速な給付が実現できたはずとの声が高まったことから、21年に政府がまとめた「デジタル社会の実現に向けた重点計画」では、マイナンバー制度を社会基盤に据えるべく取り組みを進めるとして、税・社会保障・災害対策の3分野に限定していた利用範囲を改めて「国民の理解が得られたものについて、23年に法改正を含む必要な法案提出」と盛り込んだ。
そこで現在検討されている改正法案では、税と社会保障、災害対策の3分野に限定してきたマイナンバーの利用条件を撤廃する。引っ越しの際に必要な自動車変更登録の手続きをオンラインで完結できるようにし、教員や行政書士といった各種資格の登録や変更手続きに際しての添付書類の提出を省略できるようにする。国家資格や在留資格の手続きでも行政機関などからの書類取得を省力化する。
また給付金支給などに迅速に活用できるよう手続きを簡素にする内容も盛り込んだ。これまではマイナンバーに紐付けられた情報を利用する制度を設けるたびに法改正をする必要があったが、法改正を待てば支援に時間がかかるとして、法改正ではなく政省令で対処できるよう改めるという。
年金や児童手当を振り込む公金受取口座について、マイナンバーを利用して普及促進する特例制度も創設する。行政機関がすでに口座情報を保有しているときに、公金受取口座として登録するかどうか本人に確認し、一定期間に不同意の回答がなければ同意と見なす。ただし不同意がないことをもって同意と見なす仕組みについては慎重な意見も多く、今後の調整は難航しそうだ。
そのほか、海外に住む日本人がマイナンバーカードを日本の在外公館で交付・更新できるようにしたり、ローマ字の氏名や西暦での生年月日をカードに追記して身分証として海外で利用しやすくしたりする見直しも盛り込んだ。政府は1月23日に召集される通常国会に出す改正案に盛り込み、成立を目指す方針だ。
マイナンバーカードの申請件数は1月4日時点で約8300万枚に達し、運転免許証の保有件数を超えた。ただし申請件数の増加はポイント還元などのキャンペーンによるところが大きく、利便性の向上が理由ではないとの声も多い。政府は法改正でマイナンバー制度の社会基盤化を加速させていく狙いだが、重大な個人情報を扱うため利用範囲を厳しく制限してきた従来のルールを撤廃することで、情報漏えいリスクが拡大する懸念は否定できない。
高齢社会化の進行に伴い、認知症患者の増加が社会問題となりつつある。老々介護も珍しくなく、親が亡くなったときには子もすでに高齢で、なかには認知症を患っているということも少なくない。こうしたとき、遺産分割にはどのような問題が生じるのか。
相続人の中に認知症で判断能力が全くない人がいて、遺言書で財産の分け方が指定されていない場合、遺産の分け方は2通りある。法定相続分通りに分けるか、あるいは成年後見人を立てて遺産分割協議をするかだ。相続人が認知症だからといって、その子(亡くなった人の孫)など推定相続人だけで遺産分割協議を進めることは認められていない。
成年後見人を付けるのが面倒だからと法定相続分通りに分けると、小規模宅地の特例などの税負担軽減措置のメリットを最大限活用した遺産分割ができない恐れが生じる。また不動産は相続人全員の名義で共有となるため、判断能力がない相続人が一人でもいるとスムーズに処分もできないなど不都合もある。
一方、成年後見人を付けたからといって、自由に遺産分割ができるわけではない。後見人を交えて遺産分割協議をするケースでは、後見制度が被後見人の保護を目的とするものだ。そのため、原則として被後見人の法定相続分を確保する分け方でなくてはならず、完全に自由な遺産分割はできない。また後見制度は一度スタートすると原則的に途中で止めることができないので、弁護士など親族以外の専門家を後見人に付けると、遺産分割協議が終わった後も被後見人が死亡するまで報酬を支払い続ける必要が生じてしまう。
このように認知症を患っている人が相続人にいると自由な遺産分割はできなくなる。財産を残す立場の人は、遺言書を作成するなど生前対策を講じるようにしたい。
写真付きの本人確認証となるマイナンバーカードの申請件数が、運転免許証の保有件数を超えたことが分かった。制度開始以来、カードの取得率は伸び悩んでいたが、最大2万円分のポイントを還元するキャンペーンが功を奏した。ただ「普及より利便性の向上が重要」との指摘も多く、マイナンバー制度が社会基盤として定着できるかは今後の施策次第といえそうだ。
松本剛明総務大臣は1月6日の記者会見で、マイナンバーカードの申請件数が4日時点で運転免許証の保有件数を超えるおよそ8300万件に達したと明らかにした。これまで当面の目標としていた運転免許証の保有者数およそ8190万人超えを達成した。2022年度内にほぼすべての国民にマイナンバーカードを普及させるという政府目標の達成に向け、残り約3カ月も普及促進への取り組みを進めていくという。
政府はすでに、昨年末が期限となっていた最大2万円分のポイントを還元する「マイナポイント第2弾」を、2月末まで延長することを決めている。松本氏は「これが最後の延長になる。ぜひこの機会に一層多くの方にカード申請をしていただけるように自治体と連携する」と述べたうえで、「申請にかかる(受け取り場所まで)距離がある方には、申請サポート事業でハードルを下げる、カードを持つかどうか決めていない方にはカードを持とうと思ってもらえるように広報活動に注力したい」と語った。
ただ、財務省が昨年7月に公表した予算執行調査では、過半数を超える自治体からカードの利便性向上を求める声が寄せられている。「マイナンバーカード利活用の幅が少なく、マイナンバーカードに興味を持っていない市民に対し取得するメリットを伝えられない」、「取得ばかりに専念してもカードの普及には限界が来るので、利便性向上に向けたシステムづくり、そして広報を進めていき、取得から利用へとつなげることが重要である」、「カード取得後のメリットや社会の未来像などを継続して周知・広報していくことが課題」などの声が多くの自治体から上がった。これを踏まえ調査では、「自治体の申請・交付体制の強化を図るのみならず、政府全体としてカードの利便性向上等をできる限り早急に図るべきではないか」と厳しい評価が下されている。
年間にかかった医療費のうち10万円を超えた部分を所得から差し引ける「医療費控除」は、適用するためにはいくつかの条件がある。例えば一概に医療費といっても、その費用はあくまで病気やけがの治療に必要な支出でなければならず、インフルエンザのワクチン接種など予防にかかった費用は対象とならない。同じことは人間ドックや健康診断にも言え、疾病の治療に伴う出費ではないため、原則として医療費控除の対象にはならない。
しかし人間ドックなどの費用に医療費控除を使えるケースもあり、それは検査を受けた結果、治療を必要とする疾病が発見された時だ。病気が見つかった時は、その検査は治療に先立って行われる診療と同様のものとみなされ、全額を医療費控除の対象にできる。人間ドックは全身を徹底的に調べるコースだと100万円を超えることもあり、それが所得から差し引けるとなればうれしい話だが、引き換えに重大な病気が見つかってしまったのだから素直に喜べようはずもない。ここはせめて、病気が見つからなければ健康を喜び、病気が見つかってしまったら医療費控除が使えることを心の慰めとするのが前向きな考え方かもしれない。
なお会社が人間ドックの費用を負担した時には、一部の役員や従業員を対象とする検診かどうかで、税務上の扱いが変わる。全従業員(一定の年齢以上のすべての者の場合も可)を対象とするものであれば福利厚生の一環として損金に算入できるが、一部の役員のみを対象とするような検診であれば役員報酬扱いとなり、役員本人には所得税が課され、会社の損金にもできないので気を付けたい。
全国で増加傾向にある空き家問題に対処するため、国土交通省は空き家がある土地の固定資産税の優遇措置を見直す。12月下旬にあった有識者会議で明らかにした。
土地への固定資産税は、住宅が建っていれば住宅用地の特例として減税措置を受けられる。住宅の規模や種類によって軽減率は異なる。一方、放置すると倒壊の恐れがあるなどと自治体が判断した場合には「特定空き家」に指定され、減税対象からは外れる。国交省の検討案では、この特定空き家に指定される前の段階でも、管理が不十分となっている空き家を減税対象から外せるようにする。
空き家を放置すれば倒壊の危険や犯罪の温床となるといった懸念から、自治体は個別に条例を制定するほか、空き家の活用を促進させるために借り手に空き家を紹介する「空き家バンク」などをつくり対策を取ってきた。2015年には「空き家対策特別措置法」が施行され、倒壊などの恐れがあること以外に、「衛生上有害となる恐れがある」「景観を損なう」「周辺の生活環境保全を図るために放置することが不適切」のいずれかに該当する場合、特定空き家に指定することができるようになり、自治体が所有者に対して撤去や修繕を命令できるように市町村の権限を強化した。だが、国交省によると特定空き家に指定されていないが管理不十分とされる空き家は約24万戸に上るという。こうした空き家も税優遇の対象から外せるように新たな基準を設置する方向で検討する。1月中に取りまとめ、通常国会への関連法の改正案提出を目指す。
年が明けるたびに税の世界に訪れる変化の一つが「路線価」だ。土地の相続財産としての価値は、国税庁が毎年7月に発表する「相続税路線価」によって算定される。路線価は毎年1月1日時点での一定の範囲内の道路(路線)に面した土地を評価するものなので、つまり土地の相続税評価額は、死亡した年の元日の値段によって決められる。例えば今年の1月1日から12月31日までに発生した相続については、7月に発表される「2023年の元日の値段」が適用されることになる。
ここで疑問に思うのが、例えば今の時期のように、今年の路線価が発表される前に相続が発生すると、評価額をどのように算出して相続税を納めればいいのだろうか。
この場合、例えば一つのやり方として、国土交通省が毎年3月ごろに発表する「公示地価」から路線価を〝推測〟するということが考えられる。公示地価は土地取引の基準などになる土地の値段で、路線価より約4カ月早く地価変動の動向を把握することが可能だ。相続が発生した時点ですでに公示地価が発表されているなら、公示地価の前年からの変動率を前年分の路線価に掛け合わせることで、おおよその相続税路線価を割り出せば、とりあえずの遺産分割協議をまとめることはできるだろう。
しかしこの概算評価はあくまで暫定的なもので、今年発生した相続には今年分の路線価を適用するというルールに変わりはない。7月になって正確な路線価が発表されれば、それに合わせて遺産分割協議を修正し、申告も今年の路線価を使って行わければならない。相続発生から申告期限までは9カ月あるため、遺産分割協議などは概算で進めておいて、申告は7月の路線価発表を待つのが賢明だろう。
ちなみに年をまたいでの路線価の切り替わりを巡っては、大晦日に亡くなったのか新年に亡くなったかで、相続税に大きな差が出るケースも考えられる。過去には、元日の朝にお風呂になくなっているところを発見された女性の相続について、「故人は紅白歌合戦を見た後に除夜の鐘を聞いてから入浴する習慣があった」と主張して国税と争った遺族もいた。
政府の「全世代型社会保障構築会議」はこのほど、子育て・若者世代への支援の「急速かつ強力」な整備を求める報告書を岸田文雄首相に提出した。急激に進む少子化を「国の存続に関わる問題」として危機感を強調したものの、岸田政権が防衛費の増額を優先したため子ども関連予算など少子化対策の財源問題には踏み込まず、本格的な議論は先送りされた。12月16日に自民、公明両党が決定した2023年度与党税制改正大綱の「検討事項」には、政府が出産家庭に計10万円相当を支給する「出産・子育て応援交付金」の安定財源について「早急に検討を行い、結論を得る」との一文が盛り込まれたが、具体的な制度設計は描けていない。
「出産・子育て応援交付金」について、首相は交付金を恒久化すると明言しており、実現には毎年度1000億円規模の財源が必要となるが、24年度以降は財源の当てがない。そこで、公明党を中心に「防衛増税」に合わせて、交付金の予算も増税で賄う案が急浮上。自民党厚労族議員らも12月13日、防衛増税との同時決着を求める提言を発表。14日には両党がそれぞれ首相に対し、交付金の安定財源確保などを直接申し入れたが、首相は「(交付金制度を)続けていくように考えたい」と言質を取らせなかった。23年度税制改正では、防衛費増額のための増税を巡って与党内で激論が生じており、自民党の税制調査会幹部は子育て交付金の財源は「議題にすらなっていない」と一蹴。首相は来年6月ごろにまとめる「骨太の方針」で子ども関連予算倍増に向けた当面の道筋を示すとしており、次の焦点は「倍増」の具体化に移る。ただ防衛費財源確保のための増税も見込まれる中、財源確保のハードルは高い。
2023年度税制改正大綱で、生前贈与した財産を相続税の対象に引き戻す「持ち戻し」の見直しが盛り込まれた。この持ち戻しは正式名称を「生前贈与加算」といい、相続税法で定められた税金のルールだ。
相続に関しては、実は民法にも持ち戻しのルールがある。「特別受益」といい、特定の相続人に対する生前贈与は公平でないため、贈与された分を遺産分割の対象に持ち戻すというものだ。例えば亡くなった父親の相続財産が2千万円あり、相続人が一郎と二郎の子2人だとすると、法定相続分に沿って分割すれば2人がそれぞれ1千万円を相続するのが公平にみえる。だが実は生前に一郎にだけ現金2千万円を贈与していたとすれば、トータルで引き継ぐ額は一郎3千万円、二郎1千万円となり、二郎からすれば不満が出て当然だ。
このようなケースで二郎が特別受益の存在を主張して認められると、一郎が受けた生前贈与2千万円は相続財産に繰り入れられる。トータル4千万円を公平に分ければ2千万円ずつで、一郎はすでに2千万円の生前贈与を受けているので、残りの2千万円はすべて二郎のものとなるわけだ。
民法と税法の両方に持ち戻しルールがあるが、何が違うかといえば「時効」の存在だ。税法の持ち戻しは現行で相続前3年、23年度税制改正で延長されても相続前7年の生前贈与に限られる。ところが一方の民法には時効がない。何十年前の贈与であろうとも、特別受益を主張した側がその存在を証明できれば、全額を相続財産に持ち戻して遺産分割を行う。この点が、民法と税法の大きな違いだ。
ここで少し法律に詳しい人なら、「2019年の民法改正で、特別受益には10年の時効が設けられたのではないか」と思うかもしれない。確かにそれは誤ってはいないが、正確ではない。19年の民法改正で時効が設けられたのは、あくまで「遺留分侵害額請求」の対象となる特別受益だけなのだ。
どういうことか。遺産分割協議の際に特別受益を主張するときは、何十年前の生前贈与であろうと持ち戻しの対象となる一方で、いったん遺産の配分が決まってしまい最低限の取り分を請求するときには、直近10年分の贈与しか対象にすることはできない。
具体的にどういうシチュエーションが該当するかというと、亡くなった父親が遺言で「特別受益の持ち戻し免除」の意思表示をしていたときなどが当てはまる。特別受益の持ち戻しは絶対ではなく、遺言で「持ち戻しをするな」と書いておけば行えない。だが遺言で持ち戻しの免除をしていても、相続人の最低限の権利である遺留分を侵害することはできないため、遺留分請求はできる。ただそれでも、持ち戻せるのは10年分に限るというわけだ。なかなかややこしいルールだが、覚えておいて損はないだろう。